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押上にはスカイツリーしかないのか

 2012年に東京スカイツリーが開業して以来、注目が高まってきている墨田区の押上地域。近年は、観光業に関心が集まっているが、かつては製造業が押上地域においても重要な役割を担ってきた。今回は押上地域における製造業の特徴と気になった企業、そしてこれから押上地域が目指すべき姿について述べていきたい。

押上地域における製造業の特徴


 上記の墨田区のサイトを参考に製造業の特徴をこれから分析していきたい。まず、製造業の企業数とその業種に着目した。表の上段が墨田区全域、下段が押上地域の数値である。

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 企業数は71社で、業種別では金属製品製造業が11社で最も多くなっている。金属製品製造業は、墨田区全域においても最も多い業種であり、このことからも産業の集積が見られる。企業間での取引の簡素化や効率化といったメリットが考えられることからも非常に良い産業形態であると言えよう。押上地域における製造業の企業数やその業種は、墨田区のこれらの傾向に非常に準じたものであるように感じた。

 次に、企業1つ1つの分析をしていく中で気づいた特徴に関してまとめていきたい。まず、一つ目は、サイトに掲載されている企業の多くが1950年代から1960年代にかけて創業しているということである。このことから、押上地域の製造業者の多くが、戦後の日本経済を技術とその製品で支えようと努めていた企業であることが推測できる。残念ながら、こういったこれらの企業の過去の写真などの記録がインターネット上には少ないため、今回当時の人々の様子に触れることは難しいが、地方から上京してきた若者たちも含め日本人が一体となって国の発展のために尽力していたのだろう。

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墨田の伝統を守るたった1人の製作所

 前置きが長くなってしまったが、ここから本題に入っていく。今回私が押上地域の企業の中で関心を持ったのは、株式会社東京精機製作所という企業である。この企業は1960年に現在の代表取締役の松島肇氏が創業し、その後も1人で製作を続けている企業である。以下、企業のサイトのURLとそのサイトからの引用である。

株式会社東京精機製作所は企業の「未来への想いをカタチに変える」会社です。
1.企画・開発・設計・製造・組み立てまでの一貫体制。
2.新展開による物作り提案。
3.製造コンサルティング。
4.ブランド創生コンサルティング。            引用  http://www.tokyo-seiki.ecweb.jp/index.html


 この企業で作られている主な製品としては、レバー式インデックスプランジャーである。(下記写真参照) これは、しょうがい者用車椅子を中心とした福祉機器や一般機械部品として使用されており、株式会社東京精機製作所の特許品である。メーカーから依頼を受けて作られる工業製品であると考えられるかもしれないが、代表の松島肇氏は以下のように話す。

「福祉機器部品は使う人一人ひとりが相手の製品で、工業製品であって工業製品でない。千差万別で対応の幅広さが求められるもの作りが求められます」                                引用 https://www.techno-city.sumida.tokyo.jp/pickup/detail.php?pickup_id=75

 この松島氏の言葉からも、単なる機器の部品を作るのではなく、一人一人に寄り添ったものを作ろうという思いで製作に励んでいることが理解できる。安価な工業製品の大量生産・大量消費の風潮が高まっているが、部品1つ1つに思いを込めてたった1人で製作を続けている東京精機製作所の姿勢から自分たちの今の暮らし方が本当に正しいのか改めて考えさせられる。

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弊社特許取得製品
シンプル構造で強度も強く、安全設計なレバー式インデックスプランジャーです。
ロックされている時、レバーを不意に押してもピンが抜ける事が無い様な安全設計です。
また、レバーを上げてロック解除したままレバーを反対側に倒しておけばロック解除が保持され、レバーが邪魔に成る事が有りません。
取付けネジ部は強度を充分に取り、汎用性の高い細目ネジを採用しています。
ピン径は、需要が多く使いやすい直径5・6・8を御用意しました。               引用 http://www.tokyo-seiki.ecweb.jp/service.html

 次に、現地調査・そしてインタビュー結果についてまとめていきたいところであるが、現在の社会状況的に難しいため、今回はGoogle社のストリートビューの機能を利用しての調査結果についてこれからまとめていきたい。

 株式会社東京精機製作所は、三階建ての白と黒のスタイリッシュな建物の一部に位置していることがこのストリートビューから分かるだろう。この建物の一階部分に着目すると、ポストと扉が中央と左側にそれぞれ一個ずつあるということから、この建物は、製作所と自宅という二面性をもったものであるということが推測される。墨田区においてよくみられる職住一体型の住居であると言えるだろう。この株式会社東京精機製作所自体は長い歴史を持つ製作所であるが比較的新しい建物であると感じた。

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https://www.google.co.jp/maps/place/〒131-0045+東京都墨田区押上%EF%BC%91丁目%EF%BC%94%EF%BC%91−%EF%BC%95/@35.7093934,139.8162766,3a,90y,185.6h,100.5t/data=!3m7!1e1!3m5!1sN0eBBa773NVb0-Z4DW794A!2e0!5s20130601T000000!7i13312!8i6656!4m13!1m7!3m6!1s0x60188f2a4ba058ad:0xc0e41b7cc060dd40!2z44CSMTMxLTAwNDUg5p2x5Lqs6YO95aKo55Sw5Yy65oq85LiK77yR5LiB55uu77yU77yR4oiS77yV!3b1!8m2!3d35.709295!4d139.8161951!3m4!1s0x60188f2a4ba058ad:0xc0e41b7cc060dd40!8m2!3d35.709295!4d139.8161951
 現在の建物がいつ頃できたものであるのか気になり、ストリートビューで確認できる最も古い年の2013年6月の建物を確認した。およそ7年前のことであるが、現在の建物とは大きく異なる古さを感じさせるような建物が確認できた。近年、この地に東京精機製作所が移転してきたということも考えられるが、認可工場という張り紙が戸にされていることや少し確認できる建物内部の積み上げられた段ボールなどから、この建物が単なる生活用の住居ではなく、工場であるということが考えられることからもこの建物が株式会社東京精機製作所ではないかということが推測できる。

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https://www.google.co.jp/maps/place/%E3%80%92131-0045+%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%83%BD%E5%A2%A8%E7%94%B0%E5%8C%BA%E6%8A%BC%E4%B8%8A%EF%BC%91%E4%B8%81%E7%9B%AE%EF%BC%94%EF%BC%91%E2%88%92%EF%BC%95/@35.7093774,139.8163313,3a,75y,214.18h,93.05t/data=!3m4!1e1!3m2!1sT0WzrrH5LfwiZWrQnbWe3A!2e0!4m2!3m1!1s0x60188f2a4ba058ad:0xc0e41b7cc060dd40

 確認できるデータで2015年3月までは、先ほど確認された建物であった。2016年2月に撮影されたものからは、現在の建物となっている。このことから、現在の株式会社東京精機製作所の建物は2015年3月~2016年2月の約1年間の間に改築されたのではないかと考えられる。また、製作所付近を見ると、工場のような雰囲気の建物はほとんどなく、アパートや住居が多くみられることが分かった。ストリートビューでの調査を経て、製作所の建物の変化や付近の雰囲気を知ることができた。

 ここまで、株式会社東京精機製作所の主要な製品や立地、建物について紹介してきたが、この章のタイトルを改めて思い出してほしい。墨田の伝統を守り続けるというタイトルであったが、ここまでの紹介をみてどこが墨田の伝統を守っている会社なのかと疑問を抱く人もいるだろう。これからなぜ福祉機器の部品を手掛けている株式会社東京精機製作所が墨田の伝統を守っているのか紹介していきたい。

未来への想いをカタチに変える

 「未来への想いをカタチに変える」は前章でも取り上げたが、株式会社東京精機製作所の方針である。この製作所では、「未来への想いをカタチに変える」ために福祉機器部品の開発・製造に加えて2つのことに取り組んでいる。

①中小・零細企業のサポート

 新しい展開を求めて新製品の開発に励む中小企業や零細企業を自らの経験を活かしてアイデアを出すところから、設計や製品化まで支援している。墨田区のインタビューに対して松島氏は以下のように述べている。

「20年前に父が引退して私が継ぎましたが、下請けの機械加工はもう斜陽で、得意先も海外へ生産を移転したため思い切って福祉の方へ事業転換しました。うちは他人に値段を決められる下請けで苦労しましたから、自分で値段をつける自分の製品を作りたいという中小企業の社長の気持ちがわかります」                           
https://www.techno-city.sumida.tokyo.jp/pickup/detail.php?pickup_id=75   

 経営環境に恵まれているとはいい難い中小企業や零細企業が生き残れるようにサポートしていこうという松島氏の想いが伝わってくる。中小企業や零細企業と聞くと単なる下請けでしかないと考える人もいるかもしれないが、中小企業庁の2016年の調査によると企業全体の99.7パーセントが中小企業であることが報告されている。(以下サイト参照)


こういったことからも日本の企業の大部分を占める中小企業の支援というのは、必要不可欠なことである。松島氏のような技術者による支援というのは大変大きな意義を持っているに違いない。

②墨田の伝統工芸とのコラボ

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   これは提灯のデザインを用いて松島氏が製作したインテリアスピーカーである。東京都伝統工芸江戸表具師さんにパートナーとなってもらい、商品化をした。2016年から1年近くかけて設計、開発、試作、組み立て、発送等に協力したという。

「墨田区の伝統工芸もなかなか厳しい環境にあるので、何か元気にするための協力をしたいと思い、伝統工芸を利用する付加価値の高い商品開発ができないかと考えたのです」

とこの製品の開発に関して松島氏は述べていた。この製品を作るにあたっては、多くの職人や製作所の協力があった。

木製の台と天板→草加と八王子の職人
塗装→江東区の工房
ネジ→墨田区の製作所

といった人達である。

そして、このスピーカーの表面に貼る布や紙に関しては、墨田区本所にある創業70年のうるし紙専業メーカーの株式会社エス・アール・エス・スガヤさんや捺染職人さんの江戸小紋布地、呉服店の伝統的な反物などが良いのではないかと考えられた。うるし紙や江戸小紋布地、反物などが現代において身近でなくなってきている中、このスピーカーによってこういった伝統的工芸品が再び注目されるようなきっかけが生まれるのではないかと期待している。

おわりに

現地での調査が難しい中、墨田区の製造業に関してインターネットを活用して調査を行ったり、まとめたりしていくことで理解を深めていくことができ、新たな研究スタイルを見出すことが出来たと感じている。また、墨田区における製造業の歴史や強み、そしてこれからの展望を考えていくなかで、墨田区の魅力を再発見することも出来た。こういった再発見というものが、地域活性化や地方創生といった今の日本で求められていることの実現への1歩ではないかと考えている。今回の墨田区の製造業の研究を通して学んだことを全国各地、世界各国の魅力の再発見のための材料としてしっかり活かしていきたいと考えている。

終わりになるが、今回のこの記事の作成のために御指導頂いた春木教授には改めて感謝の意を表したい。










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