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漁師町美波町のこれからの姿

 美波町は、徳島県南部に位置する太平洋に面した6433人(2019年6月)ほどの小さな町である。少子高齢化が著しく進行している過疎地であるが、町のキャッチフレーズは「にぎやかな過疎の町」田舎に賑やか要素なんてあるのかと半信半疑に思いながらも美波町について学んでいく中で、美波町のここ10年以内の大きな変化として「サテライトオフィス」の存在があることに気付いた。本記事においては、美波町におけるサテライトオフィスの役割や今後のなどについて他の地域と比較しながら述べていきたい。

サテライトオフィスとは

  サテライト・オフィス(英:satellite office)とは、企業本社や、官公庁・団体の本庁舎・本部から離れた所に設置されたオフィスのこと。本拠を中心としてみた時に、惑星を周回する衛星(サテライト)のように存在するオフィスとの意から命名された。主に2つの意味がある。
・勤務者が遠隔勤務をできるよう通信設備を整えたオフィス
・郊外に立地する企業や学校などの団体が、都心に設置した小規模のオフィス                             https://ja.wikipedia.org/wiki/サテライト・オフィス

 サテライトオフィスには、上記の通り一般的に2つの意味があるとされているが、美波町におけるサテライトオフィスは前者の「勤務者が遠隔勤務をできるよう通信設備を整えたオフィス」のことである。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、コロナ禍の働き方としてテレワークを前提としたサテライトオフィスの設置を進める企業が増えるのではないかと期待されている。また、サテライトオフィスには、常駐の人間を配置せず短期定期に利用する「循環型」、常勤の人間を配置する「常駐型」の2種がある。

  総務省の地方公共団体が誘致又は関与したサテライトオフィスの開設状況調査(https://www.soumu.go.jp/main_content/000713091.pdf)によると、サテライトオフィスは開設総数は822箇所であったが、現在は654箇所となっていることがわかる。とはいうものの、平成25年度の114箇所と比較すると近年増加傾向があると言えるだろう。また、都道府県別に見ると、最も多いのが北海道で74箇所、その次に美波町のある徳島県67箇所となっている。北海道は広大な面積で広々と勤務できたり、観光名所も沢山ある場所であったりと人気な理由が分からなくもないが、徳島県が多い理由は謎に思う人も多いだろう。実は徳島県は、2011年のテレビ局の放送の地上デジタル化に伴い、県内全域に光ファーバー網を整備したのだ。そのため、ブローバンド回線の利用量が少なく、通信速度は都心部の5〜10倍とされているのだ。こういった通信環境の良さから、サテライトオフィスの設置を考える都心部の企業も少なくない。

美波町におけるサテライトオフィスの現状

 総務省の調査(https://www.soumu.go.jp/main_content/000713168.pdf)によると、徳島県のサテライトオフィス67社のうち20社が美波町にある。(現在19社)以下、美波町サテライトオフィスのホームページ(https://satelliteoffice.town.minami.lg.jp/companies)を参考により詳しい現状をまとめていく。

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 美波町のサテライトオフィスをまず、「循環型」と「常駐型」に分けて考えて分析してみる。美波町のサテライトオフィスの特徴としては、常駐型よりも循環型が多いことが挙げられるだろう。サテライトオフィスでの勤務のために、美波町へ完全移住というスタイルが一般的ではないことが推測される。

 次に、19のサテライトオフィスの本社の場所から美波町にサテライトオフィスを持つ企業の特徴を分析してみる。地域別に分けてみたところ、最も多かったのは東京都で7社、次いで大阪府で4社、美波町で3社であった。国内のみならず、ロサンゼルスに本社を持つ会社のサテライトオフィスもあった。

 次に、美波町にサテライトオフィスを設置した経緯について調べてまとめてみた。19社中10社は自分や家族の故郷であることや元々よく訪れていたことがきっかけとなってサテライトオフィスを設置していたという結果になった。一方で、徳島県に光ファイバー網が設置されたことを機にサテライトオフィスを設置しようという企業や海の近くで働きたいという企業もあった。サテライトオフィスを開設する以前に、美波町について知っていたという事例が多いと予測される。

 最後に、19のサテライトオフィスを業種別に分類して美波町のサテライトオフィスの特徴を分析してみる。最も多いのは、ソフトウェア・情報通信業で美波町の通信環境の良さを活かすことの出来る業種である。次に多かったのは、意外にも建築業で、美波町の空き家を改修したり、自然を活かした建築を作ったりといった企業が多かった。広告業もweb広告やPVの制作などの会社であり、インターネット環境が関連しているといえる。

他の地域との比較(神山町との比較)

 今回は他の地域との比較材料として、同じ徳島県内の神山町をとり上げて考える。美波町が海の町とすると、神山町は山の町であり真逆の地域といえるが、実はどちらの地域もサテライトオフィスの導入を積極的に行っている。神山町は、徳島県で最初にサテライトオフィスを設置した町としても知られており、現在は16の企業がサテライトオフィスを神山町に設置している。先ほど同様、神山町におけるサテライトオフィスの現状についてまとめていく。

 大阪経済大学経済学部 梅村 仁教授の「地方都市におけるIT中小企業の集積と地域活性化〜徳島県神山町を事例として〜」(https://www.doyu.jp/research/issue/yearly/23/021-033_umemura.pdf)を参考にまとめたところ、神山町においては、「循環型」サテライトオフィスよりも、「常駐型」サテライトオフィスが多く、長期間の滞在を決めて働きに来ている人が多いと考えられる。循環型が多かった美波町とは異なる傾向と言えるだろう。なぜこのような違いが生じているのか気になり調べてみたところ、神山町には「滞在」を促す制度が多く整備されていることに気がついた。関西広域連合の神山プロジェクトに関する文書(https://www.kouiki-kansai.jp/material/files/group/7/1490151050.pdf )によると、「ワーク・イン・レジデンス」や「神山塾」など滞在型を促すものがあることが分かるだろう。
神山塾については、

若年の移住者を呼び込むため、「求職者支援訓練(厚生労働省)」を活用し、半年間の滞在型人材研修を実施する

と説明されており、卒業生の半分が神山町に移住しているという結果が出ているという。中には誘致したサテライトオフィスに就職する者もいるという。


 次に、神山町にサテライトオフィスを 16企業の本社がどこに位置しているのか分析してみた。驚くべきことに、神山町で新たに設立された企業以外、全てが東京都に本社を持つ会社であった。東京都の企業に向けて積極的に誘致を行ってきたことが推測される。

 次に、神山町にサテライトオフィスを設置した理由について各企業のホームページ等を参考にまとめてみた。美波町が自分や親の故郷であるからというきっかけが多かったのに対し、神山町はGV(グリーンバレー)と呼ばれる地域団体の支援が手厚かったためや友人や知人の誘いがあったためなど、これまで縁が無かったにも関わらず神山町への設置を決めた企業が多くあったことがわかる。関東での災害時を見据えてという理由はサテライトオフィスの在り方として新しい考え方であるように感じた。

 最後に、美波町と同様に16の企業を業種別に分けて分析してみる。最も多いのは美波町と同様ソフトウェア・情報通信・IT関連の企業で7社、次に多いのはデザイン関連の企業である。サテライトオフィスを神山町に設置している企業の業種に関しては、美波町も神山町も大きく変わらないことが分かった。

美波町におけるサテライトオフィスの課題とその解決策

 美波町の現状を調査して、また神山町と比較して、美波町におけるサテライトオフィスの課題を3つピックアップし、その解決策について私なりに考えてみる。

課題1: サテライトオフィスの誘致が成功していないのではないか

 神山町にサテライトオフィスを設置した企業と比較して、美波町は、美波町が自分や親の地元であることやゆかりがあったことが理由に設置した例が多いように感じた。どちらの地域もサテライトオフィスを設置する企業への開設業者支援制度は導入しており、企業に対して金銭面での支援は実施しているが、金銭面以上の支援体制が充実しているかが異なるのでは無いかと考えた。神山町に関しては地域団体の支援や就業支援制度である神山塾短期の滞在経験からサテライトオフィスの設置を決めた例が多いように感じた。神山町の移住支援やサテライトオフィス設置に関する特設ホームページ「イン神山」(https://www.in-kamiyama.jp/recruitment/)を見るとわかるのであるが、サテライトオフィスに関して記載されているホームページでありながら、サテライトオフィスを全面的に押し出すのではなく、まずは何か神山町の事業に参加してみようと思わせるようなホームページである。徳島県の小さな町のことを知らず、サテライトオフィスの設置を決断する事業主はいないと考えられる。神山町のホームページに記載されているような気軽に参加出来る短期型のプロジェクト等を経て、その町を知っていく中で決めていくものではないだろうか。たしかに、美波町のサテライトオフィスに関する特設サイトに「美波町の生活」(https://satelliteoffice.town.minami.lg.jp/blog/archives/information/720)といった実際に移住した人の声が掲載されていてこの町でサテライトオフィスを設置するとこういった生活を送ることが出来るというのがなんとなくは分かる。しかし、自分で実際に体験することはその何倍も大きな意味を持つのではないかと考える。

 また、神山町では、GV(グリーンバレー)と呼ばれる地域団体が企業の誘致に積極的に働きかけていたのに対して、美波町においては企業を通した誘致がメインとなっているように感じた。誘致は企業による努力ではなく、地域住民をはじめとした地域の人々の理解や協力があってからこそ成功するものである。私たちは、バーチャルフィールドワークを通して美波町の現状やサテライトオフィスに関する取り組み、第1次産業従事者の人達の声を聞いているため、美波町のサテライトオフィスや産業形態に関して理解をしているが、地域住民の中にはサテライトオフィスに関してしっかり理解していない人もいるのではないかと考えられる。地域住民や団体に誘致への協力を得られるような工夫も凝らしていく必要があるように感じた。

 そこで、こういった問題の解決策として以下の3つのことを考えた。

1. サテライトオフィス設置希望企業へ短期型の滞在経験を出来るような企画を設け、サテライトオフィス誘致特設ホームページで告知する

2. 従来の地域住民へのサテライトオフィスに関しての情報提供

3.   地域一体となったサテライトオフィスの誘致をするための団体結成

 
まずは、美波町のことをよりよく理解してもらうきっかけから都心の人々に提供していき、良さを知った人達にサテライトオフィスの設置や移住を検討してもらうという流れを整えていくのが良いと考える。

課題2: 定住ではないため地域活性化に繋がらないのではないか
  美波町のサテライトオフィスと神山町のサテライトオフィスを比較した際大きく違っていた点であるが、美波町のサテライトオフィスは「循環型」が多いという現状があった。「循環型」は、本社を都心に構える企業にとって便利な型式のオフィスであるかもしれないが、地域活性化にはあまり繋がらない。たしかに、短期間の滞在であってもその地域に食事やお土産代などとしてお金をおとし、その地域に貢献することもあるだろう。しかし、その地域の少子高齢化を抑止や地域貢献はあまり見込めないだろう。

 私なりの解決策として2つ提案したい。

1. 「循環型」オフィスから「常駐型」オフィスへの移行を推進

2. 企業を誘致する際に居住環境の整備の支援をより積極的に行う

 「常駐型」への移行の課題として、家族を持つ父親や母親の場合、家族全員での美波町への移住というものが考えられる。教育制度や子育て制度の充実などもサテライトオフィスの誘致と同時に行う必要があると考えられる。

まとめと考察

 「サテライトオフィス」という考えが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うリモートワークの一般化によって、実現不可能なものではないと気づき始めた企業も多いかもしれない。しかし、都心に住む人々にとって田舎に違いを見出すことは容易ではないだろう。だからこそ、「サテライトオフィス」設置を考えてもどこがいいのか疑問に思いなかなか設置に踏み切れないのが現状であるように思う。そういった中で、いかに町の魅力を伝え、誘致していくかが「サテライトオフィス」を誘致したい地域の課題であるだろう。「田舎」「四国」などと一般化されがちであるが、動画や文面では伝わらない良さというものが、私は地域ごとにあるのではないかと考えている。だからこそ、短期でもその地域に訪れる機会を都心の人達には得てもらいたい、そしてその良さや魅力に気づいて欲しいと考える。
 漁獲量が以前と比較して減少していたり、漁船の需要が無くなったりしてきているといえども、「漁師の町」であった美波町が完全に「サテライトオフィスの町」となることは不可能であろう。美波町には美波町をこれまで支えてきた人達、産業が生み出した美波町らしさというものが残っているのではないかと思う。「サテライトオフィス」の誘致を図るにしても、その美波町らしさというものに共感してくれる人達が美波町で働いていって欲しいと切に願っている。美波町らしさを失うことなく、今後もサテライトオフィスを設置したいと日本中の人達が思うような町づくりを進めていって欲しい。




 

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