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酒にタバコ、そして「ビンロウ経験は?」

大学からメールが届いた。

新学期開始までのToDoリストが書かれていて、そのうちの一つが「健康檢查」。結核の罹患を調べる胸部のX線検査を受け、麻疹やおたふく風のワクチンも接種しなさいとのこと。検査済み・接種済みなら医師の証明書提出でもOK。未検査・未接種なら決められた日付に大学病院に来なさい、という内容だった。

さっそく附属病院の予約サイトを開く。が、健康習慣を記入する欄で手が止まった。

(1)どれくらい飲酒しますか?
 □毎日 □週3〜6日 □週1〜2日 □週1日未満 □全く飲まない
 (1日あたりの酒量:____)

(2)どれくらいタバコを吸いますか?
 □毎日 □週3〜6日 □週1〜2日 □週1日未満 □全く吸わない
 (1日あたりの本数:____)

(3)betel nutの喫食経験はありますか
 □ある □ない
(スクショ撮るの忘れたのでうろ覚えベースです)

酒とタバコは日本の健康診断でもよく尋ねられる。けどbetel nutってなんだ? わからないが、どう考えてもそんな経験はないので調べるまでもなく「ない」にチェックを入れた。このときはこれで終わったのだが、思わぬ場所でこのbetel nutに再会する。

それは台南市美術館で蔡草如という画家の企画展にたまたま入り、ぶらぶらと作品を見て回っていたときのことだった。

「檳榔姑娘」というタイトルの作品があって、解説を読んでみると……

Betel nut ladies are unique profession in Taiwan. Since around the 1980s, the profession of betel nut vendor has become a stereotypical image of a young woman dressed in sexy and erotic clothes who sold betel nuts at streetside stalls.

訳:
「ビーテル・ナッツ・レディー」というのは台湾特有の職業である。1980年ころから、ビーテル・ナッツの販売者というと、セクシーでエロティックな服装を身にまとい、街角の露店でこの商品を売る若い女性のことを指すようになった。
英語は展示内容の原文ママ、日本語訳は適当

いや英語のほう読むんかい! というツッコミは置いておくとして、ついさっき部屋で見かけた「betel nut」という単語が登場したのである。

興味を惹かれて調べてみると、こういうこと。

betel nutは中国語では「檳榔(bīnglang)と呼ばれる植物。日本語では「ビンロウ」。東南アジアや太平洋地域に分布するヤシ科の植物で、石灰と混ぜて実を噛むと、カフェインやニコチンに似た興奮・覚醒効果がある。まあ要するに麻薬の一種ですな。

味はとっても苦く、噛んだあとに唾と一緒に吐き出さなくてはならない。吐き出す唾は独特の赤褐色を帯びていて、街の美観をいちじるしく損なう。また最近では発ガン性があることが分かり、さすがに愛好者は減ってきた。それでも、眠気覚ましに使いたいトラック運転手など肉体労働者のあいだでは、いまも根強い人気がある。

作品の解説にもあった「ビーテル・ナッツ・レディー」には風紀上の問題もある。このため台北市をはじめ台湾の主要都市では販売制限の動きが広がっている――。

「姑娘gūniang」は未婚の女性を指すので、この作品のタイトル「檳榔姑娘」は「ビンロウ売りの娘」みたいな感じだろうか。

この画家はどちらかというと、同じビンロウ売りでも、男性客に媚びるのではなく、あくまで毅然と、職に誇りをもって働くの女性の健気さや美しさを描きたかったもよう。まあ、いずれにしても、このbetel nut、病院の問診事項に入るくらい、あるいは芸術作品の題材になるくらい、台湾社会に深く根ざした存在であることは理解できた。

そう言われて街を歩いてみれば、たしかにあちこちに「檳榔」と看板を掲げた店があるのである(セクシーでエロチックな服装の女性は見当たらない)。

知識があると街がちょっと違って見える。こういう気付きって、新しい知識を学ぶときにしか味わえない、最高に楽しい瞬間だ。


【2022/09/04の日記】

朝食後、午前中は「台湾にいるのに何やってんだ」と言われそうだが大谷翔平選手の先発試合をみながら、洗濯や資料の整理などの作業をする。ほんと台湾に関係ないけど、すごく見てて楽しい試合だった。

近くの公園をぶらぶらしながら、スタバへ。会社に提出するリポートを書いたり、中国に関する書籍を読み進めるなどした。

夜はもともと知り合ったばかりの台湾の方と夕食に行くかも、という話があったが、都合があわずキャンセル。ひとりで食べる。

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