妖怪・布団干しばばあ
母T子のことである。
20~30年前は今よりも男女の家事役割分担が女性に偏っているだけでなく、世間様の目というやつももっとうるさかった。
大人になって母T子の行動を振り返ると、世間様の目というものからの呪縛、そしてその反動みたいなものを感じる。
件の「妖怪・布団干しばばあ」は週末・休みの日に出没する。生息地は主に寝室とベランダだ。
両親は共働きをしていたため、平日の家事はおのずと必要最小限となっていたわけだが、後ろめたさを感じた母T子が休みの日になると鬼気迫る勢いで行う家事、それが「布団干し」だったのだ。
朝から日が差そうものなら即ベランダの手すりを拭き、布団を干し、布団干しでばんばん叩く。私が布団だったら、軽く恐怖を覚えるほどだ。
そう、まさしく、鬼気迫る勢いで。
曇ってくると慌てて布団を取り込み、日が差してくるとすぐに布団を干す。そう、くどいようだが、鬼気迫る勢いで。
そんな母T子の娘の私もまた、布団干しは割と頻繁にするし、布団干しに快感を覚えるたちである。
鬼気迫る勢いこそないものの、天気の悪い週末が続くと残念だし、平日に晴れると布団干しチャンスを逃したような口惜しさを感じる。
ちなみに、母T子のビジュアルは樹木希林に似ている。特に鬼気迫ると樹木希林を掛けたわけではないし、私は樹木希林には似ていない。