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幸福論(子宮癌とボブスタイル)

子宮癌ステージ4の男前な女美容師(羊子)は、カットの腕っ節がよい。
絶妙なハサミさばきで、シャキシャキッと髪を切るリズムカルな音が頭の上でなっている。
丑婆は40年近くおかっぱ頭である。前下がり刈り上げボブスタイルがトレードマーク。
見知らぬ女性に何度か、「素敵なボブですね」とな「綺麗なおかっぱ頭」とヘアスタイルをほめてもらうことがあった。
「素敵な女性」とか「綺麗な女性」とかはいわれない(笑)
しかし、見ず知らずの人に髪型をほめらるとは凄いことだと思いませんか??
羊子に髪を切ってもらうことになるきっかけは、娘のヘア担当であった。
私は違う美容室にいっていたが、地味な美容室はつぶれてしまい、何軒か違う美容室にいったが、手が合わずに美容師ジプシーをしていた。
手か合わないってわかりますか?
髪の毛を触られるのに、手が合わないと昔から気持ちが悪いのです。
丑婆は男性美容師はダメなのです。
何度か男性美容師もトライしたのですが、男性の髪を触られる手触りが、何故か嫌いなのです。
髪を切る時の、あの密着姿勢もどーも苦手であります。
髪から頭や顔を触られるのが嫌なのです。(まだいうか〜笑)

娘の紹介から始まり、羊子にカットをしてもらって6年ぐらいなる。
自分の店のオーナーである。歳は
45歳ぐらいかな〜(聞いていない)

美容協会の話やら、自分の親の話しやら、パーマ液の調合に命をかけている話とか、カットのハサミの入れ具合だの角度だの、頭の形と髪質のバランス比だの、聞いてもいないに勝手に話だすのである。笑
丑婆が合いの手を入れるから、余計に盛り上がるかもしれない。
シャキシャキと髪を切りながら、
ベラベラと喋っている。
不思議なことに、腹が立たないのである(イラッとすることもあるが
許せる)
私は羊子の手の感触が好きなのである。羊子の指の感じや手のひらの感じが大好きなのです。
やっぱり女性に髪を切られたり、触られることが好き。
というより、羊子の手が好きなんだろう。
(少しエロスっぽいかな笑)

3月にカットに行った時
カットが終わるなり、いきなり
羊子は「子宮癌なんでしばらく療養に専念します。いつになるか、わからないけどしばらく休みます。他のスタッフが対応しますが、スケジュール的難しいくなることもあるから、他の美容室にいってもらうとありがたいです。」と淡々とと告げた。
私は、てっきり子宮癌なら切除したら直ぐ復帰できる程度のものだと思っていた。
丑婆
「子宮癌なら大丈夫だ!3か月も経てば、元に戻るよ。わかった〜
他の美容室に行ってみるわ」
羊子
「よろしくお願いします。」と
言って頭を下げて、見送ってくれた姿をみると、腰を痛そうに支えていた。
ん?けっこう大変なのか?と思ったのが最後で、彼女は子宮癌の治療に入った。
美容室ジプシーがはじまり、2回ほど違う美容室にいったが、いやはや、手が合わずに気持ちわるい。
男性美容師にも、チャレンジしたが、あーあー嫌いだわ。
とても感じのよい、コミュニケーション能力が、高いおじさんだっが(牛婆より若い)が、ダメ、手があわない。
大手の美容室の支店の女性スタイリスト(上の技術者のことをそう呼ぶそうだ……)のカットは、悪いけど、その時だけカッコが良い。1週間も経てば、おかっぱ頭でなく、きのこの山になる(笑)
サロン系のお高い値段の割に、本当の技術がない。
損した気分になる丑婆である。

結果的に羊子の後輩女性スタッフに切ってもらうことにした。
羊子の後輩は、キャピキャピらんらんの42歳(ご本人談)タイプで羊子の職人肌と男前感はまるでない。
子育てのことや、働くママである共通点で話は盛り上がった。羊子の後輩でもいいかなと感じた。
手触りがよいのである。
そう
カットしてもうらう、手触り良かった。
ただ、カットのリズム感がよろしくない。シャキシャキと音も歯切れがない(苦笑)それはご愛嬌である
可愛いボブヘアに仕上がった。

羊子の後輩によると、羊子の子宮癌は、あまりよろしくない様子であった。入院はせずに、通院での抗がん剤治療である。切除できる状態ではなく、抗がん剤治を次々と変えてゆく治療のようで、ようやく最後のメドが、ついてきたようだ。
後輩スタッフが言うには
「羊子さん、同じ美容室の先輩なんです。すんごく怖かった。くわえタバコをして、カットとか教えてくれてたの。でね、独立するから、誘われてついてきちゃったのよ。羊子さんは怖いけど、すごく怖がりなんです。今回の子宮癌もう少し早く病院にいっていれば良かったのに、怖かったんですよ。」
羊子が、くわえタバコでカットをする姿は、イメージがすぐついた(笑)そんな、男前な女性である。今は吸っていないが、くわえタバコはよく似合ったはず。
羊子は、15歳で美容室で修行をして、美容師になった。美容学校にもいかなかった。15歳から美容師になると決めていたらしい、高校なんていく気がしなかったと
聞いた。大手の美容室の店長や美容協会の講師も務めているとのことを、羊子は勝手にベラベラと、シャキシャキとハサミのリズムとともに話していた。
そういえば、子宮筋腫とか癌の話は言わなかったかな〜
つまり羊子の弱音を吐きたくない女性だった。羊子の話のオチは、成功と努力の話だった。不思議と自慢はしない、そこも男前な女性である。男前な女性なら、体調の変化を、いちいちお客様にゆうわけがないだろう。

羊子の後輩に私はいった。
「羊子さんに言っておいて、車椅子に乗ってでもいいし、たとえ、手が動きにくくて、上手く切れなくてもいいからさ、いいよ、ガチャガチャのボブでもね。私は羊子さんに髪を切ってもらいたいのよ。
羊子さんに髪を切ってもらいたいのよ。」
羊子の後輩は
「わぁ〜羊子さん喜びますよ。いっておきますね〜」と後輩の可愛いキノコボブスタイルを2回、経験した。

抗がん剤治療開始から7か月後、羊子は、週一回、日曜日の午前中だけ、復帰することになった。
丑婆は、すぐに予約をとった。
久しぶりにあった羊子は、少しふっくらしていた。抗がん剤治療の浮腫であろうと想像した。
流石だな、羊子にピッタリとあう
肩までのボブスタイルのカツラ(ウィッグ)をつけいた。
多種抗がん剤治療、髪の毛はぬけているだろうと思っていたが、センスがいいカツラ(ウィッグ)をつけていた。

羊子
「お久しぶりです〜」
丑婆
「良かったね〜 待っていた!」
羊子 
「すいませんでした。今日どうします?」
丑婆
「いつものように、男前な前下がり、後ろ刈り上げボブ(おかっぱ)頭で、シャキっと切ってください。」
羊子
「そうでしたね。わかりました。」
羊子は、いつも通りにベラベラと
話しだし、シャキシャキとハサミを動かしだした。この感じ、好きだわ〜
入院直前から現在までの、カラダの状態も赤裸々に話だした。
生理ではない不正出血が続いていた、その量があまりに多くなってきたので、病院にいくと、がんセンターを紹介された。検査結果は
子宮癌ステージ4であり、子宮摘出も意味がない、リンパ転移もしている。オペをして取り切れる状態ではないと言われた。
抗がん剤は6つの治療があり、効いたところで中止となるらしいが、6つの治療、全てすることになった。

羊子はその治療が終われば、違う方法があると信じていたらしい。
しかし、医師曰く、やること全てやりました。あとは、やることは
ありません。と言われたらしい。

治療と方法がない…………

羊子は愕然としたらしい、抗がん剤が終われば、次の治療があると
信じていたからだ。

現在は、子宮癌は小さくなり、転移や増殖もしていないので、予後経過観察となり、医師からは、仕事復帰も大丈夫と言われた。

癌専用の痛み止めを毎日服用するようになった。
この薬の副作用で、悪夢をみるようになり眠るのが怖くなった。悪夢とは、羊子が愛犬を食べるなど
ホラー映画のような夢をみることだ。
抗がん剤の後遺症として、手足の痺れは一生続くこと。
体力は低下して、最初は家の周り
一周も出来なかったが、今は少しずつ回復してきた。
仕事も精一杯で、家に帰ると玄関で倒れたこむこともある。
朝起きると、手がこわばって動かず、肘で手や掌をマッサージしてから、お店にくる。
感情や情緒が不安定で、なんでもないのに、泣いてしまう。
そんなことを、髪をシャキシャキとリズムカルに切りきりながら話しだした。
羊子はスタイリストだから(美容室の上の立場)洗髪は、下の美容師がするはずなのに、洗髪までしてくれた。
丑婆
「大丈夫〜大変じゃないの無理しないでね」
羊子
「やりたいんです。大丈夫〜」
羊子の洗髪の指は、しっかりとした、指の強さで気持ちがよい。
おまけに、肩のマッサージまでしてくれた。
羊子は、ドライヤーで髪を乾かし、仕上がりを確認するため最後に鏡を丑婆に渡した。

羊子「後輩は、髪をすきすぎていて、丑婆さんの頭の形や髪質にあっていないし、あの子、髪をすくのが好きなんですよ。笑 えーと
今回は、私流には、まだならないけど、ボブスタイルって髪をすくんじゃなくて、重みをだしたほうがいいんです。次回のカットで、丑婆さんらしいボブスタイルになります。」
丑婆はウンチクはわからないが、
羊子のカットのシャキシャキ音とリズムが好きなのだ。
そして、羊子の指ざわりが心地よいのである。
なにより、羊子のボブスタイルで
突然、見知らぬ人に声をかけられることを、期待しているのである。
羊子のボブスタイルは丑婆にとって最高はおかっぱ頭なのだ。

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