第1回「再エネ主力電源化に向けた挑戦者たち」座談会 2021年03月15日
株式会社レノバ 代表取締役社長CEO 木南 陽介様
ネクストエナジー・アンド・リソース株式会社 代表取締役社長 伊藤 敦様
イーレックス株式会社 代表取締役社長 本名 均様
(以下、敬称略)
<各位のプロフィール>
木南 陽介 Yosuke Kiminami
株式会社レノバ 代表取締役社長CEO
京都大学総合人間学部人間学科卒業
学生時代から環境に対する問題意識を持ち、環境政策論と物質環境論を学ぶ。
大学卒業後は、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンを経て、2000 年 5 月にレノバ(旧社名:リサイクルワン)を設立。2020年に創業20周年を迎えた。
伊藤 敦 Atsushi Ito
ネクストエナジー・アンド・リソース株式会社 代表取締役社長
自然エネルギーの普及と持続可能な社会の構築を志し、2003年にネクストエナジー・アンド・リソース㈱を設立し代表取締役に就任。使用済み太陽電池モジュールリユース事業の立ち上げを始め、太陽光を中心とした独自の自然エネルギー事業を展開する。2013年にネクストホールディングス㈱を設立し代表取締役に就任。2017年に米国Infiswift社に出資し、分散型エネルギー資源の活用を目的としたIoTプラットフォームの共同開発に着手。2019年にJPEA(一般社団法人太陽光発電協会)理事に就任。同年、複数のユーティリティー企業や蓄電池メーカーとの提携を進めており、主力電源としての再生可能エネルギーの普及に向けた事業を展開している。
本名 均 Hitoshi Honna
イーレックス株式会社 代表取締役社長
慶応義塾大学法学部卒業
東亜燃料工業株式会社(現 ENEOS株式会社)にて主に企画部門や新規事業開発などに従事、2000年に設立間もないイーレックスに代表取締役副社長として入社、2016年に代表取締役社長に就任。電力自由化の黎明期より電力小売事業を推進し、2013年には日本初のPKS専焼のバイオマス発電所を運開。以降も米国との電力小売JVの設立や、沖縄への初進出、シンガポールでのバイオマス燃料調達拠点の設立など、会社のミッションである「新たな発想と行動力で、未来を切り拓く」を自ら体現し、上流から下流までの再エネ電力事業を展開している。
竹内:私は2020年を「カーボンニュートラル元年」と呼んでいます。パリ協定の枠組みがスタートし、欧州は2050年までにすべてのEU加盟国が気候中立になることにコミットし、中国は2060年のカーボンニュートラルを目標として掲げました。日本は菅首相の所信表明演説で2050年の温室効果ガス排出量実質ゼロを掲げ、米国も気候変動対策を重視するバイデン氏を大統領に選出したわけです。国内外でエネルギー変革の波が起きつつあり、再生可能エネルギー導入に向けた機運はこれまでになく高まっています。しかし、FIT導入後急速に伸びた太陽光発電産業も、玉石混交の市場となっており、責任ある「主力電源」を目指すには心もとない状況。このシリーズは、どこから見ても再生可能エネルギーの主力電源化に責任をもって取り組んでいる事業者の方にお集まりいただき、再エネ主力電源化に向けての挑戦を議論するもの。第1回の今日は、「再生可能エネルギーの低コスト化・産業化に必要な取り組み」について議論したいと思います。
<各社の取り組み紹介>
伊藤:弊社は2003年に創業し、太陽光発電を中心に幅広く事業を展開してきました。FIT前から取り組んだ古株としての自負があり、太陽光発電を健全に普及させるために中古パネルの診断技術や、グリーン電力証書の取引など幅広くやってきた経験が強みだと思っています。いわば「筋金入り」の再エネ事業者です。そのため、再エネの可能性を信じ、これをやりたいという志を持った人材が集まってくれています。
これまで、モジュールは1.2GW、地上設置は2GW、モジュール洗浄も1GWの実績があります。住宅蓄電池ももうすぐ納入が1万台を超え、リユースパネルの販売も5万枚となっています。これらの知見が幅広く役立っています。
これから我々が成し遂げようとしていることを一言で表現すれば、「最強の電源を、最速で」ということ。太陽光発電の強みは究極の分散電源であることで、需要家側の自家消費で普及させていくことが重要ですが、初期投資のハードルがあります。それをTPO(第三者所有)モデルで提供することが最速での普及につながると考えています。特に大口需要家において再エネのニーズが高まっていますが、本業への投資がメインとなるため、TPOのスキームは相性が良いと考えています。
こうした観点からTPOモデルに関心を持つ大手エネルギー事業者も多くいらっしゃいます。我々の太陽光発電や蓄電池に関する技術力やフットワークの軽さと、彼らの地域での信用や体力、そして電力システム全般に関わる深い知見がコラボレーションすることで、非常に大きな推進力になると思っています。現時点で大手エネルギー事業者6社と資本業務提携で深く連携を始めており、それ以外の事業者数社ともパートナーシップを提携して取り組みを推進しています。
当社が目指すのは、単なる機器の導入だけではありません。TPOビジネスのプラットフォーマーになることを最近強く意識しています。ハードウェアを売るだけでなく、それを使いこなすためのソフトウェア、使っていく上でのサービスも含めて提供することを考えています。
TPO事業者の裏方として設置、O&Mなどを提供していくことに加えて、今後は蓄電池の併設がデフォルトになっていくと思われるので、マルチユースでピークカット、ピークシフト、VPPなどでも使えるように踏み込んだビジネス展開をしていきたいと考えています。
その他の尖った取り組みとして、屋根建材一体型で駐車場向けに両面受光パネルを使ったカーポートの販売を開始しました。屋根置きに近いコスト水準で、大規模で需要地に一番近い駐車場における太陽光発電の拡大を進めています。また、昨年10月には米国IT企業であるInfiswift Technologiesの最大株主になりました。蓄電池活用のためのソフトウェア開発を進めていきます。さらに、今年3月にはCATLセルを使った産業用蓄電池をリリースしました。できれば今年の夏ごろには住宅用TPOを狙ったさらに安い住宅用蓄電池を発売したいと考えています。再エネ社会の拡大に向けて走り続けている、といったところでしょうか。
木南:弊社はビジネスを通じて環境問題の解決に貢献することを目指して2000年に創業し、環境・エネルギー分野の調査・エネルギー事業から出発しました。プラスチックリサイクル事業を経て、現在は再エネ発電所の開発・運営専業です。太陽光は2012年から、バイオマスは2014年から手がけており、風力、地熱なども含めて、グリーンかつ自立した電源の開発を進めてきました。
現在運営・建設中の発電所は20ヶ所で、合計設備容量が約910MWで、これに開発中の案件を含めると、国内外25ヶ所の全設備容量は約1.8GWあります。一定程度の規模があり、難易度が高い案件を手がけるのが弊社の特徴。業界に風穴を開け、日本とアジアの再エネ普及、エネルギー変革に関わる時計の針を少しでも早く回す役割を果たしたいと思っています。そうしたところから、シンガポール、ベトナム、韓国に拠点を置いて、アジア地域にも展開しています。
今後特に伸ばしていく分野は、国内の洋上風力市場です。国は、2030年までに10GWの案件形成を掲げており、この実現に貢献したいと考えています。もちろんこれは我々だけでできることではありません。残念ながら現時点ではタービンメーカーも日本にはなく、港湾の整理もまだまだこれから。菅首相のカーボンニュートラル宣言によってビジョンが掲げられたことはエポックメーキングな出来事でしたが、ここから、政府が提示した国全体のロードマップを、地方自治体や、発電事業者やメーカー、施工業者などの産業界も幅広く共有した上で、密に連携し、具現化していく必要があります。洋上風力の産業化という点で、残念ながら現在の日本は若干出遅れている感が否めませんが、十分挽回の余地はあるでしょう。
そして、弊社が日本の次に取り組むのはアジア、中でも東南アジアの電源開発であり、中期的に3GWまでは積み上げたいと思っています。
足元で一番忙しいのがバイオマス発電所の建設、次が洋上風力、その先に海外という位置付けで考えています。将来的なコスト低減、産業形成は国家的な重要課題だと思っています。
本名:自分はエネルギー事業とは長くかかわってきました。1973年に入社し、石油・石油化学に関わる仕事をしてきました。電気事業に関心を持ち始めた時期に、エンロンの登場に衝撃を受けたんですよ。エンロンは1999年末破綻しましたが、エネルギーの安定供給を至上命題とする世界に育った身からすると、あの行動というのは驚きであったし、新鮮でした。自分の中で「エネルギー事業とは」と考える上で非常に参考になりました。
電気事業の基本は、しっかり電気を作って供給することだと理解しています。そのためには、燃料調達からトレーディング、販売までを手がけることが利益の最大化とリスクヘッジになると考えました。燃料は商社調達がメインですが、現地でのJV設立による自社調達も行っています。
これまで開発したバイオマス発電はFITメインですが、今後はFITに頼らずに低炭素で競争力のある電源を開発していくべきと考えています。発電事業とは即ち燃料事業と考えているので、燃料調達に知恵を絞っています。
小売事業は数年前に米国企業と提携もしましたが、トレーディングと小売が独立して採算を取ることも検討しています。
今後の事業展開としては、大規模のバイオマス発電所を非FITで開発したいと考えています。エネルギーはコストが極めて重要です。いかに安価で電気を販売するかを最重要として考えています。もちろん提供する価値は正当に評価されなければならないので、kW価値、kWh価値、環境価値が適切に市場で評価されることが必要ですが、電気を安定的に安く供給するのがエネルギー事業者の使命です。
国内のバイオマス発電事業者として初めて、6基体制を構築します。次に燃料の開発に取り組み石炭発電へのバイオマス燃料混焼・専焼もやっていく予定です。燃料調達のために東南アジアでの事業検討をしていた関連で、カンボジアにおいて水力発電プロジェクトも手がけるようになっています。相手国としてもウェルカムであるため、今後2国間クレジットも検討し、国内でCO2フリープランの販売を拡大するとともに環境事業も推進していきたいと考えています。
政府が発表した2050年のカーボンニュートラルを目指す方針については、目標としてはいいが、法整備や税制含めて具体的な対策に必要な検討はこれからという認識です。大型バイオマス発電はFITを使わなくても経済的に成り立つようになってきています。コスト削減には燃料調達が肝要ですが、8円台を目指すやり方はいくつもあります。石炭火力のフェードアウトに合わせて、混焼に持っていくことなども検討しており、実証実験も検討中です。ニューソルガムを新燃料とすることも考えており、量的にもコスト的にも十分可能と考えています。
<政策に関する期待と課題>
竹内:2050年カーボンニュートラルを目指すという政府ビジョンに対しては皆さん高く評価されていましたね。米国に先んじて、2050年カーボンニュートラルを打ち出せたというタイミングも含めて良かったと私も思います。しかし具体化はこれから。2050年のカーボンニュートラルを目指すには、過保護にするのではなく、ビジネスベースで再エネの普及が進むことが必要ですが、率直に言ってどのような政策を期待しますか?
伊藤:エネルギーの現場では、実は細かい規制などでコストが下がらなかったり、時間を取られることも多くあります。例えば危険物を扱う工場に太陽光発電や蓄電池を導入するとなると、規制としては問題なくても、前例がないと所管の消防署がなかなか許可を出してくれないこともありました。こうした規制改革や現場への通達なども重要です。
もうひとつ重要なのは、カーボンプライシング。環境外部性の評価が適切になされれば、あとは産業として波に乗れると思っています。最近ではJクレジットも相当価格が上がって、2,000円で札を入れても落札できないくらいですが、統一的なカーボンプライシングによって拡大していくことが必要ではないでしょうか。
木南:固定価格買取制度に依拠してきた再エネの導入が、そこから脱するタイミングに来ています。当社の理念である「グリーンかつ自立可能な電源」という世界に段々と近づいてきており、電源別にNon-FITを見据えた動きが広がっていくと考えています。
洋上風力発電は欧州では有力になってきていますが、国内ではまだこれから。日本でも成長が期待されるが、これまでインフラや法制度が整っていませんでした。そうした市場に風穴を開けることが重要で、政府の役割はまさにそうした点にあります。一年前までは国としての洋上風力の導入目標は無く、日本が本気でこの分野に取り組むのかどうか分からない状況でした。
それが、昨年10月の菅首相のカーボンニュートラル宣言があり、さらに洋上風力に関しては「新たな産業を作る」という打ち出し方がなされ、年末には2040年に最大45GWという目標の設定に至りました。このことで、海外からも注目が集まっていると感じます。この大目標が示されたのは非常に大きい。
欧州と日本では、諸条件が異なるのは確かですが、欧州においてもまずは官が大目標を示し、産業が集中して10年がかりでコストを落としてきたわけです。日本はそのコスト低減の果実を存分に利用すべきですが、わが国での産業化によってさらなるコストダウンを進めなければなりません。
安くてグリーンな電源を供給するには、①目標、②技術、③資金、④人材が必要で、①については十分な目標が示されました。次に重要なのが技術だと考えています。技術にも「モノ」と「施工」があるが、「モノ」としては、風力タービンは海外勢から買うしかないのが現状。日本にはサプライチェーンが存在せず、一から構築していくのは大きなビハインドであるのは確かですが、ロードマップを描いてしっかり進めていく必要があります。また、「施工」については特に事業者の工夫や経験の蓄積が必要なところですが、荒れる海での作業で単に効率性を追求すれば人命に関わります。新しい技術であるだけに、事故を起こしてはいけないというのは関係者の一致した認識です。わが国の洋上風力は、ポテンシャルは大きいと思っていますが、コスト低減や安定供給を可能にする普及拡大に向けてやることは多くあります。しかしそれだけに、難易度の高い案件を選んで挑んできた弊社の強みが活かせると思っています。
竹内:難易度の高い案件を選んで挑んできたからこその強み、というのはしびれますね(笑)。
確かに日本の風況や海底の状況が洋上風力開発に難しいのも事実です。
つい最近、東京大学公共政策大学院のディスカッション・ペーパーで、欧州・台湾・日本のそれぞれ「洋上風力の適地」とされるところの風況を比較し、同じコストで風車を建てた場合のLCOEを試算した報告がされていました。偏西風に恵まれる欧州とは、風車の稼働率が大きく異なるため、同じ値段で風車を建てても1kWhあたりのコストが倍近くになってしまうというのが現状での比較でした。そうした現実からも目をそらさず、「ではどうするか」を考えることが必要なのだろうと思います。
本名さんはいかがですか?
本名:再エネが普及段階の壁を越えて、定着するかどうか、電気事業が脱炭素を推進する社会インフラの主力エネルギーとしてうまく使えるかどうか、過去に学んで考えたいと思います。世界のエネルギーが石炭から石油に転換したときには、内燃機関の技術開発が進み、石油化学の発展につながりました。石油という燃料が長期にわたり安定的・安価(1ドル原油)に調達できるようになったことが大きい。再エネも技術開発等を進め、コストを低減することが肝要です。
政策支援や税制は、それぞれの技術の社会インフラとしての価値を正当に評価することが大前提です。
例えば今回の電力需給ひっ迫と価格高騰の問題においても、単にkWhの価値だけを考えたら太陽光などの方が良いが、地熱は燃料制約が起きないし、バイオマスも燃料備蓄がしやすい上に調達先の分散などもしやすいわけです。そうした価値が反映されるべきであり、今回の事態はそうした価値が織り込まれていなかった市場という人為的な要因もあったと思います。
脱炭素社会にむけたエネルギーはコストと安定供給がより重要性を増します。政府として目標を掲げるという第一段階は終わりました。次はいかにコストを下げて実現していくか、競争原理に重点をおいて政策検討も進めていってほしいと思います。スピードが重要です。
竹内:1月の供給ひっ迫とJEPX価格の高騰については、複合的な要因があるものの、LNG調達不足が主要因であることは間違いありません。燃料に携わってこられたお立場からも何かコメントはありますか?
本名:これまでは総括原価方式の中で、燃料調達も商社への依存が大きかったんです。加えて今回は、上期は電力市場の価格も低く、LNGを積み増すインセンティブが小さかったのかもしれません。LNGは備蓄しづらいという特性はあったとしても、事業者としては安定供給を最重要として考えコストをかけてでも備蓄に取り込むことが必要なのではないでしょうか。いつ、何が起こるかはわからないんです。
電力価格は、燃料調達などの外的な要因で大きく変動することを前提に考える必要があります。繰り返しになりますが、「発電して売る」のが基本です。原油が1バレル100ドルに上がったこともあるし、リスクを分散するのが電気事業の本分。新電力も様々な電源の調達方法を検討すべきであり、それができないところは淘汰され、集約化されていく流れになるでしょう。
*追記:日本経済新聞掲載の本名さんのインタビュー記事はこちら。
電力価格高騰の対応策は?
木南:本名さんから、バイオマス発電が持つ燃料備蓄の優位性に言及があったので、追加したいと思います。自分も、その価値がまだまだ世に知られていないと思っています。通常、当社が取り組むバイオマス発電所では1.5〜2ヶ月分の燃料(ペレット等)をストックしています。調達国もある程度分散させることができ、アジア諸国などの近隣からの調達、米国、豪州などの友好国からの調達も可能です。
本名:レノバさんとはバイオマス燃料の共同調達という話も過去にしたんですよね。安定供給のためには燃料調達が最も重要です。これはどんな制度の下でも、カーボンニュートラルを目指すという方針も下でも変わるものではありません。
竹内:エネルギーはコストと安定供給と常々考えているが、「夢がない」と批判されたり、「抵抗勢力」と言われたりします。しかしながら、エネルギー事業者がコストや安定供給に関わるリスクを正面から捉えなかったら終わりだと思います。その点で、皆さんのように本気でエネルギー変革に取り組んでいる方たちからそろって、同じ言葉が聞けたのはとても嬉しいです。
これまでは再エネ導入が目的化した部分があったかもしれませんが、そうではなくエネルギーシステムをより良くするという観点が大前提だと思っています。
<スピード感ある規制改革を>
伊藤:気候変動への対策という観点では、2030年までの10年間にどこまで再エネを普及させるかが重要だと考えています。最も早く普及させるという視点から、長期的な目標も重要だが、足元どこまで積み上げられるかに関する戦略は欠けているのではないかという危機感を持っています。
具体的に言えば、太陽光発電の需要家の自家消費をどう考えるか。あらゆる場所に太陽光を設置して、賄えなければ蓄電池に貯めてということを1kWhでも積み上げるという取り組みをしていきたいと思っています。
竹内:こうした足元から戦略を考える中で、現場の細かい規制改革も重要であることが、ネクストさんの事業を深く知るにつけよく理解できるようになりました。
大幅な脱炭素化に向けてのセオリーは、「電化」と「電源の脱炭素化」の同時進行です。規制改革の中でも、例えば工場が再エネ電源から調達するとしても、今の省エネ法ではあまり評価されないという課題もあり、変えなければならないことは多々あります。
木南:もう一つは系統の問題。梶山大臣も高い関心を持って取り組むと仰ってくださっています。温対法改正に伴う規制緩和にも期待しています。
規制や制度設計については、着実な進展を期待しています。早く結論が出たほうが結果が早くついてくるが、安全性や地元合意をないがしろにすることがまかり通ってしまうような改革はされるべきではありません。
カーボンプライシングの議論にも注目しています。産業や経済に与える影響も大きいので、着実にステップを刻むような形で検討して行ってもらえると良いですね。
竹内:カーボンプライシングについては、既存の税制や規制等の整理が必要だと思っています。日本のエネルギー関連税制は余りに複雑怪奇(笑)。日本はスクラップ&ビルドが苦手ですが、ちゃんと透明性が高い仕組みになれば電化も進むし、安い再エネを選ぶインセンティブにもなっていくと期待しています。
また、消費者の行動変容を促すには、「課税の見える化」も重要でしょう。
<産業としてどう取り組むか>
竹内:ここからは政策論ではなく、産業としてどう取り組むかを伺いたいと思います。個社の取り組みや方針だけでなく、業界全体の動きにも話を広げていきたいと思います。
伊藤:コストと量が重要です。量が出ないと主力電源にはなりませから。
まず当社の取り組みから言えば、需要家に太陽光発電と蓄電池を安く大量に導入していただくことを目指します。蓄電池単体でのコスト削減もそうですが、蓄電池の価値を高めるという両方が必要です。コストは間違いなく今後も落ちていきます。価値も高められれば、閾値を超えて一気に普及していく。太陽光も同じで、駐車場設置がLCOEで8〜10円/kWhを切れば一気に普及すると思っていて、ここもあと一息です。今まではコンクリ基礎がなければ建築物として認められませんでしたが、国交省内でも規制改革の一環として杭基礎の承認について議論が進んでおり、実現すればメガソーラーレベルにまでコストが抑えられるようになります。
太陽光発電協会(JPEA)でもFITからFIPへの移行を機に、より自立した電源として普及を加速させるための検討を始めています。業界の連携を強め、事業化を進めたいし、会員企業の拡充にも取り組みたいと思っています。
木南:洋上風力はまだこれからの技術です。現状、国内にはまだ大規模な商用発電所はないので、全てこれから。そのため、官民でやらなければならないことがまだ混在しています。やるべきことを整理すると、
1つ目は風車の大型化による低コスト化。これは、欧州での取り組みの果実を得ることができます。最近は12〜14MW、直径200mを超えてきています。
2つ目がインフラ整備。特に風車が巨大化すると輸送、組み立てのための港湾、SEP船などのインフラ整備が重要になります。1つ目の風車の大型化も重要な要素ですが、インフラ整備と歩調を合わせることも必要です。また、港湾については、秋田港と能代港の整備が始まっており、これによって初めて事業に取り組むことができます。
3つ目が習熟。太陽光やバイオマスでも同様だが、ハードウェアのみならず、それをどのようにインストールするのかが重要です。不慣れな工事では予備費を多く確保しておく必要がありますが、工事に習熟していけばその分コストを下げていくことができます。但し、グローバルで実績がある企業であったとしても、日本ローカルのサプライチェーンも含めて一から実績を積んでいかないといけません。初めての海工事は大きな危険を伴います。人命や地元住民の不安に加えて、最初は何よりもまず安全性が求められます。早く進めたい気持ちもありますが、一度でも事故があると逆風になってしまうので、経営としても一つ一つ慎重に考えています。習熟は、取り組んだ分だけ知見が蓄積し、実になります。
4つ目は導入目標の共有。2030年までに10GWが国の目標だが、少しでも前倒しができる箇所があれば、より大きな区域指定を求める地域の声に応えたり、年間の入札量を増やしたりするような姿勢はあってもいいと思います。
竹内:米国バイデン政権が2030年目標を4月に公表するとしており、2030年の温暖化目標は日本でも引き上げの議論が出てくると思っています。正直、あと10年でできることはそれほど多くはないかもしれませんが、洋上風力の導入加速に向けた一つのアイディアとして、例えば台湾とSEP船を共有するなど、事業のスコープをグローバルに拡大することで可能になるコスト低減などもあるのか?
木南:インフラはアジアで共有などもありうると思います。欧州からというよりは、近い国と協力することも次のステップとして現実的です。
アジアではすでにサプライチェーンの競争が起きています。日本は少し出遅れているが、巻き直しの余地はあると考えています。2019年にGEが中国に、シーメンスは台湾に風車の工場を建設すると発表しました。日本も目標を打ち出しましたが、この2月に韓国も2030年までに約4.5兆円を投じて新たに8GWの洋上風力団地を整備すると宣言しました。これにより韓国の2030年までの洋上風力の導入目標は15GWを超えることとなりますが、日本の2030年10GWを意識した動きだと感じています。これは、韓国国内の製造業支援の一環で、風車産業の育成を狙ったものでしょう。
本名:エネルギー事業は制度と税制に強く影響を受けますが、消費者と向き合う小売事業者がどのような価値を提供するか。これこそ各企業の競争だと思っています。
繰り返しになりますが、エネルギー事業とは、リスク分散が基本です。事業を上流から下流まで手がけることで、リスクヘッジをし、収益の最大化をはかりたいと考えています。
電気販売の裏側では、調達がついてまわります。発電事業は単体でできるが、小売事業は単独ではできないもの。上流をどうするかに全く関心を持たず事業展開するのもおかしな話で、自分は容量市場の考え方自体に間違いではないと思っています。
自社が開発する電源としては、バイオマスは燃料価格低減に向けて、生産や物流の大型化も必要です。ベース電源にも十分なりえるし、安定供給のための価値は高いと思っているので、その価値の評価についても検討した意と考えています。
<まとめとして:再エネ推進の挑戦者として>
本名:環境省、経産省などさまざまに関わっていますが、今後はエネルギー省が必要ではないでしょうか。既存の省庁の問題ではなく、横断的にかつ業際的にそして多様性を加味した組織が問題解決に早道ではないかと思っています。ここでもスピードが求められます。2050年カーボンニュートラルは大変なチャレンジであるという自覚をまず共有したいですね。
伊藤:太陽光発電産業は、プレイヤーがどんどん減少しています。FITの買取価格が下がり、事業としてのうまみは無くなったと考える事業者が多いのは悲しいし、情けない。国民負担抑制は当然だし、その条件の中で挑戦する事業者がもっと現れてほしいと願っています。
業界として活性化はJPEAのミッションでもあります。自社の経営はもちろんですが、業界活性化にも引き続き注力していきたいと思います。
木南:伊藤さんのおっしゃる太陽光発電産業の活性化には賛成です。せっかくここまでコストを下げてきた太陽光発電について、ブームが終了したというような捉え方はつくづく残念。政府も、既存太陽光の導入目標も新たに明示すべきで、ここまで安くなったからこそ、今から普及させるためにもう一押ししないといけません。ただし、系統制約がネックです。ようやくノンファーム接続の議論が始まったのは素晴らしいこと。さらなる議論に期待したいですね。
竹内:2050年の社会実装を考えると、グリーンイノベーション戦略がインベンションに偏り過ぎているという指摘は私もしてきたところです。将来のビジョンと、足元の現実を結び付けて考えるのは容易ではなく、自社で現場を持ちながらエネルギー転換を日々考えている皆さんの声が政策に届くことが必要だと改めて感じました。
ぜひ引き続き、再生可能エネルギー主力電源化に向けた挑戦をご一緒できればと思っています。本日はありがとうございました。