【緊急企画】コロナ・ウイルスで、エネルギー・環境問題はどう動く? U3イノベーションズとエネルギー・アナリスト大場紀章さんが考えるビヨンド・コロナ 第3回 MobilityとUtilityの融合は進むか−EVシフトを考える− ① 2020年06月04日
U3innovations創業のきっかけとなった「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」で、今後進む産業間融合の“本命“とされたのが、MobilityとUtility。Mobilityセクターでの電化が進み「バッテリーで動く車両」が増えれば、Utilityにとっては「動く蓄電設備」を多く手にすることになり、災害対策や再生可能エネルギーの変動性の吸収などに強みを発揮すると期待されています。 しかし、新型コロナウイルス感染症拡大による社会変容やエネルギー産業への影響が、この融合にどのように影響するかは未知数です。
原油価格マイナスの与える影響や、今後の気候変動問題のあり方など、コロナ時代のエネルギー・環境問題のあり方について議論する、U3イノベーションズとエネルギー・アナリストの大場紀章さんの連続対談の最終テーマは、MobilityとUtilityの融合は進むのか?です 。
【ビフォー・コロナのEV化をどう見ていたか】
U3:Mobilityの電化については、今まで何度も波がありましたね。そのため、長くMobilityセクターをご覧になっている方ほど、近年のEV化の流れも懐疑的に見ているように思います。大場さんはどのようにご覧になっていましたか?
大場:そうですね。確かに歴史的に何度か波がありました。2000年代に入って大きかったのは、2008年頃の原油価格上昇ですね。「ピークオイル論」が再び盛んになったのもこの頃です。原油価格の上昇によりガソリン車のランニングコストがあがったので、EV化が進むという意見が相当出ました。
ただ、それでもトヨタは電気自動車を出しませんでした。日本メーカーが電動化に動く大きなきっかけになったのは、実は原油価格上昇の直後に起きたリーマンショックです。それまで日本の自動車メーカーのEVは、三菱自動車工業が2009年に量産を開始したi-MiEV(アイミーブ)だけでした。法人向けから始まって、その後個人向けにも販売されるようになりましたが、大きな流れにはなっていませんでした。世界で最初に個人所有車両、量産車としてのEVの地位を確立したのは日産のLEAF(リーフ)です。
あれはゴーンさんの戦略がうまく当たりましたね。原油価格の高騰とリーマンショックを受けて、日本政府は緊急経済対策として「エコカー減税」を導入。そこにトヨタのハイブリッド車はうまくハマった格好ですが、日産はゴーンさんがハイブリッド車の開発を中止していたので勝負するタマがなく、株主から相当批判されていた。そこでEVを軸にするという戦略に打って出ることで株主総会を乗り切り、そして短期間で本当に量産を実現させ、「EVの日産」というイメージを定着させました。
U3:EVに対しては当初、世間の目は厳しかったですよね。確かに、排気ガスを出さないし、騒音も無い。アイミーブの電気代はガソリン代の約1/7といわれていました。そうしたメリットはわかるものの、価格の高さや中古市場で価格がつかないという経済的なディスアドバンテージや、バッテリーのへたりが早いので走行距離が短いことや夏冬にエアコンをつけられないというのは、消費者からすれば致命的な欠陥にも思えました。
大場:日産LEAFの初期モデルは大急ぎで作ったのもあって、仰るような粗が目立ちましたが、2017年販売の二代目ではかなり改善されていますね。そして、やはりテスラの登場がこうしたEVのネガティブなイメージの払拭に貢献したように思います。今年世界で販売されてた電気自動車のおよそ2割がテスラです。車種別では、モデル3が世界で一番売れていて、第2位の3倍以上と図抜けています。電気自動車はテスラとそれ以外に分かれるといっても過言ではないわけです。
U3:テスラのすごいところは、電気で走る車を提供したことではなくて、テスラを提供したことなんでしょうね。クリーン・エネルギーで人類の進歩に貢献することを明確に掲げて、電気自動車や蓄電池だけでなく、屋根材一体型の太陽電池も販売するなど、新しい生活や価値の提供を続けています。イーロン・マスクは、Twitterで物議をかもす投稿をしたりといろいろありますが、彼がいなければ電気自動車がここまで注目されることはなかったというのは確かですよね。
大場:各国の政策の動きもリンクしました。ノルウェーやオランダ、インド、中国に続き、2017年にイギリスとフランスがほぼ同時に2040年にはガソリン車販売禁止を打ち出しました。ガソリン車を売ることはダメになる、ダメなことなんだ、という強い印象を与えました。「EVシフト」という言葉が広がり始めたのはこの頃ですよね。
U3:そうですね。実は我々の「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」の上梓が2017年9月で、まさに英仏が2040年以降のガソリン車販売禁止を打ち出した直後だったんです。「狙ってたんですか?」と聞かれたりしましたが、偶然です(笑)。あの二か国の政策転換の前だったら、EVを結節点としたMobilityとUtilityの融合が進むと書いた私たちの本も絵空事と捉えられたかもしれませんが、モビリティセクターでの電化がリアリティーをもって捉えられ始めたタイミングにちょうど出すことができたのはとても幸運でした。
大場:偶然だったんですか(笑)。それは持ってますね。一般の方の意識ががらりと変わった時期でしたが、本当にその政策通りに行くのかと懐疑的に見る向きもあります。2017-2018年頃の電気自動車の販売量予測の幅ってすごかったんですよ。デロイトトーマツコンサルティングがまとめた、各メーカーやシンクタンクによる2030年の電気自動車が全車種の販売車数に占める比率の予測の幅は1.6%から26%とされていましたから。ブルームバーグのようなアグレッシブな予想もあれば、BPのように保守的な見通しを立てるところと割れていました。それまではアップサイドの見通しは完全に楽観主義者扱いだったのですが、そうではないという見立てが出てきた。それで慌てて、ドイツメーカーは、ラインアップにPHEVもしくはEVを必ずいれると打ち出したりして、「自動車は電化の時代」といわれるようになりました。まあ、その裏には2015年に発覚したVWのディーゼル車不正事件があったわけですが・・・
しかし、実際のEVブームを支えたのは中国の補助金政策ですね。IEAのWorld Energy Investmentを見ていただければわかりますが、そもそも自動車市場の大きさが違うものの、世界のEV販売の約5割が中国です。2017、18のEV拡大を支えた補助金を2019年に半額にしたので、2019年は前年比マイナス4%と初めて落ち込んでいまいました。(2018:1.26 million、2019:1.21 million。なお、 統計はNEV車全体であり1/3程度PHEV込)EVはまだ補助金が無いと厳しいというのが現実だと思います。
IEA, Global electric passenger light-duty vehicle sales and market share, 2010-2020, IEA, Paris https://www.iea.org/data-and-statistics/charts/global-electric-passenger-light-duty-vehicle-sales-and-market-share-2010-2020
*この後、EV化を進める政策のあり方、バッテリーの技術開発動向、コロナによる社会変容とmobilityについて話が広がります!