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3/25公開の映画3本、一口メモ

シルヴィ・オハヨン『オートクチュール』(2021、フランス、100分)

着るものは機能的でありさえすればいいと割り切っている私でも、名前だけは知っていたクリスチャン・ディオール。
その工房に勤める人々の人間模様を描く。

体力的限界からか引退を決めている現場主任と、ひったくりで生計を立てる若い女性。
出会うはずのない二人が、摩擦を繰り返しながら関係を築き、技術を受け継いでいく。

もう少し職人さんたちの手元や、素材の質感などを感じたかったが、もしかしたら企業秘密であの辺りが限界だったのかもしれない。
筋立てとしてはお披露目のショーが最後の目標となっているが、あくまで裏方さんたちの話なので、そこまで高揚感があるわけでもない。

どちらかというと人間ドラマに主眼が置かれているが、監督&脚本がどうにも人物たちを描き切れておらず、半端な感じを受けてしまった。
この辺りは次回作以降に期待。

それでも、普段見ることはできない舞台裏は新鮮で、独特の風習や仕事への徹底したこだわりなども興味深かった。


ケネス・ブラナー『ベルファスト』(2021、イギリス、98分)

これは実に優れた作品。間違いなく年間ベスト候補。
いくら褒めても褒めすぎることはないであろう、満点に近い出来でした。
冒頭で、活気溢れる町の通りを、動きをつけていきながら見せていくカメラワークの時点で、傑作を確信。

決して、楽しいだけではなかったはずの時代なのに、妙に幸福感や胸の昂りが残る。
子供の視点から描くことで、紛争の不条理さもより際立つ。
育った環境や文化も全く違うのに、まるで自分のことのように響く。
私的な体験を、普遍的な物語にまで昇華させた見事な一本。

あらゆる愛が全編に溢れている。
郷土愛、家族愛、パートナー同士の愛情、友情、ご近所さんとの繋がり。
そして骨の髄までの映画愛も伝わってくるのが嬉しい。
演劇も含めて、完全に見せ方を知り尽くしている。
ちょっとした演出まで心配りが行き届いていて、いちいち「上手いなぁ」と唸らされた。

そして音楽面で中心となるヴァン・モリソンの楽曲群。
しっかりと本編に沿って意味のある使い方がされており、さらに効果的だった。

これこそ、劇場のスクリーンで体験してほしい映画。


フィリップ・ライヒェンハイム『ダイナソーJr./フリークシーン』(2020、ドイツ・アメリカ、82分)

私にとっては音楽的ルーツの一つでもあるバンドの、ドキュメンタリー作品。

とは言っても、こうして改めてバンド史を振り返ると、時流に乗った時期ほんの少し聴いていただけだったんだな、と思い知らされた。
ほとんど何も知らなかったんだなと。
でも洋楽の情報源としては、月刊の音楽雑誌ぐらいしかなかった1990年代半ば。
今から思えば牧歌的な時代でもあった。

文字通り耳をつんざく轟音ギターは、大人になった今の耳には長時間聴取は正直厳しいところもある。
当時に比べれば、様々な音楽を体験してきた今となっては。
それでもなお、作曲能力の高さや、音作りの独自性など、再評価できそうな気も同時にしている。
自分が若い頃に熱中していた音楽が、歳を経て振り返ったときに、意外に過大評価だったことに気付かされることも多い。
そんな中で、彼らの楽曲は逆にもっと評価されて良いのでは、と思い始めている自分がいる。

中心人物のJにお子さんができてからのアルバムなんか良さそうだったし、何より素晴らしいのは、現在も最初期のメンバーで活動していること。
誰の人生にも紆余曲折がある、それは音楽家たちも例外ではなかった。
消えていったり生き残れなかったりした人たちも少なくない中で、自分たちの音楽を続けていることこそが価値あること。
そう私も思うようになった。


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