映画『ドンバス』
セルゲイ・ロズニツァ『ドンバス』(2018、ドイツ・ウクライナ・フランス・オランダ・ルーマニア 、121分)
一体、私は今何を見せられているのだろう。
そう思ってしまうほど、混沌としている。
それはこの劇映画が、というよりドンバス地方での現実そのものが秩序を失っているからだろう。
この映画は現実をできるだけ正確に捉えようとしているはずだ。
しかし、そうしようとするほどに、内容は混乱を極めていく。
この地で実際にあった話を元に作られたという、数多くの逸話が連続していく。
それらはどれも、それぞれの思惑があちこち飛び交い、いちいち度を越している。
例えば、フェイク・ニューズを捏造する現場。
近所の素人なのか演技する者たちをかき集め、偽造された被害現場で嘘の証言を語らせる。
さらには、でっち上げられた新政府による、「協力」と称した車両や金銭の強奪。
何部屋も連なる地下の避難場所で、不衛生なギリギリの生活を強いられる人々。
ドイツから来たというだけでファシスト扱いされ、一触即発となるジャーナリスト。
などなど、覚めない悪夢が延々と続くような気分にさせられる。
まるで訳が分からない世界が出来上がってしまっているようだ。
ここで歴史的背景を事細かに説明するほどの知識はないが、どうやらウクライナ内でも分裂させられているようだ、ということは見えてくる。
宣伝、世論操作、つまり情報戦が効力を発揮しているのかもしれない。
ロズニツァ監督作は『アウステルリッツ』以来2本目の鑑賞。
そのドキュメンタリーも、徹底した定点観測を用いた、通常とはかなり様相が異なるもの。
今作もあまりに真に迫っているため、フィクションとは思えなくなる箇所もあった。
観るこちら側もある程度のリテラシー、読解・判断能力が試されるだろう。
戦争は狂気しか生まない。
人間が人間でなくなってしまうこの愚かな行為を、1日でも早く終わらせなければならない。