#27 18歳、はじめてのシャワー
シャワーが好きなんです。
いや、シャワーなんてみんな好きでしょ?
違います。
本当に好きなんです!
お風呂にはシャワーがついてて当たり前?
いやいや、ないとこもありますって!
ないとこに住んだことがない?
やばいですって!
早くシャワーのないとこに住んでくださいよ!
シャワーのありがたみが身に染みるって!
シャワーって、そこにあるだけで幸せです!
シャワーのない家に18年住んだ
子供の頃に住んでたのは借家。
築60年以上の木造平屋だ。
玄関を出て5歩で、ちょうど大きな亀が一匹すっぽりとハマりそうなドブがあった。
玄関横にはプロパンガスが剥き出しで2本。
弱々しいコンクリートブロックの上に置かれていた。僕はそのブロックの中に、大事な泥団子を隠していた。
毎日プロパンを見るたびに「いつか爆死するかもしれん」と思って、寝るときは必ずプロパン側に足を向けるようにしていた。頭が一番大事じゃからな。
トイレはもちろんポットンだ。
大雨が降った翌日なんかは、どこからか雨が染み込んできて、トイレ後におしりに跳ね返りを感じて「ああぁ!」という不快感とともに学校へ向かっていた。おそらくこれがウォシュレットの起源だ。
そしてお風呂。
お風呂にはシャワーなんてなかった。
あるのは、銀色のながーい蛇口が一本のみ。
グラグラで、いつももげそうだった。
もちろん水しかでねぇ。
いわゆる、赤🔴と青🔵の色がついた蛇口が2本あるタイプのやつですらない。
そもそも蛇口からお湯が出ることも、シャワーというすごいものがあることも、小学生になってから知ったのだ。
どうやって沸かしとったん?
さすがに薪ではないっすよ。笑
時代は平成なんでね。
体操座りでギリ一人入れるレベルの、懐かしのモスグリーンの浴槽内に、火災ベルのような銀色の金属がついていた。
大きさはちょうど、生搾りレモンサワーを頼んだときに出されるアレぐらい。
そやつが激アツになる。
火災ベルの真下には丸い穴が開いてて、ここから熱い空気が出てくる。
穴を通って外のボイラーを通過してくるんか?よぉ知らんけど、それで大量の湯が沸くのだ。
ではどうやって、火災ベルを激アツにするのか?
浴槽がへばりついている壁に、ゲームボーイポケットぐらいのプラスチッキーな箱が付いていたんだ。
その箱に、スプーン状の持ち手(昔の粉洗剤にデフォで付いてた真四角のスプーンみたいなやつ)が壁側を向いてひっついてたのよ。
その持ち手を回す仕組みになってた。
大丈夫?イメージできる?
わかる人、おる?笑
多分、わかる人は苦労人でしょう。
あるいは、私より年上でしょう。笑
それでね、そのスプーンを3回まわすのよ。
回し方が一応書いてあってね、順番の数字があるの、ちゃんと。
①種火 右にまわす
②点火 左にまわす
③沸かす また右に大きくまわす
みたいな。
正確な文字は忘れたけど、大体こんな感じ。
これでね、最初の種火のときに、20秒ぐらい待たないといけないの。
このプラスチッキーな箱には、10円玉ぐらいの小さな窓がついていて、普段そこは真っ暗なの。
この種火をやってると、じわじわと赤い丸🔴が、あたかも太陽のように、東から現れてくるの。
ほんで、皆既日食みたいな感じで太陽が出きったときに、点火するわけ。
そしたら、壁の向こう側のボイラーが
「ウォッ‼︎」
って鳴りやがる。成功だ。
勢い余って、まだ太陽が半月みたいなときにやると「カチッ」っていうだけ。失敗だ。
待つことの大切さは、ここで学んだような気がする。それが子育てにも生きている(はず)。
まぁそんな感じで点火→沸かす。
その後、30分ぐらい湯が沸くのを待たんといけん。うっかり寝たらプロパン代が跳ね上がる。間違えて空焚きなんかした日には爆発…まではしないけど、緊急停止されてガスが使えなくなる。
30分後、見に行くと…
湯の上だけが超絶アツイの!
火傷するぐらい熱いから、洗面器で湯を回すのさ!
そう!千と千尋のように!センヲダセー センヲダセー (´Д`)
おれ、理科苦手だったけど、水は上から熱くなることだけは知ってたもんね!学校で習う前から!
当然、体を洗うのに浴槽の湯を使わなきゃいけないから、うかうか使いすぎることもできないわけよ。自分がつかる湯が減るけんね!
うっかり減りすぎたら、また水を足して、また沸かさんにゃあいけん。寒いけん私もつかりながら沸かすんよ。うっかり寝ぼけて、火災ベルに太ももでも当てようもんなら「ジュワッチィ‼︎」ってウルトラマンもびっくりよ。
あんときはあれが当たり前だったし、みんなの家でもそうやっとるもんじゃと思い込んどったけんできとったけど、みんな、そんなことやっとらんじゃった。何となく俺ん家は貧乏だと悟った。
だるかったなーマジで。
今なんて「お風呂が沸きました」ってしゃべるもんな!あれ最高!
そして、毎日ナメクジとこんにちわしてた。
様々な方法で殺戮を繰り返したけん、今後もし悪いことしたらナメクジ地獄に落とされて、塩やら熱湯やら水責めされて、あわわわ…
最近、見んけど元気かなアイツら。
すまん、子供のしたことだから許してくんろ。
朝シャンを中学生で知る
朝、チャリで学校についたら、部活する前から髪がツヤツヤ濡れてたやつがいたのよ。ワックスにしちゃあ濡れすぎじゃね?ってレベルよ。
なんで濡れとるん?って聞いたらさ、
「え、朝シャンしたけぇ!」
って当たり前のように言うわけ。
「え、ションベンしたら髪濡れるって何、手を洗った後、髪の毛で拭いとるんか?」
ってマジレスしたら、
「はぁ?だから朝シャンだって!ドライヤーする時間なかったけん、しゃーなしで自然乾燥よ!」
お、お、おぅ。
そうかそうか、シャンか、シャンの方ね。
…
早速、家に帰った私は母に言うてやったよ。
おれ明日、朝シャンするわ。
「あんた、朝風呂したら、心臓止まって死ぬよ」
ええぇ…なんで?
「朝から急に熱い湯を浴びたら、心臓がびっくりして止まるんよ!あと、将来禿げるけぇやめんさい!」
ここは思春期。
やるなと言われたらやりたくなる。
強気に出てみた。
「いや、朝シャンせずに死ぬ方がいやじゃ。たちまち明日は絶対朝シャンするけん」
そのときの私は「どうせ朝に風呂入るけん、夜入ったら水がもったいないわな」と、朝シャンする前日の夜は風呂に入らないのが正解だと思っていた。
はからずも親孝行だった。
朝シャンを教えてくれたあいつ、絶対シャワー浴びとったんじゃろうなぁ…ええなぁ。俺みたいに洗面器でかけ湯じゃなかったんじゃろうなぁ。笑
実際に朝シャンを体験してみたが…
「今まで必ず夜に入っとったのに、朝入ってるオレ…なんか新鮮!フフフフ…」という、朝シャンが本来持ちうる良さではなく、親に刃向かって悪いことしてる気分を味わっていた。笑
まぁでも、親の言うことも一理ある。
すっかり禿げてしもうたけんなぁ。笑
朝シャンのせいかどうか知らんけど。
社会に出たらシャワー天国
転勤に転勤を重ねて、家を点々とした。
社会人3年目まではシャワーはあった!
あったが、同居人のおじさんと共用。
しかもバランス釜。
え?なにそれって?笑
カチカチタイプよ!わかる?
浴槽の横にボイラーがひっついとるやつよ!
なんやこれ!使ったことねぇぞ!と思ったけど、シャワーが付いてたから俺は嬉しかったよ!
もう一生使いたくないけどね!
あれこそガス中になるかと思って、毎度ヒヤヒヤやったわ!冬とか火が付きにくいしな!
そんなことより、同居のおじさんて誰って?笑
いやぁ、会社の独身おじさんと同居しなきゃいけないタイプの寮だったんよね!これがもうまじで最悪だったわ!INFJにとっては地獄だった!だから病気にもなったんじゃな!
まぁそれは別の機会に記事にするとして、シャワーがあっても、常に同居人が使ってないときを見計らって使う必要があったから、やっぱ、いつでも自分のタイミングでシャワーが使えるって、マジで神だと思う。精神が洗われるよね。命の洗濯ってこれのことだろ😭
それ以降は、しゃべるタイプのやつやら、普通の一般的なシャワーやら、もう一度、同居人なしでバランス釜に出会ったり、いろんなことがありながらも、シャワーはいつもそこにあった。
浴槽につかるのももちろん好きだ。
温泉だって大好きだ。
しかし、なにより僕はシャワーが好きだ。
シャワーさえ浴びることができれば、
もう湯船なんて贅沢はいらない。
たとえジョウロみたいな水圧だったとしてもだ。
お湯さえ出ればそれでいい。
ひねるだけで、お湯が出ること自体が奇跡だ。
種火も点火も必要ない。
シャンプーもリンスもいらない。
バスタオルも必要ない。
そのままオフトゥンにダイブさ。
それぐらいシャワーを愛してる。
そして…
ガス、電気、水道関係のインフラ事業者に、
配管、給水、内装関係の建築業者に、
僕は心から敬意を送りたい。
あわよくば、年に一度でいいから、
"シャワー使い放題の日"を設けてほしい。
これは、業者ではなく家族に向けて言いたい。
シャワーよ、ありがとう。