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ライターはこんな良い職業だ。5月8日に『さくらももこ産ライター』より捧ぐ。
ありがたいことにライターのお仕事をしているのだが最近「コラムニスト向きだね」と言われた。その源泉をたどってみると、「あ、自分、さくらももこさん生まれだわ」と思い至ったのだった。
ご本人は惜しくも亡くなったが、20年以上もアニメが放映され続ける『ちびまる子ちゃん』。幼稚園時代からマンガ好きだった私は勿論全巻持っていた。
小学校からはさくらさんのエッセイ集に手を出した。誕生日の図書カードや、本屋さんで突然訪れる「何か欲しい本ある?」チャンスはすべてさくらさんの本に費やした。
父親にねだる読み聞かせは、エッセイ本「もものかんづめ」。
キャッチコピーの見本市である。ちなみに水虫治療にはしゃぐ私を母親が心配そうに見ていたことも追記しておく。
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さくらさんにどっぷり感化された私は文体まで真似した。小学校3年生の夏休みの宿題では家族登山の感想を原稿用紙20ページに書いて提出したのだが、たしか出だしは
「この夏、私にはひとつのリターンマッチが待っていた」
読んだ担任の先生からは呼び出された。「お母さんと一緒に書いたの…?」と膝をそろえて向かいあった先生、戸惑わせてすみませんでした。「わたしは夏休みに家族と登山にいきました」が模範解答だと今ならわかる。
ちなみに当時読んだ父親は爆笑し、コピーしてアルバムに挟み込み、いまだに読み返すのだというから彼も読み聞かせの甲斐があったというものだ。
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さくらさんのエッセイや漫画では大きな事件は起きない。日常の、ともすれば流してしまいそうな一瞬を切り取る。
そしてそれは「キラキラなわたし」切り取りではない。「まったくトホホだよあたしゃ」と言わんばかりの失敗、怒られて顔にタテ線が入って終わるような話なのである。
私はさくらさんのこの切り口がたまらなく好きだ。例えばスタバにまつわるオシャレな記事はいくらでも多くの人が書いている。だが、さくらさんのスタバだと、『以前飲んだフラペチーノを頼みたいが商品名が分からず「あの、氷の入ったちょっと酸っぱい…」などと店員さんと困惑しながら悪戦苦闘する展開』などをコミカルに描いてくれるかもしれない。
見栄をはって隠してしまいそうな気持ちもありのままに出し、かつ暗くならず人をクスッと笑わせる。人柄がそのまま伝わってきて「この人にしか書けないな」と思うのだ。
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その後、徐々に別の作家さんも開拓し多くの文体に触れ、いつしかさくらさんとは縁遠くなった時期もあった。
しかし20年以上たってライターになり「コラムニスト」と言われたとき気づいた。自分の奥深くにはさくらさんのエッセイが脈々と流れ続けていたことに。
文章を書く人は星の数ほどいて、何千何万の心に響く記事も、「スキ」が1個もつかず流れていく記事もある。自分が書かなくても素敵な文章はあふれている。
ただ、私の書くものが一片だけでもさくらさんに似ていたらいいなと思う。読み手として感動した書き手を、今度は自分が書き手となって新しい読み手につないでいける。ライターはそんな良い職業だ。
私はさくらももこさん産のライターである。自分の文章を通して、さくらさんが途絶えることなく誰かの心や文章に流れていったらこんなに嬉しいことはない。
2022年5月8日。
さくらももこさん生誕57周年おめでとうございます。
さくらプロダクションさま公式Twitter
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