デジタルガバナンスと、民主主義システムを支えるブロックチェーンの将来性
アジアの役員室や政策サークルで静かな革命が起きています。ブロックチェーン技術は、コーポレートガバナンスとデジタルガバナンスという新たな概念の両方を飛躍的に向上させます。それは、民主的なシステムによる合意形成の方法を変え、ステークホルダーの手に権力を取り戻すのです。
エコノミスト・インテリジェンス・ユニット（EIU）の2021年民主主義指数調査によると、選挙プロセス、市民の自由、政治参加のレベルなど様々な要素から167カ国をランク付けし、昨年、世界の自由度は過去最低となりました。指数の世界平均は10段階中5.28まで落ち込み、EIUが2006年に調査を開始して以来最低となり、世界の半分以下が民主主義の一形態とみなされる状況で生活していることになります。
パンデミック以前から、民主主義国の有権者の無関心さは過去最高を記録していました。世界中のリーダーは、特にミレニアル世代からZ世代までのデジタルネイティブ世代のエンゲージメントに対する障壁を低くする方法を探してきました。
過去10年間のブロックチェーン技術の出現と成熟化により、その方法が発見されたようです。
タイでは、National Electronics and Computer Technology Center (NECTEC) がブロックチェーンを利用した選挙投票システムを開発し、デジタルリテラシーのない市民でも投票できるようにハイブリッドモデルを採用しています。
同様に、数千万人規模の海外労働者のディアスポラを抱えるフィリピンでは、ディアスポラの投票率を上げるためにブロックチェーンを使った投票ソリューションを検討し、2021年に模擬試験を実施しました。
COVID-19の大流行により、アジアや世界の政府、そして電子投票（デジタル手段による集団意思決定の形態として特徴付けられる）などのデジタルガバナンスに対して一時的に予想外の事態となりました。国境閉鎖や社会的距離の要請、ロックダウンが続く中、簡単で安全で何よりも透明性の高いツールが良いガバナンスの歯車を回し続けるために必要なものになりました。
歴史的に、ハッキング、データ盗難、プライバシー問題に悩まされてきた他のデジタル投票とは異なり、ブロックチェーン上に構築されたソリューションは、民主主義システムが分散化された透明な方法で、政府とビジネスにおける誠実さを促進する方法を提供しています。
ブロックチェーンの安全性と不変性は、投票者が地元の投票所に出向いたり、選挙管理者が手作業で郵便投票を処理する代わりに、パソコンやモバイルデバイスで投票を行うことができることを意味します。また、技術屋なら誰もが知っているように、レガシーシステムの技術化は一般的にコスト削減に繋がります。
経済的な視点では、COV（Cost of Voting）を下げるコンセプトは理にかなっています。例えば、2020年のアメリカ大統領選挙を考えてみましょう。CNNやBBCなどの情報源によると、2020年の選挙費用は144億ドル（約1兆円）で、史上最も高額な選挙となったそうです。費用の多くは、候補者が行った資金調達や有権者の獲得に費やされたものですが、州や連邦レベルの選挙管理には米国の納税者より集められたものが大部分を占めています。簡単に言えば、ブロックチェーンで追跡された票は、より迅速で改ざん不可能な方法でリアルタイムに集計され、低コストで参加率と安全性の向上へ繋がる可能性があります。
デジタルガバナンスとブロックチェーン
「Electronic Governance」または「e-Gov」という用語は、1990年代に学界で初めて流通し、政府サービスや選挙プロセスにも及んでいます。しかし、ブロックチェーン技術の期待により「デジタル・ガバナンス」という言葉が注目され始めています。 Tezosネットワークのようなブロックチェーンは、チェーン上で取引が消えない記録を提供し、その変更不可能な性質は、干渉や権力の乱用の可能性を厳しく制限できます。
ブロックチェーン技術の他の特徴として、インクルーシブガバナンスの根本的な要素に適していますが、初期開発者の動機がシステムを民主化したい願望から生まれたのが主な理由です。グローバルな金融システムから政府、ビジネス、資源へのアクセスに至るまで、文明を支えるすべてのシステムが中央集権化し、不平等に分散している世界において、ブロックチェーンは権力構造を分散し、合意を構築し記録する技術的基盤を提供します。そして、コンセンサスの基盤は、信頼であると言えるでしょう。
ノーベル経済学賞を受賞したKenneth Arrow氏は、信頼は社会的な潤滑油であり、集団的な事業には不可欠であると提唱しています。もしArrow氏が正しいとすれば、「トラストレス（信頼しない）」が特徴であるブロックチェーンは、どのようにしてガバナンス（と政府）の進化を促進させるのでしょうか。
シンガポール有数のブロックチェーン協会が、ブロックチェーン主導の電子投票のユースケースを実証
最近行われた Association of Crypto-Currency Enterprises and Start-ups Singapore（ACCESS）の役員選挙は、ブロックチェーン技術の高度なデジタルガバナンスを促進させる理想的な例となっています。政府・規制機関、教育機関、ビジネスセクターと連携し、シンガポールにおけるブロックチェーンの関与と採用を推進する当非営利団体は、ELECTISという分散型電子投票プラットフォームを使用してステークホルダーが新しい役員を選出できるようにしました。
ELECTISアプリは、スムーズで安全な電子投票を促進するために、複数の技術を組み合わせています。ユーザー認証にDJANGOを使用し、オープンソースのSDK Election Guardで選挙の設定やスマートコントラクトの作成（他のタスクも含む）を行っています。
アプリはTezosブロックチェーンを使用して、当選の証明を供給するために、アーティファクトのIPFS指認証で契約を更新するトランザクションを作成しています。ブロックチェーンの使用により、ELECTISは、安全性と匿名性、安全な暗号化、投票用紙の追跡など、民主的な選挙で最も重要な要素をすべて提供することができます。
ELECTISのようなアプリであれ、政府主導の選挙技術であれ、ブロックチェーンが民主主義のデジタル進化に関わることで、社会のあらゆるレベルのステークホルダーにとってよりアクセスしやすい時代が到来するはずです。世界における投票メカニズムやその他のデジタルガバナンスのデジタル化は、ポケットにあるスマートフォンで投票権を持てるのは論理的なステップのように思えます。おそらくそれは、良いガバナンスを発揮するために必要なものなのかもしれません。