雰囲気に呑まれた(J1昇格プレーオフ決勝 東京V1-1清水)
まず最初の感想として、J1昇格プレーオフ決勝の舞台が国立だったことがとにかく大きかった。
陸上トラック付きなのと動線が悪いのと通路と前の席の感覚が狭いのは本当に酷いが、見やすさは悪くなく、何より都内一等地にある抜群のアクセス。
そりゃ観客5万人きますわ。
Jリーグに興味がない人をお試しでもいいから気軽に呼び込むためには、「この試合はどういうものなのか」という位置づけや懸かっているものがわかりやすいと効果的。J1昇格プレーオフはその意味で普段のリーグ戦よりライト層向け。
かつて千葉0-1山形のプレーオフ決勝の味スタでも「すみません、ハーフタイムって何分ですか?」と隣に座ってた若い子達から質問されたし、
今日も後ろの席のあんちゃん達は「ヴェルディって緑のユニフォームの方?俺まずそっから把握していかないと、っていうレベルなんだよね 笑」と会話しているのが聞こえてきた。
ゴール裏埋めてるのはさすがに普段からリーグ戦見に来てる層とはいえ、バックスタンドの上層席だと俺みたいなサッカーオタクや一般層がかなり埋め尽くしていたと思われる。
キックオフ時のコレオグラフィーやフラッグで埋め尽くされるゴール裏双方が作り出す雰囲気は親善試合や日常のリーグ戦では中々出せない特別な一戦ならではのもの。満員の国立ならではの異様な雰囲気になっていて、第三者としてはとても良かった。
が、試合内容自体はかなり厳しかったというのが感想。
清水は序盤積極的に攻めるのだがシュートがとにかく枠にいかない。国立の芝がサッカーとラグビーにより酷使されているとはいえこのあたりの精度の無さは残念。
ヴェルディはそもそもパスの出しどころがあまりなくなっていて、特に清水がPK先制後は吉田豊も入れて清水が5バックにしたこともあり、前への縦パスがほとんど入れられず、横かバックパスが多くなってしまい、ライト層からするとかなり退屈な展開。
試合内容は堅くて時間がゆっくり流れる展開だったが、この国立5万人の雰囲気が最後の最後に作用した。
清水CB高橋祐治は何故、抜け出した東京V FW染野唯月にペナルティエリア内でスライディングを仕掛けてしまったのか。
染野はゴールに直接向かう形ではなく直進で走り抜けている形だったので、シュートコース的には厳しいし、遅らせる対応でも十分だったと思う中、あそこで倒しにいってしまった判断、これは国立の雰囲気で冷静さを欠いていたのだと思っている。
まず神谷優太がボールロストした後のカウンターで染野が見事なトラップで抜け出した瞬間の歓声が凄かった。後半ほとんどスペースがなく縦にパスが入らない展開だったのに、唯一あの瞬間だけは独走のチャンスができ、大歓声が生まれた。あれは雰囲気に呑まれる。
逆に、雰囲気を分かっていない神谷優太の軽いプレーにも驚いた。
ホナウドが倒れて時間稼ぎに入ったプレーで主審が笛を吹いた際、神谷はドリブル仕掛けてて「なんで止める、流せよ」と言わんばかりに不満を露わにしていた時から「この試合の意味、進め方をわかっていないのでは…」と、かなり懐疑的に見てしまったのだが、失点に関わるボールロストのところも軽かった。あの瞬間「やはり神谷か…」と思ってしまった(北川も軽かった)。
後半アディショナルタイムでのプレー、清水は0-1で絶対に逃げ切るという戦い方をしなければならない中で簡単にボールロストしてはならないこと、そしてもし取られたらファールでイエローカード覚悟で相手を潰すこと、この意識がなかったのが痛恨だった。イエローもののファールは、「1試合に1回許された権利」という感覚を持っていないとこの修羅場はものにできない。
(ちなみに試合後、偶然知り合いのドレッドヘア記者に会ったのだが神谷のボールロストおよび軽いプレーに憤慨していた)
試合通じて89分は退屈な展開でも、僅か1分でも劇的なものがあればライト層は満足できたと思う。5万人中半分近くの人たちは凄いものをみた衝撃を体感して家路に着いただろう。昇格プレーオフはエンターテイメントとしては最高のカード。
逆に当事者のサポーター達には過度なプレッシャー、絶頂する歓喜とトラウマものの絶望が刻まれるので当事者としては絶対に関わりたくないカード。敗者にとってカップ戦の決勝よりも遥かに失うものが大きすぎる。だからこそ注目度が高い。
PKを沈めた染野とチアゴサンタナ、二人の強心臓はさすがプロ。自分のひと蹴りでクラブ取り巻く全ての人の人生までも変えるシチュエーション、常人では耐えられない。見る側も当事者だととても直視できないという人も多かったと思われる。第三者の自分ですら最後の染野が蹴る時は震えがきた。
大観衆の中だと、何かが起こる、魔物が出る。
さすがJ1昇格プレーオフ決勝。
個人的MVPはヴェルディ右SB宮原和也。