これからの仕事論。自分に合っていることと、好きだからやること。−ライブ配信クリエーター・湯浅章太郎さんの話−
>湯浅章太郎さんのプロフィール
カサネル合同会社 代表 / Localist Tokyo共同代表 / ライブ配信クリエイター
東京都出身。サラリーマン時代に、東京で働く人たちが「地域」をテーマに繋がれるコミュニティの必要性を強く感じ、Localist Tokyoを立ち上げる。2019年の4月にサラリーマンを辞めてフリーランスになり、現在は東京と長野県塩尻市の2拠点生活をしながら、自治体や地域企業と連携したイベントやライブ配信を企画運営し、地域と東京の人が交流する機会を作っている。毎週4本以上のライブ配信をレギュラー配信中で、2021年は200本以上のライブ配信を予定。
【地域と東京をつなぐ理由】
ー現在どのようなお仕事をされていますか。
長野県の観光機構にご協力頂き「ヒトタビトーク」という番組をインターネット上でライブ配信しています。アシスタントと一緒に現地へ行って、企画からMC、配信までやっています。また、塩尻市の木曽漆器祭などのイベントでインターネット配信技術を提供する仕事もしています。
ー現在は塩尻市と東京の2拠点で生活されていますが、東京でサラリーマンをされていた頃は、地域と東京をつなぐLocalist Tokyoという団体も立ち上げられたんですよね。
はい。僕は東京都出身で、東京で14年間サラリーマンをしていたんですが、東京でサラリーマンをすることが合わないなと思いながらも、当時は東京で働く以外の選択肢を知らなくて。でも、サラリーマンを辞めてフリーランスになる数年前に、東京に住んでいる人たちの地方就職を支援する仕事を通じて、地域で働く選択肢があることや、地域で働いてみたい東京人がたくさんいることに気づきました。それで、「地域のみなさんと東京以外の地域に興味のある、東京にいるみなさんとをつなぐこと」をテーマに、Localist Tokyoという団体を立ち上げ、主にイベントを企画し運営していました。
ーなぜ地域と東京をつなぐことをテーマにしたんでしょうか。湯浅さんの動機を知りたいです。
東京でサラリーマンやることが合ってなかったというのはあくまで一つのパターンの話で、今の自分の生き方や働き方以外の選択肢があると知ることで、僕がハッピーになったんですよ。自分と同じような課題をもっている人がいることを知って、それを自分のテーマにしたら、僕もハッピーになるし、同じような課題を持っている人たちもハッピーになっていくんじゃないかと思ったんです。自分も他人もハッピーになるなら、テーマにしない理由がないじゃんって。(笑)
ー名言ですね。(笑)ちなみに湯浅さんは、「東京でサラリーマンをすることが自分に合ってない」とおっしゃっていたんですが、どんな部分が合ってないと思われたんでしょうか。
他人と自分や、他社と自社を比較して競うような部分ですね。東京で働いているときは「〇〇円でこの仕事をしてください」とコミュニケーションすることが多いなと思っていたんです。でも、僕はそうじゃなくて、お客さんが根っこの部分で求めていることを聞いて、「企画から一緒に考えましょう」というのが自分に合った仕事の仕方だなと思うんです。塩尻に住んでいる今の方がそういう順番で仕事をすることが多いんですよね。
ーなるほど。仕事に結果だけを求められるのか、過程から求められるのかが大きく違うと思うんですが、東京と塩尻市での仕事の仕方について、湯浅さんの実感と大きく違うった点は何でしょうか。
「仕事になるかどうかわかんないけど、とりあえず相談に乗って欲しい。」と言ってもらえることだと思います。例えばぶどうを売ることを考えたとき、東京のパターンで多いのは、「このテレビ番組でぶどうのライブ配信をしください」と言われることです。でも、長野県や塩尻市にいると「ぶどう農家をしていて、このぶどうを売りたいと思っている。ライブ配信がいいような気がしているんだけれど、どうなんですかね。」という相談のされ方が多くて。そうやって相談してもらえると、例えば、ぶどうがキラキラしていて、ビジュアルが他の品種よりも圧倒的に勝っているなら、ライブ配信よりも動画にして4Kで配信する、つまり手段を変えたほうがよい、という話をしやすいんですよ。それがしやすいのは、塩尻市にいると、信用できる人や、信用できる人の知り合いからお仕事をもらうことが多いからだと思います。
ーあぁ、確かに東京と比べたら、知り合いとか、知り合いの知り合いとかでこんなことしてる人いるよって話からお仕事をもらうことは多くなりますよね。
みんなそうだと思うけど、信用できる人の意見は聞けるんだよね。でも、東京だと信用できる人かどうかはあまり関係なくて、ライブ配信ができるかどうかが大事なんだよね。だから、極端な話、手段が適切でなくても、ライブ配信という手段を提供してくれればそれでよいということになってしまうんです。
ー東京でのお仕事は、きっと、ライブ配信できたという結果があればよいですからね。
そうですね。大事なのは、自分はどっちの仕事の仕方が好きかということで、僕は前者のように、お客さんが求めていることの相談に乗って適切な手段を一緒に考える方が好きだなんです。
ーなるほど。
あ、誤解のないように言っておくと、長野県だから知らない人とは仕事はしないとか、東京都だから信用できる人とは仕事をしないという話ではなくて、あくまでも僕の体験上の割合の話ですので。
ーはい。お客さんが求めていることの相談に乗って適切な手段を一緒に考えることについて、湯浅さんはそのスタイルがお好きなんですか。
スタイルそのものというより、そのスタイルを取ることで、その人のために自分がその仕事をする動機が生まれるんですよ。
ー動機、、なるほど。
もちろんお金は大事なんですが、お金のために仕事するというよりも、僕はこの人のために仕事したい、と思って仕事をしたいので。それが生まれやすいのは、今のところ、長野県や塩尻市かなと。
ー自分はどんな仕事の仕方が好きか、を自覚することが大事なんですね。
【幼少期に転勤族だったから、自分で変えることを選んだ】
ー湯浅さんは、自分が納得して仕事をすることと、それが誰かのためになるということが大事だと思われているように感じていまして。そんな湯浅さんはどのような中学生時代を過ごされたのかが気になります。
中学時代、僕の家は転勤族だったんですよ。中学生で2回転校しているんです。転校ってけっこう大変で、行く先々でアウェイ(孤独)になるんですよ。でも、自分ではどうしようもなくて。やさぐれるような感じだったと思います。(笑)住む場所や通う学校はコロコロ変わるから、友だちになったと思ったら、また一から友だち作りをしなければいけなくなって、「もう、どうしたらいいんだよ」って。それが全然納得いかなくて。
ーそうだったんですか、、
そうやって中学時代に納得のいかないことが多かったから、僕はいろいろなことに納得したいという気持ちが人一倍強くなったのかもしれませんね。誰かに自分の人生を左右されるんじゃなくて、誰かしらの影響は受けるけど、自分の人生は自分で決めようと思うように変わったのかもしれません。
ー納得したいと思うようになった経緯に納得します。
とにかく、自分の生き方や働き方に満足していて、本人がハッピーならいいんですよね。現状に違和感があるなら、今の世界に囚われずに別の選択をすればよいということを中高生時代の体験によって考えさせてもらったのかもしれません。
ー誰かに主導権を握られるのではなく、自分が人生の舵をきる考え方へと変化した岐路はどこだったんでしょうか。
若い頃は、こうしたいとかああしたいってことを口に出すだけで、「まだやれない」とか「実力がない」とか思ってしまって何もしないままだったんですよね。でも、東京で働いている社会人が、東京以外の場所に移住したり副業したりして関わりたいと思う人たちのコミュニティ(Localist Tokyo)を作ったら、仲間たちに受け入れられて、喜んだり共感したりしてもらえて、それが自分の自信になったと思うんです。
ー誰かが共感してくれたり応援してくれると自信になるし、嬉しいですよね。
ー最後に、若者にメッセージしたいことはありますか。
納得いくことをやってみてはいかがですか。言ったことや、やったことの答えはすぐに出ない場合が多いから、とにかく自分がやり始めたことを継続してください。信頼できる友だちに、「これってこうしたらいいと思うんだけど、どう思う?」って聞いてみたらいいんじゃないかな。そしたら、「こうしたらいいんじゃない?」って言ってもらえて持っていた考えをアップデートできるかもしれないし。
リンゴが好きだと言ってることが話題になって、それが周りに伝わると、リンゴ農家さんを紹介してもらえるようになるなんてことがあるんですよ。だから、継続して発信していくことを続けていくと、世界が開けることがあるよって言いたいです。
ーたしかに、私はパスタが好きだって周りに言ってると、友だちがおいしいパスタ屋さんを教えてくれることあります。
これはサラリーマンをしていても同じで。新しいことを任される人って、「これやりたいです」って言い続けていると、仕事が回ってくるものなので。例えば、リンゴが好きだったら、おすすめのリンゴを配っちゃうとか、プライベートでリンゴのイベントを始めてみるとかね。そうすると、リンゴに関わる地域事業をするって話があったときに、いつもリンゴが好きって言ってて、リンゴのイベントしてるあいつに任せるかってなるじゃん。実際にイベントとか何らかの行動を取っている人は、説得力があるよね。そこまでしてやりたいんだって思うから。
ー確かにそうですね。言うだけじゃなくて、行動してる人は、本気なんだなって思います。
ちょっと面白そうだなってことがあったらそれをやってみて、おいしいですねって喜んでくれる人がいると、自分は好きなことやってるだけなのに、誰かが喜んでくれることが、またそれをする動機にもなるし。そういうことがいろんな人に起きたらいいなと思います。
【これからの時代の仕事論】
ー誰でも動画を配信できるYoutubeや、記事を投稿できるnoteというアプリが発明されたことで、インターネットに繋がることができれば誰でも自己表現できるし仲間を集められるし仕事もできるような時代になった現代は、ものすごくよい時代だなと思っています。自分の好きなことはのめり込んできっと得意になっていって、得意な人に仕事を頼みたいと思われるんだろうから、そこで秀でていれば仕事をもらえますよね。その一方で、敷居が低くなって誰でも言いたいことを発信できるからこそ、自分の発信したことが埋もれてしまうこともありますよね。埋もれてしまったとしても、何かにのめり込んだ過程で気が付いたことや学んだことが別の仕事に活きるのかなともと思うのでそれはそれで貴重な経験だとはおもうんですが、何が仕事になるかはタイミングも関わるし、今後はどうなっていくんだろうなぁなんて思っていて。そういったことについて、湯浅さんが考えていることはありますか。
埋もれることについては、「誰に届けたいか」が明確になっていることが大事だと思います。発信する前に、必要としている人は誰で、その人にどんな情報を届けたいのかについて考えることは大事ですね。僕はLocalist Tokyoというコミュニティに所属している人たちに届ける「ラフ〇」という番組を配信しているんですが、もともとは対面して話をしている人たちなので、届ける人たちの顔が浮かぶんですよ。その人たちがどうやったら聞いてくれるかを考えて発信するので、その精度を上げていけば埋もれなくなるんです。また、誰に届けるかではなく、発信するタイミングが悪くて埋もれてしまうなら、継続しましょう。(笑)毎週発信していれば、どこかの回かで観てくれるかもしれないので。
ーなるほど。「誰に届けたいか」を考えることって、インターネット上の情報発信だけでなく、イベントを企画するときや、商品開発するときなど、様々な場面で重要な要素ですよね。
そうですね。もう一つの、仕事になるかどうかについては、配信の技術や情報は瞬時に共有される時代なので、この先もずっと仕事にしていけることは難しいと思っています。パソコンやスマホはどんどん高性能になっていて、以前は放送のプロにしかできなかったことが、今は個人ができるようになっているので。だから、技術ではなくて、例えば、信用とかが大事になってくるんじゃないかと。
ー人との信頼関係が仕事につながるのではないかということですか。
そうですね。仕事にならなくてもやり続けて、人とのつながりを築いておくとか、精度を上げておくとかしているのが大事だと思います。同じ配信の技術を持っていても、ゲストを呼んできて、一緒に楽しく話す企画の立案からやってくれる人がいれば、この人にお願いしたいと言ってもらえるんです。
技術だけではないテーマやこだわり、人とのつながりや企画力などをまるっとセットにして売っていく方が、仕事として埋もれないし、競合が出てきにくい。仕事をもらってから初めてやるんじゃなくて、頑張った分の差を簡単には超えられないように、仕事になる前からやっておくってことが秘訣かも。差をつけるために仕事してるわけではないけどね。(笑)
ー差というとマイナスなイメージとして捉えるかもと思うかもしれませんが、あることを熱心にやっている人がいたら、この人に頼みたいと思いますよね。
そうだよね。りんご農家やりんご屋さんだったら、自分のところのりんごを愛してくれる人に仕事を頼みたいじゃん。そう思ってもらえる状況を作っているかどうかだよね。よそでやっていたあの企画を家でもやりたいと思われたら最高だよね。
ーそうですね。
好きなことややりたいことを継続してると、いざという時、楽だねという話。
ー好きなことをやっていて、それが自分を救ってくれるなら、一石二鳥というか。
そう思う。すきを見つけてください、ということをメッセージとして加えます。(笑)
ー承知しました。(笑)
与えられた好きではなくて。例えば、パンケーキに特化したアカウントを作ってフォロワーをたくさん付けるとかね。パンケーキが好きならそれは全然苦ではないから。
ーそうですね。
再生回数や登録者数ではなくて、好きだからやるというのがおすすめです。
ー配信のプロが、他者の評価ではなく、動機が自分にあるのが大事であるとおっしゃっているところがいいなぁと思います。だから続くし、やっていて楽しいんですよね、きっと。
これからの時代って、たぶん自分にとっての幸せを定義することが大事になると思うんですが、自分にとって何が幸せなのかってよくわからないと思うんですよ。よくわからないから、あれをしといた方がいいんじゃないかとか思って、気が付いたら自分が一番面白いと思うことじゃなくて、やった方がよさそうなことをしていることがあるんじゃないかと思います。わからないならよけいに、自分が一番興味のあるとか面白そうだって思うことをやったらいいと思うんです。だって、自分が一番夢中になれることなら、自分の持っている限りの能力を使うから。全力でやったことは気づきや学びが最も得られると思うので。そう思っているんですが、湯浅さんと話をしてよけいに、自分がのめり込んでしまうことを「継続」してみることが大事、ということも教わりました。あ、もちろんそれだけじゃなくて、あくまでも割合の話で。(笑)
---もっと知りたい、湯浅章太郎さん---
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