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やりたいことやってる大人ってかっこいい ー自分がかっこいいと思う大人になりたい若者に伝えたい、渡辺 捷揮さんの話ー

聞き手:豊泉元歌
話し手:渡辺 捷揮さん
※聞き手はー○○で記載

>渡辺 捷揮さんのプロフィール
1993年生まれ。神奈川県横浜市出身。地元の高校で学び、東京都千代田区にある専修大学へ進学し、卒業後は2年間商社*に勤める。2017年から長野県飯田市の地域おこし協力隊として活動し、現在は飯田市と横浜市の2拠点に事務所を構え、地域創生に特化したデザイナーとして活躍されている。
商社*とは、貿易や国内企業から製品を調達し販売する会社のこと。

【好きなことを仕事にしてるから楽しそう】


ー 中学高校からこれまでの人生で、進路選択に関わるお話について教えてください。

僕は、芸術家の家庭に生まれました。幼いころからデザインや絵について教えてもらってたんですけど、中学生で反抗期に入り、「僕は親と違ってサラリーマンになってやるんだ」って思ってしまいまして。

それから、大学で勉強して世の中のことをいろいろ知るうちに、自分に向いてる仕事や、ありたい生き方って、サラリーマンとして仕事をしていくことではなさそうだって思い始めたんですよね。

ーなるほど。

大学は商学部に所属していたので、友達はガチガチのサラリーマン路線を進もうとしていたり、会社員として生きていくのに適した環境にいたりしたので、今からクリエイティブな仕事をするのは厳しいかなと思って、卒業後は、商社に就職しました。でも、どうしてもあきらめきれず、誰も知らない環境でクリエイティブな仕事をしたいなと思っていたところ、長野県飯田市の地域おこし協力隊の仕事を頂きまして、デザインの勉強をしながら地域貢献をして現在はフリーランスでデザイナーをしています。

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ー 中学生のころはサラリーマンになろうと思っていて、大学生で、自分の望む生き方はサラリーマンではないと気づいたとき、どのような違和感を感じたんでしょうか。

大学の講義を通じていろいろな社長さんの生き方に目を向けるようになったとき、自分がしたい生き方は、会社の社長さんではないなって思いました。ある講義で、デザイナーさんの話を聞いたとき、「自分はこんなふうに生きたいな」って思ったんです。そこが岐路だったかもしれません。

ー 講義をされたデザイナーさんはどんな方だったんですか。

教授の知り合いだったんですが、アニメのイラストを描くし、グッズのデザインもするし、飲食店をやっているとか、とにかくやりたいと思ったことを全部やっているような方でした。

ー やりたいことを全部やるような生き方に憧れたんでしょうか。

やりたいことをやる、という感覚で仕事をするような生き方かな。
僕が大学生の頃は「ブラック企業」という言葉が流行っていたので、友達は勤務時間数や、年間の休日の日数を基準に仕事を選択する人が多かったんです。一方で、僕の親は、仕事が終わってなければ夜まで仕事し続けてるし、休日は週末ではなくて、休めるタイミングで休むような働き方をしていて。それでも、好きなことを仕事にしているから、楽しそうなんですよね。

ー なるほど。その後、すぐにデザイナーを目指さず、サラリーマンとしてお仕事されたのはどうしてでしょうか。

大学生のときに、好きなことを仕事にするような生き方がかっこいいなっていう結論に至ったんですが、これまで、僕は親や友達に、サラリーマンとして生きていくことを明言してたので、「今さら人生の道筋を変えられないな」って思ってたんですよね。僕はあのとき決めちゃってたから、今こうやって生きてくしかないんだって思っちゃって。

ー 当時の渡辺さんは、どうして「決めちゃったら変えられない」と思われたんだと思いますか?

そうですね、ちょっと話が長くなりますが、僕はそれまで、サラリーマンとしてみんなと同じように生きていくために、けっこういろんなことを頑張ったんですよ。(笑)

ーはい(笑)

僕は協調性があるほうじゃないし、数字も苦手で、サラリーマンやビジネスマンにはあまり向いてないなって思ってたんですけど、そういう弱点みたいなものを克服するために、積極的に人の輪に入ったり、勉強して資格取ってみたりとかしていて。そういう行動をもったいないなと思っちゃったのはあるかな。

ー そういう努力をしている自分がもったいないということですか。

そうですね。これまで僕は感覚的にデザインすることはできていたんですけど、センスも仕事とはいえ、デザインを仕事にするなら勉強が必要だと思ってたんです。でも、デザインの勉強はしていなかったので、全然勉強してないデザインの領域に進むより、ちょっとでも努力したほうに進む方がいいかなと思ったんです。

ー 数字や周りの人に合わせることは向いてないなと思っていても、努力したほうを仕事にした方がいいと思われたのは、なぜだと思いますか。

「世の中って、すごい厳しいんだろうな」って思ってたからだと思います。
今はYoutuberやリモート(会社から離れた場所で仕事をすること)ができますが、当時は好きなことをして食べていくことってあんまり浸透してなかったというか、そういうのって一握りの人しかできないんだろうと思っていました。僕はその一握りの人には当てはまらいんだろうなと思ってたので。そうやって、好きなことして食べていくよりも堅実な方を取ったって感じですかね。

【今自分がやってることはかっこいいか】


ー サラリーマンを辞めて、飯田市の地域おこし協力隊をやろうと思ったきっかけは何ですか。

僕がサラリーマンをしていたとき、とても仕事のできる年配の方が中途入社されて、その方とランチをした際に、前職について尋ねたんです。そしたら、前職はカメラマンとしてアメリカで高速道路の写真を撮って販売していたそうで、他にも、キャンプにハマってキャンピングカーの会社を始めたり、ジャマイカのコーヒー畑を買ってフェアトレードで日本に輸入したりと、さまざまなことをやっていた方だったんです。

その方は自分の好きなことをいろいろやっていたので「好きなことやったらいいよ」って言ってくれたんですが、僕は生意気にも「好きなことやってて食えるかどうかわかんないですよね」って言って。(笑)

ー 純粋な疑問をぶつけたんですね。

その方は僕の質問に対して、「それはそうだけど、自分のことをドラマの主人公だと仮定して、今自分のやってることがかっこよいか、そのドラマが面白くなるか、ってのを軸に考えたほうがいいよ」って言われたんです。
その考え方が面白いなと思い、それ以来僕は自分を主人公にする人生を生きるように心がけていて。当時、僕は自分に「僕のドラマは面白いドラマになってるか」って問いかけたときに、いや、なってないなって思ったから、現状を変えようと踏み出し、地域おこし協力隊になりました。

ー 中途入社されたご年配の方は、「好きなことをして食べていけるか」という質問について「食べていけるかはわからない」という回答でしたよね。それでも、渡辺さんが地域おこし協力隊に踏み切ったのはどうしてだったんでしょうか。

あることが好きな人がその好きなことに一所懸命になっていれば、わりと食べていけるかもなってことを、その年配の方だけでなく、他の会社の社長さんと会って肌感覚で感じていたからかもしれませんね。

ー なるほど。

渡辺さんがドラマの主人公だと仮定して、主人公がしていたらかっこいいというイメージはどんなものだったのでしょうか。
地方でクリエイティブなことをしてる人たちです。企画を考えて、田舎のシャッター街でいろんなイベントやってる人たちとか、限界集落などでアートフェスティバルを企画してる人とかってかっこいいなって思ったんですよね。そうなりたいなって思いました。

ー 具体的であり、意外性のあるイメージですね!そういう人たちは、渡辺さんの感覚として、どのようにかっこいいんですか。

うーん... なんかこう、ミスマッチじゃないですか。(笑)

ー ははははは(笑)かっこいいとか言っておきながら、かっこ悪いって言ってますね、渡辺さん。(笑)

いやぁ~、東京やニューヨークでそういうかっこいいことやってても、鼻につくというか。都会ってかっこよさが溢れている町なので、そこでかっこいいことしてても当たり前というか。

ー あぁ~、なるほど。

かっこよさが優先されてない田舎で、お洒落なことやかっこいいことやるほうが、逆にかっこいいかなと思って。

ー そういう価値観をお持ちだったんですね。ここに一つ、「かっこいい」という言葉について新たな概念が生まれたように思います。(笑)
#「かっこわるいからかっこいい」(笑) すみません、遊びました(笑)

ー ちなみに、実際に田舎で活動されている方々について調べられて、「地方でクリエイティブなことをしている人たち」がかっこいいというイメージを持たれるまでにどのような経緯があったんですか。

前職でM&Aっていう、資金繰りに課題を持っていたり、違う会社を興したかったりする社長さんから会社を買い取らせていただく仕事をしてたんですよ。社長さんはご自身が1から築き上げた会社を売るので、僕は社長さんに、起業すると決めたときの気持ちや経緯について尋ねながら、いろいろな生き方を知っていったような感じですね。

ー いろいろな社長さんのお話を伺う中で、いわゆる田舎でアートフェスティバルやクリエイティブなことをされていた方がいらっしゃったんですか。
そうですね。田舎で新しいことをやりたいから会社を売りたいんだよって人がいて、そんな姿がかっこいいなって思って。

ー 地方でクリエイティブなことしてる人たちに憧れて地方へ行こうと思われて、それから、「飯田市」へ行こうと思ったきっかけはあったんですか。

趣味はキャンプなんですが、東京にいたころは、よく長野県でキャンプをしてたんですよ。

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だから、長野県にいいイメージを持ってたんですが、僕はあんまり雪国で暮らしていける気がしなくて。長野県の中でも雪の降らない場所を探してみたときに、南信州いいなぁ~って思って、飯田市にご縁を頂いたような感じですね。

ー 雪国で暮らしていける気がしなかったのは、寒いからですか。
雪国で暮らした経験がないのと、初めての一人暮らしで雪国に住んじゃったら、すぐ実家に帰っちゃうかもしれないなと思って、雪の降らない飯田市にしました。

ー そうなんですね。(笑)


【誰がみてもお洒落に見えるか】


ー デザインはどのように学んばれたんですか。

地域おこし協力隊の仕事って自分でチラシ作ることが多いので、自分がすごいなと思うチラシやかっこいいと思うチラシをまねて作ってみて、というのを何度も何度も繰り返してるうちに、何も見ずにお洒落な色味やレイアウト(何をどこに配置するか)が浮かぶようになってきたんです。

その後、お洒落だと思うレイアウトについて、「誰が見てもお洒落だと思うか」という疑問が湧いて、その答えを探すためにデザインに関する本を読み始めました。よく、本には「この要素とこの要素をこのぐらいの間隔で置くと、どの人が見てもお洒落に見えます」ってことが書いてあって、そういうことを学びながらデザインを考えました。

ー 「誰が見てもお洒落だと思ってもらえるだろうか」と疑問が湧いたきっかけは何だったんですか。

ちょうどそのき、初めてお客さん(依頼人)が付いたんですよ。
依頼された方に、自分が一番よいというものを含めた3種類のデザインを提案したら、依頼人は、自分がよいと思うデザインに最も遠い案を選ばれたんですよ。「これはどういうことなんだ」って思って、そこから勉強し始めました。未だにそういうことはあるんですが(笑)

ー 自分が一番かっこいいと思ってることをやってみたけど、好きなあの子には全く興味をもたれなかった、みたいな感じでしょうか。(笑)

(笑)

ー お客さんに3種類のデザインを提案した際、未だに、自分が一番いいと思うデザインではないものを選んで頂くことがあるというお話だったのですが、そのことについて、渡辺さんはどんなことを思っていらっしゃいますか。

始めの頃は3つの案を考えるだけでも大変だったので、最初に作った案に最も力が入ってたんです。最近は3つともおなじ熱量でデザインできるようになったので、その中でも自分のお気に入りが一つありますという感じです。僕は初回の打ち合わせで、お客さんの好みや性格をよく見るようにしていて、お客さんが好きそうなテイストをその3つのデザイン案に混ぜておくんですよね。すると、その人の好みを混ぜたデザインが選ばることがよくあるんです。

ー なるほど。お客さんの好みや性格はどのように見ているんですか。

お客さんの服装は見ますね。それから、好きな映画や雑誌についてよく聞いておくと、その人の好みが見えてきますね。

ーなるほど。そこではなんだか、教養が求められそうですね。


【仕事としてのデザイン】


ー 仕事としてデザインをするってどういうことですか。

仕事でデザインをするときって、依頼人のために作るというより、依頼人のお客さんに商品を買ってもらうためのデザインなので、売れなきゃいけないんです。お洒落なものを作ろうとするより、お客さんが自然に手に取って、欲しいと思ってもらえるようなデザインを考えてます。

ー なるほど。仕事としてデザインすることは、デザインという手段で、受け取る人にどんな価値を生み出せるかが重要で、商品を買ってもらいたいと思っている依頼人への仕事に関しては、お客さんに欲しいと思ってもらえるという価値を生み出さなければならないんですね。

ー お客さんが欲しいと思ってもらえるようなデザインを考えていく中で、工夫されていることはありますか。

僕がある商品のパッケージを作る依頼を受けたとき、その商品と一番付き合いが長いのは、デザインの依頼人なんですよ。だから、「こうしたら売れるんじゃないか」という僕の憶測よりも、依頼人の意見のほうが重要で、依頼人に「どういう人に売れてますか」と聞きながら、お客さんが手にとってもらえるデザインを考えています。

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ー 商品と一番長い付き合いをしている依頼人の話す事実や意見を聞くんですね。依頼人によっては、かなり抽象的な意見をお持ちの場合もあるかと思うんですが、その際に工夫してることはありますか。

デザインをするのに最低限必要な情報を集めるための質問シートを用意して、依頼人と打ち合わせしながらそれを埋めたりしているんですが、実際にデザインを考える段階で、より詳細な点についての疑問が湧くんです。そのときは、依頼人に「ここの点はどんなふうに考えているんですか」って聞くんですよ。そこで依頼人との関係性が良くないと質問しにくいので、初回の打ち合わせで、依頼人と打ち解けるように努力してます。(笑)

ー あぁ、なるほど。デザイナーって、けっこう一人でクリエイティブな作業をするというようなイメージがあったんですが、意外と相手とコミュニケーションをとるんですね。もちろん、デザイナーによって職務内容はさまざまでしょうけど。

ー 最後に、渡辺さんが中高生に伝えたいことはありますか。

自分の中に「こういう大人になったらかっこいいな」という理想像を持っておくと、そういうふうになれると思うので、それを考えてみるといいんじゃないかと思います。

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ー「自分のなりたい大人像」ですか。

なりたい大人のイメージを持っていると、こういう進路を選んだら、こういうふうになれるかなというのが見えてくると思います。
あと、いろいろな大人の話を、たまにはちゃんと聞くと面白いかなと思います。

ー ちゃんと聞く、ってここではどういうことですか。

たとえば、おじさんたちって、毎回おなじ話をすることが多いと思うんですよね。(笑)

ー ふふふ(笑)

そういう話って、中高生のころは正直、面倒くさいから、はいはい、って聞き流しちゃってると思うんです。(笑)でも、たまにはその話について詳しく質問してみると、意外と深い話を聞けたり、生きるヒントをもらえたりするんじゃないかなって思います。

ー 渡辺さんご自身がそのような経験をされたんですか。

何回もありますよ。これまでの人生について、どんな思いで何をしてきたのかについて知ると、今まで鬱陶しいおじさんだったのが、尊敬の対象になるなんてことがありましたもんッ。

ー お、それはものすごい飛躍ですね。(笑)
  次回はその尊敬の対象になったおじさんの話を聞いてみたいです。渡辺さん、本日はどうもありがとうございました。