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フォントのデザイナーに会ってきた |フロップデザイン・加藤雅士さん インタビュー

 こんにちは、Typingart & Co. の中井といいます。今回は、フリーフォントや有料フォントを制作されている、フロップデザイン・加藤雅士さんにインタビューさせてもらいました。フリーフォントを検索した人なら誰もが知っているフロップデザイン。その代表をされている加藤さんに会いに、群馬県高崎まで行ってきました。(Photo : Sayaka Mochizuki

フロップデザイン・加藤雅士さんのプロフィール
グラフィックデザイナー。1998年にフォント制作を開始し、これまでに300書体以上をリリース。フォントを知らない人に楽しさを伝えるため、これまでに数々のプロジェクトを企画。フロップデザインのウェブサイトには「フォントの楽しさを1億人に届けたい」との素晴らしい言葉が。
フロップデザイン:https://www.flopdesign.com/

フォントを作ろうと思って、文字をデザインしてたわけではないんです

Typingart & Co. 中井(以下:中井) 加藤さんを初めて知ったのが、20年前のデザイン誌「デザインプレックス」1999年3月号です。

フロップデザイン 加藤雅士(以下:加藤) 僕が出た紙媒体は、これが最初かもしれないです。それか「フォントグラファーズ(フォント作成ソフトの解説本)」が先だったかな。

中井 フォントグラファーズもその時期ですよね。自分はフォントグラファーズの付録だった、「Fontographer(フォント作成ソフト)」の体験版でフォント作りを始めたんです。20年前…。原宿でフロッケ展がありましたね。フロッピーにフォントを入れて販売する感じで。

加藤 ありましたね。フォントエキスポとか。当時のFontographerは日本語領域がなくて、フルで作っても全然容量が軽かったから、低速回線のネットでもダウンロードしやすかった。フリーフォントをダウンロードするためにネットをよく回りました。

中井 私も加藤さんのフリーフォントを全部ダウンロードしました。

加藤 当時、「Illustrator(ドローソフト)」がびっくりするくらい使えてなくて。その頃のフォントは、パスが上手に描けないから、矩形ツールでうまいことごまかして、合体させて作っていました。

中井 そうとは思えないクオリティです。これまで300書体以上制作をされてますが、その全てに加藤さんのテイストが出ていて、ひと目で楽しいって感じるデザインですよね。

加藤 もともとフォントを作ろうと思って、文字をデザインしてたわけではないんです。フォントをウェブにアップロードして、ダウンロードページを用意する際、使用サンプルのイメージを凝ってしまうんですよ。イラストだったり、文字を加工したり。それが面白くて、作っていたというのがありますね。

フォントを知らない人にも、使って楽しんでもらう

中井 確かに使用サンプルのイメージ、作り込まれてますよね。

加藤 デザインに携わる人はもちろんなんですけど、フォントに興味ないって人にも使ってもらいたいというのがありますね。フォントを知らない人でもサイトに来て、楽しめるような感じを目指してます。

中井 「このフォントで、こんな言葉を書きたいって思えるものを作っている」というメッセージを拝見したことがあります。それもフォントに興味がない人へのアプローチとして素敵ですよね。

加藤 フロップデザインのフォントは、デザイナーなどプロの人たちよりも、どちらかというと、それ以外の人たちが使って楽しいと思ってもらえればいいなと。そんな感じ作っていますね。

中井 フォントを使えばこんなに楽しめるよ、こんな楽しいことがあるよと、一貫されていますよね。

加藤 多分それは1998年(フロップデザイン設立年)から一貫しています。それがスタンスなんだと思います。

中井 フォント名を忘れてしまったんですが、タイピングするとみんなが手を繋いでるイラストが出来上がる…

加藤 かなり古いのですね。「フォークダンス」です。

中井 フォークダンスです。当時あのフォントを拝見したとき、衝撃でした。フォントはこんなに楽しくていいんだって。パンクでした。

加藤 あれはそこそこ良かった(笑)。割とフロップデザインらしいフォントだったのかなと思います。当時は色んなところで使われて、ビットマップフォントなので、画像化しても容量が軽かったっていうのもありますし。

 こうやって、昔からフォントをダウンロードしてましたとか、デザインプレックスや、フォントグラファーズを見て、フォントを作り始めましたっていう人に会うと、めちゃめちゃ嬉しいですね。

 あの頃は、ちょうどアナログからデジタルへの移行期で、モリサワ(フォントベンダー)さんもフォント数が少なく、写植がそこそこ主流だった頃です。その時、フリーフォントを作ってた人が、今もやっているっていうのは少ないですね。現在までコンスタントに作っているのは、僕くらいかもしれないです。

中井 20年以上も。

加藤 そういう意味では、インディーズフォントの歴史を体現しているかもしれません。

フリーの日本語フォントの一部は、ディスプレイ用として作ってました

中井 加藤さんのフォントは、媒体を問わず色々なところでみかけますよね。日本語(和文)フォントは本当によく見ます。「フロップデザインフォント」や「うつくし明朝体」、「スマートフォントUI」、「かんじゅくゴシック」など。挙げるとキリがありません。

加藤 あの4つは、ウェブフォント用として作りました。だけど、印刷媒体でよく使われてて、実際はディスプレイとか、デジタル媒体に使われるイメージでデザインされているんです。そのため14ピクセルに合わせて作っています。

中井 そうなんですか。

加藤 14分割のグリッドをひいて、それを繋げる感じで作っているんです。ディスプレイに表示した際、にじまないようにと思って。でも、最近はディスプレイが高精細になってて…。フロップデザインのウェブサイトにはウェブフォントが使われてます。

日本語フォントの漢字制作は、苦行だと思っていた

中井 時代に合わせてフォントの展開も様々ですね。昨年末にリリースされた日本語フォント「姫明朝体」についてうかがいます。漢字を含めた約4600文字をお一人で作られたということで、制作した経緯をお聞かせください。

加藤 いままでリリースしていたフォントは、ひらがなやカタカナがメインでした。かなフォントに魅力を感じていたんですが、フリーフォントでも漢字が含まれるというのが、当たり前になってしまって。

 漢字は苦行だって思っていたんですが、「すずむし」の作者が、漢字を作るのが楽しいと仰っていたのを思い出して。すずむしを見ると、フォントが漢字ベースの考えなんです。漢字ありきの。それを意識すると面白いなと思い始めてみました。

中井 私も拙いながら「森と湖の丸明朝」という日本語フォントを作ったんですが、1年半かかって、やっぱり苦行でした。最初と最後の文字で、デザインのテイストが少し違ったり。

加藤 テイストの視点でいうと、丸ゴシックや丸明朝って普通の角があるゴシック体や明朝体より、手書き以外では一番早くできて、Illustratorで作りやすいんです。フォントを早く作るって、あまりあってはならないことなんですけど。そういった意味では、デザインテイストを保ちやすいんですね。

簡単にフォントが作れれば、面白いと思ってもらえる

中井 なるほど。作るモチベーションも維持しやすいですね。Tipsをうかがったところで、現在制作中のフォントがあれば拝見したいんですが…

加藤 これは初期の作り方のように、Illustratorで円や半円を組み合わせて、角丸のプラグインを使って、作っているものです。組み合わせただけでも、こんなにかわいいものができるんです。これくらいなら誰でもできるし、フォント作りが面白いって感じてもらえると思います。

みんなでつくる「平成最後のフォント」その時の流行りにあわせて、楽しんでもらう

中井 フォントの作り方を知ってもらうには、ピッタリですね。一文字ずつ形が出来ていくのが楽しくなります。それでは最後に、フロップデザインさんの最新のプロジェクト「平成最後のフォント」についてうかがいます。なにか、きっかけがあったんでしょうか。

加藤 うちの奥さんが「平成最後になにかやったほうがいいんじゃないの?」って。それを真に受けて「平成最後」ってキーワードいいなって(笑)。ちらっとツイートしたら反応がよかったのもあります。

中井 みんなで一文字ずつ作ろうって、壮大で平成最後な感じです(笑)。

加藤 フォントの認知度を上げたり、フォントの敷居を低くしたいって試みをいつもしています。その時の雰囲気にあわせて、特に今は、世間でSNS離れが言われて、クローズドのコミュニティが流行にあるから、Slackの利用や参加費をいただいたりしてやっています。

 現在、割と大きな規模になってて、他の人がフォントを作っている過程が共有されたり、プロジェクトから派生して新たにコンテンツが生まれたり、楽しい感じになっています。

中井 フォントを作る人や、興味がある人たちとのやりとりって、あまりないですからね。改元のタイミングで、フォントが公開されるのが待ち遠しいです。

 何度も繰り返しになってしまいますが、加藤さんのデザインしたフォントからも、こういったプロジェクトからも、フォントを楽しんでねっていう思いがとにかく溢れていますね。

加藤 常に意識していますから、そう言ってもらえると、ありがたいです。

中井 本日は、ありがとうございました。大変勉強になりました。

おわり

※インタビューを終えて
 加藤さんは学生時代、プロダクトデザインを専攻されていたそうで、そんなバックグラウンドが、今のフォントを作ることに繋がっているんだと感じました。まさに人が使う道具(フォント)をデザインされているんだと。そして、その道具をみんなで作って、みんなで使っていきたいという思いをずっと持たれています。本当に素敵な方でした。

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