「赤黄色の金木犀」という、最高に"自然的"な曲
1.フジファブリックというバンド
2.「赤黄色の金木犀」を飽くまで語る
3.まとめ
1.フジファブリックというバンド
皆さんは、フジファブリックというバンドをご存知でしょうか。
代表曲は「若者のすべて」で、この曲はYouTubeでは5,000万再生を超え、
私の持っている音楽の教科書でも紹介されています。
作詞・作曲者である志村正彦さんの地元の山梨県富士吉田市では、
彼の誕生日7月10日の前後に、夕方6時を告げるチャイムとして
毎年流れている、語るに尽くせない不朽の名曲です。
しかしながら、2009年12月24日、彼は29歳の若さで、
惜しくもこの世を去られてしまいました。
それからもメンバー3人で「フジファブリックという大切な場所を、
音楽を作り続けながら守っていく」という覚悟を持ち、2011年に
バンドの継続を決め、活動を続けてきましたが、2025年2月を以て
活動を休止すると発表されました。
色々あったと思います。作詞・作曲のほどんどが彼によって作られたので、彼の死後も、彼の意志を継いでバンドを再開したことは、彼想いであり
またファン想いでもある、本当に素晴らしいことだと思います。
私がこのバンドを知ったのは、多分、小学生の頃でした。
父が車の中で流していた曲が無意識の内に記憶の中に刻まれたのでしょうか、私は食傷気味になるまで同じアーティストの曲を貪り聴くタイプなの
ですが、高校生のある日にふと思い出し、そこから朧気な記憶を探る旅が
始まりました。
そうしてそれから、「赤黄色の金木犀」という曲と出会いました。
2.「赤黄色の金木犀」を飽くまで語る
最初に聴いたときは、へぇ、なんだかノスタルジックな曲だなぁ、
くらいに思っていました。しかし、何度も聴いている内に、この曲の良さ、素晴らしさを知らない人のほうが多いなんて、もっと色んな人にこの曲を
知ってもらいたい、共有したいと思う気持ちが膨らんできました。
私はちょっと音楽をかじった程度の一般人ですが、同時に志村さんの
作る曲の永遠のファンです。この曲とは一生付き合っていくつもりです。
…前置きはこのくらいにして、さっそく素人なりに、この曲の凄さについて語りまくっていこうと思います。レッツゴー!
・違和感がないのに記憶に残るフレーズ
まず、イントロのギターがとにかく美しいです。右で鳴っている音が
この曲のメインとなるフレーズで、淀みなく続きます。
流れるように緩やかに演奏され、引っかかる音が一切ないので、
最初の時点でするっと "秋" に引き込まれていきます。
ドラムのスネアに合わせてシャンとなるタンバリンの音もいいですね。
歌に入るとイントロは消え、コード準拠の左のギターが音を紡ぎます。
Aメロ1 ⇨ 間奏 ⇨ Aメロ2 ⇨ サビ といった移り方をするのですが、
間奏では「ウーリッツァー」という電子ピアノがちらりと顔を見せ、
更に時折入ってきては唸るようなギターが響き渡り、まさに幻想的な
世界が眼前にありありと展開せられます。
Aメロ2では歌の一部分にハモリが加わります。
綺麗なハモリとともに淡々と歌われますが、
「僕は残りの月にする事を 決めて歩くスピードを上げた」
という歌詞に続いて、本当に曲のスピードが上がります。
なんていい演出なんだろう。こういうとこ最高です。大好き。
サビに入ってから曲のアウトロまで、ずっと同じリズムで突っ切ります。
ライブでは走りがちでしたが、そこもまたご愛嬌というものです。
歌に定型のリズムがあり、とてもキャッチーなサビですね。
また歌詞も非常に美しいです。
赤黄色の金木犀の 香りがしてたまらなくなって
何故か無駄に胸が 騒いでしまう帰り道
なんでこんなに短い歌詞なのにそんな表現ができるんですか。驚嘆です。
オレンジ色を赤黄色と表現するところも素敵です。
という感じで1番が終わり、オルガンのソロが入ります。
このソロがまたやばいです。ノスタルジックマシマシで、震える音に
聴く人の感情もまた揺さぶられます。綺麗という言葉では表現し足りない。
この曲どこを切り取っても全部いいんですよ。
そうして回転するようにオルガンのソロは終わり、これまた
別のメロディーのCメロ的なゾーンに突入します。
つらい胸中を明かすかのように、歌と共に、ドラムも激しくなります。
ここのコード進行についてどうしても触れたいのですが、
この曲のキーはE♭メジャーで、このCメロ的ゾーンでのコードは
期待外れな程 感傷的には なり きれ ず
A♭ ⇨ B♭⇨ Bdim ⇨ Cm7 ⇨ B♭ ⇨ A♭
目を閉じるたびに あの日の言葉が 消え てゆ く
F(onA) ⇨ B♭ ⇨ Bdim ⇨ Cm7 ⇨ B♭ ⇨ E♭
という感じで、Bdimを挟むことによって苦しそうに上がっていくのと、
更に2回目でA♭からF(onA)に変わっているのに意表を突かれます。
半音ずつ上がっていくことで、より感情がグワーッとなるんですね!多分。
落ちサビに入るとコードを弾くギターだけが残り、どこか哀愁を感じさせるような、夕暮れのような淋しさが漂う空気に包まれます。
そしてここの歌詞も本当に素敵。
いつの間にか地面に映った 影が伸びて解らなくなった
あっという間に時が流れることをこんなふうに表現できるんですね。
タイムラプスのように雲が流れ、それに合わせて自分の影もどんどんと
長く曖昧になっていく様が鮮明に浮かびます。
そしてラスサビですが、ぜひMVと合わせて見ていただきたいです。
香りがして たまらなくなって ッジャーン!
バンドメンバー全員が揃って同じタイミングで手を引く姿が
最高にかっこよくて、つい真似しちゃいたくなります。
最後のアウトロでは迫るようなリバースSEが他の音をかっさらい、
急にもとのイントロのフレーズが帰ってきて、テンポも戻ります。
余韻の残り方がすごくて、秋の夜の少し冷たい風が通り抜けていくように、
ずっと伸びているオルガンの音が震えながら消えて、この曲は終了です。
・するすると入ってくる美しい日本語の表現
次は歌詞に注目していきたいと思います。
(※ここからはあくまで私個人による解釈です。ご注意ください!)
もしも過ぎ去りしあなたに
全て伝えられるのならば
それが叶えられないとしても
心の中準備をしていた
最初からもう心をグッと掴まれます。思い当たる相手がいる人は多いと
思います。あの人は今何をしているのだろうか、もう一度だけ会って
話がしたいとは思いつつも、きっといざ対面してみると話すことに迷う
だろうから、色々と近況などをまとめているのでしょうか。
冷夏が続いたせいか今年は
なんだか時が進むのが早い
僕は残りの月にする事を
決めて歩くスピードを上げた
最近はどんどん夏と冬が幅を利かせてきて、春と秋はみるみる小さくなって挟まれていく感覚がなんとなくありますが、そんな昨今においてもやはり
秋は確かに存在します。そうして
「僕は残りの月にする事を 決めて歩くスピードを上げた」
という歌詞の、後悔にサヨナラを告げて前へと進み始める姿が描かれると
ともにサビへナチュラルにつながる、その一連が、本当に滑らかで。
全編を通して平易な日本語で書かれているので理解しやすく、
それでいてあまりにも洗練された歌詞に、ひたすら感嘆するばかりです。
赤黄色の金木犀の香りがして
たまらなくなって
何故か無駄に胸が
騒いでしまう帰り道
そうして歩くスピードを上げた途端に香る金木犀。
よく金木犀には、香りを嗅ぐと懐かしくなるという感覚が付随して
描かれることが多いかと思われますが、いざ未来へ進もうと決意した
矢先に、過去を思い出させる金木犀の香りがしたことに戸惑った、
というように私は受け取りました。
期待外れな程
感傷的にはなりきれず
目を閉じるたびに
あの日の言葉が消えていく
金木犀によって、昔のことが次々思い出させられたけども、それらを
思い出してみても、それは自分が思っていたよりも自分を「感傷的」に
させるものではなかった。そんな程度の思い出になってしまったせいで、
「あなた」と交わした「あの日の言葉」が、時が経てば経つほど
記憶から消えていってしまうことを、とても苦しそうに歌い上げます。
いつの間にか地面に映った
影が伸びて解らなくなった
そうして時間は残酷に流れていきます。
赤黄色の金木犀の香りがして
たまらなくなって
何故か無駄に胸が
騒いでしまう帰り道
そこにもう一度香る金木犀。個人的に2通りの解釈ができると思っていて、
・これ以上過去の記憶を引っ張り出さないで、思い出のままにさせて
・風化しつつある過去を捨て、未来へ進もうとする決意を固めてくれる
という感じでしょうか。
私はもともと前者の解釈だったのですが、なんと先駆者様がいらっしゃり、
そのお方のnoteを読みながらポジティブな受け取り方の解釈も参考にさせて
いただいたので、誠に勝手ながらここにリンクを貼らせていただきます。
・最初からそこにあるかのような"自然的"な曲
色々と述べてきてしまいましたが、この曲には一番の特徴があると
考えていまして、とにかくナチュラルなんです。
わざとらしくない歌詞はまるで独白のように、ただその思いや感情を、
誰かに語るためというよりはむしろ自分の中で反芻するために、自分を
見つめ直すために書いたんじゃないかというくらいナチュラルで。
曲も一切の違和感――引っかかり――がなく、するすると入っては
抜けていきます。それなのに、深く心に刻まれて私を離してくれません。
音楽というのは人為的であって然るべきだとは思いますが、この曲は
そういった人為的なこだわりを良い意味で感じさせない、つまりどこかが
突出していればリスナーの意識はそこに吸われやすいけども、この曲は
とにかくバランスがよく、奇跡的に完全な球体を形作っているのです。
これは私がそう感じているだけでの話ではありますが、そう受け取って、
私は初めて心から感動しこの曲を心に刻むと決めました。
それほどにこの曲は魅力的で、また完璧なのです。
3.まとめ
めっっっちゃ長くなりましたが、書きたかったことは以上です。
ここまで付き合ってくださって本当にありがとうございました。
穏やかなのにどこか儚く、またまさに "秋" を体現したかのようなこの曲は、
フジファブリックの「四季盤」という春夏秋冬を表した4つのシングルの
秋の季節を飾りました。
またこの曲は3rdアルバム「フジファブリック」に収録されています。
四季盤もアルバム収録の他の曲たちも、誇張抜きに全部いい曲です。
ぜひ聴いてみてください!!いつか他の曲も語るかもしれません。
その時は今回ほど長くはならないと思います(笑)
おしまいです。読んでくれたあなたに、心の底から最大級の感謝を!
それではまた!