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契約書の読み解き方
「フリーランスライターのブツクサひとり言」第18回
前回は契約書の読み方・書き方の表面を撫でる程度にしか書きませんでした。
今回は実際に私とクライアントの間で交わされた契約書を使って、どう読むか、どう解釈するかを解説します。
あくまで「私はこう読んでいる」という話になります。
ここで例に挙げる契約書は、出版社から私へ、ゴーストライターを依頼する内容です。
第2条に登場する◇◇◇◇氏が著者。
私は◇◇◇◇氏をインタビューして書籍の原稿を書き、◇◇◇◇氏の著書として出版される前提での契約です。
長くなりますから、休憩を挟みながら読み進めてください。
まずは一度、契約書の全文を通読してみてください。
個別の解説は、このあと条文ごとに分けて行います。
尚、固有名詞は伏せてあります。
業務委託契約
株式会社○○△◇(以下、「甲」という)と○○○○(以下、「乙」という)は、下記のとおり業務委託契約(以下、「本契約」という)を締結する。
第1条(目的)
甲及び乙は、甲乙間の取引が当事者間の信頼関係を基盤とするものであることを認識し、信義に則り誠実に契約を履行し、公正な取引関係を続けることを目的として本契約を締結する。
第2条(業務の内容)
甲は、乙に対して、◇◇◇◇氏にヒアリングを実施して○○に関する書籍 1冊分の原稿(以下、「本著作物」という)の制作業務(以下、「本業務」という)を委託し、乙はこれを受託する。
2.原稿作成量が別途定める文字数を超える場合は、甲乙誠意を持って協議の上、再度業務内容を定め別途契約を締結する。
第3条(権利の帰属・保証)
本著作物の著作権(著作権第27条及び第28条に定める権利を含む)及びその他の権利は甲に
帰属する。
2.依頼主および甲乙が別途協議の上、権利の帰属について定めた場合には、前項の規定は適用されない。
3.乙は、本著作物のうち◇◇◇◇氏からのヒアリング内容を除く部分に関して、第三者の著作権、肖像権その他いかなる権利も侵害するものではなく、かつ、合法的なものであることをそれぞれ保証する。
4.乙は、本著作物のうち◇◇◇◇氏からのヒアリング内容を除く部分に関して、第三者からの異議、苦情等の申立あるいは対価の請求、損害賠償等の請求があった場合には、弁護士費用も含めて、乙の責任と負担においてこれを解決するものとする。
第4条(納品)
乙は本著作物をワードファイルにて、○○年○月○日までに甲に対して納品する。
2.甲は、前項の納品を受けた後、依頼主とともに本著作物を検品する。
3.本著作物の検品の結果、修正等が必要な場合には、その対応について甲乙協議の上、これを定めるものとする。
4.甲は、本著作物の検品が終了し、修正等の必要がないと判断した場合には、乙に検品終了の通知を行う。本業務は、本通知の発信にて終了したものとみなす。
第5条(秘密保守義務)
甲及び乙は、本契約に基づく業務遂行の過程において知り得た相手方の秘密を第三者に開示・漏洩してはならない。ただし、次の各号に該当するものは除く。
一、既に公知のものである情報
二、相手方より開示を受けた時点で、既に正当に保有していた情報
三、相手方より開示を受けた後、当事者の責によらず公知となった情報
四、正当な権限を有する第三者から開示を受けた情報
五、法令や政府機関の規則により開示が要求されたときに当該要求に応じて開示
する場合
2.前項の規定は、本契約終了後も有効に存続するものとする。
3.甲及び乙は、その使用人及び取引業者等が、第1項の秘密情報を自ら不正に使用したり、また第三者に漏らしたりすることがないように適切に処置を講じなければならない。
第6条(委託料金)
甲は乙に対して、本業務の委託料金として金○○○○○○円(税別)を乙の指定する銀行口座に振込で支払うものとする。なお、振込手数料は甲の負担とする。
2.委託料金の支払いは、○○年○月○日及び第4条第4項に規定する検品の終了通知を発した日の翌月末日の半額ずつの支払いとする。
第7条(費用)
乙が◇◇◇◇氏へのヒアリングを実施する際の交通費の実費については、甲の負担とする。
第8条(再委託)
乙は、甲の事前の書面による承諾がなければ、本業務の全てまたは一部を第三者(以下、「再委託先」という)に再委託することができないものとする。
2.乙は、再委託先との間で、再委託に関わる業務を遂行させることについて、本契約に基づいて乙が甲に対して負担するのと同様の義務を、再委託先に負わせる契約を締結するものとする。
3.乙は、再委託先の本業務の履行について、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負うものとする。
第9条(損害賠償)
甲及び乙は、本契約の履行において相手方に損害を与えた場合は、これを賠償するものとする。
第10条(契約期間)
本契約の有効期間は本契約締結日から○ヶ月間とする。
第11条(契約の変更)
本契約の変更及び修正は、両当事者により署名または記名捺印された文書によってなされなければその効力を生じないものとする。
第12条(契約の解除)
甲または乙は、相手方がその責に帰すべき事由により、本契約の条項のいずれかを履行しない場合は、相手方に対して相当の期間を定めて書面による催告を行い、なお履行がないときは、書面による通知をもって本契約を解除することができる。なおこの場合でも、甲または乙が損害賠償請求することを妨げない。
第13条(権利義務譲渡の禁止)
甲及び乙は、本契約上の地位並びに本契約から生じた権利及び義務を相手方の事由の書面による承諾なく第三者に譲渡し、あるいは担保に供しないものとする。
第14条(契約終了後の措置)
本契約終了後においても第3条、第5条、第9条、第13条、第16条の規定は、なお有効なものとして存続するものとする。
第15条(別途協議)
本契約に定めていない事項及び本契約の解釈については、甲乙間互いに誠意をもってその都度協議決定するほか、従来の取引実情および一般慣習に従うものとする。
第16条(管轄裁判所)
本契約により生ずる権利義務に関するすべての紛争については、○○裁判所または○○簡易裁判所をもって第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
本契約成立の証として、本契約書を2通作成し、甲乙記名捺印のうえ各1通を保有する。
○○年○月○日
甲 株式会社○○△◇ 印
乙 ○○○○ 印
おつかれさまでした。
16項目にわたって小難しい文言が書き連ねてあって、慣れていないと正しく理解しづらいと思います。
それでは、条文ごとにみていきましょう。
まずは標題です。
業務委託契約
出版社が私に対して原稿の執筆を託すという契約ですから、そのまま「業務委託契約」となります。
株式会社○○△◇(以下、「甲」という)と○○○○(以下、「乙」という)は、下記のとおり業務委託契約(以下、「本契約」という)を締結する。
見慣れないワードが出てきました。
契約書の中にお互いの名をいちいち書き込むのは煩雑だし、かえって読みづらくなるためお互いの呼び方を決めておきましょうということです。
この契約書では出版社を「甲」、私を「乙」と呼ぶことになりました。
もっとも「甲」「乙」は固有名詞の代わりに用いるワードであって、上下関係を示すものではありません。
第1条(目的)
甲及び乙は、甲乙間の取引が当事者間の信頼関係を基盤とするものであることを認識し、信義に則り誠実に契約を履行し、公正な取引関係を続けることを目的として本契約を締結する。
第1条は契約の目的です。
「お互いに信頼感をもって契約を守りましょうね」ということが書かれてあります。
第2条(業務の内容)
甲は、乙に対して、◇◇◇◇氏にヒアリングを実施して○○に関する書籍 1冊分の原稿(以下、「本著作物」という)の制作業務(以下、「本業務」という)を委託し、乙はこれを受託する。
2.原稿作成量が別途定める文字数を超える場合は、甲乙誠意を持って協議の上、再度業務内容を定め別途契約を締結する。
第2条は、誰が何のために何をするのかが書かれています。
すなわち出版社が私に原稿に執筆を依頼するから、私は既定の文字数を満たした原稿を書いて出版社へ納めますという内容です。
第3条(権利の帰属・保証)
本著作物の著作権(著作権第27条及び第28条に定める権利を含む)及びその他の権利は甲に
帰属する。
2.依頼主および甲乙が別途協議の上、権利の帰属について定めた場合には、前項の規定は適用されない。
3.乙は、本著作物のうち◇◇◇◇氏からのヒアリング内容を除く部分に関して、第三者の著作権、肖像権その他いかなる権利も侵害するものではなく、かつ、合法的なものであることをそれぞれ保証する。
4.乙は、本著作物のうち◇◇◇◇氏からのヒアリング内容を除く部分に関して、第三者からの異議、苦情等の申立あるいは対価の請求、損害賠償等の請求があった場合には、弁護士費用も含めて、乙の責任と負担においてこれを解決するものとする。
第3条は、執筆した原稿が著作権その他、誰の権利も侵していないことを約束する内容です。そしてインタビューから得た著者の情報も、漏らしてはなりません。
もし漏らしてしまった場合、発生した損害に関して保証をしなければなりません。
第4条(納品)
乙は本著作物をワードファイルにて、○○年○月○日までに甲に対して納品する。
2.甲は、前項の納品を受けた後、依頼主とともに本著作物を検品する。
3.本著作物の検品の結果、修正等が必要な場合には、その対応について甲乙協議の上、これを定めるものとする。
4.甲は、本著作物の検品が終了し、修正等の必要がないと判断した場合には、乙に検品終了の通知を行う。本業務は、本通知の発信にて終了したものとみなす。
第4条は、原稿はワードファイルで出版社に納めること、その締め切り日について定めています。
出版社が原稿をチェックし、修正が必要ならばお互いに相談しながら対応しましょう。修正が必要なくても、出版社は私に「修正ありません」と知らせてねという内容です。そして、修正箇所がなくなった時点で、私の仕事は終わるということです。
第5条(秘密保守義務)
甲及び乙は、本契約に基づく業務遂行の過程において知り得た相手方の秘密を第三者に開示・漏洩してはならない。ただし、次の各号に該当するものは除く。
一、既に公知のものである情報
二、相手方より開示を受けた時点で、既に正当に保有していた情報
三、相手方より開示を受けた後、当事者の責によらず公知となった情報
四、正当な権限を有する第三者から開示を受けた情報
五、法令や政府機関の規則により開示が要求されたときに当該要求に応じて開示する場合
2.前項の規定は、本契約終了後も有効に存続するものとする。
3.甲及び乙は、その使用人及び取引業者等が、第1項の秘密情報を自ら不正に使用したり、また第三者に漏らしたりすることがないように適切に処置を講じなければならない。
第5条は、原稿を執筆する過程で知った著者の秘密を、外部へ漏らしてはならないことと、そのための最大限の努力をしなさいと定めています。
ただし、すでに公に知られていることまで隠さなくてもよいということ。
第6条(委託料金)
甲は乙に対して、本業務の委託料金として金○○○○○○円(税別)を乙の指定する銀行口座に振込で支払うものとする。なお、振込手数料は甲の負担とする。
2.委託料金の支払いは、○○年○月○日及び第4条第4項に規定する検品の終了通知を発した日の翌月末日の半額ずつの支払いとする。
第6条では、原稿料の金額と支払方法を定めています。
この契約では、○○年○月○日と私の仕事は終わった日の翌月末日の2回に分けて支払われることになっています。
つまり、仕事に取り掛かるときに半額を前払いしてもらい、仕事が済んだら残り半額を支払ってもらうことになっています。
出版社によっては本が出版されてから一括払いになっていたり、メディアの取材記事ではそもそも後払いになっていたりするのが一般的ですから、オファーを受けたときによく確認しましょう。
第7条(費用)
乙が◇◇◇◇氏へのヒアリングを実施する際の交通費の実費については、甲の負担とする。
第7条は、誰が経費を負担するのかを定めています。
たとえば著者をインタビューするために移動した交通費、電話をかけた通信費など、原稿を書くために支出したお金は、出版社が負担することが書かれています。
第8条(再委託)
乙は、甲の事前の書面による承諾がなければ、本業務の全てまたは一部を第三者(以下、「再委託先」という)に再委託することができないものとする。
2.乙は、再委託先との間で、再委託に関わる業務を遂行させることについて、本契約に基づいて乙が甲に対して負担するのと同様の義務を、再委託先に負わせる契約を締結するものとする。
3.乙は、再委託先の本業務の履行について、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負うものとする。
第8条は、この仕事を私が別のライターに依頼する「再委託」を、原則として禁止すること。ただし私が出版社に書面で申請して、出版社が承諾したらOKということです。
再委託の場合は、私は再委託先に私と同じ責任を負わせること、再委託先に関して私が責任を負うことは当然ですね。
第9条(損害賠償)
甲及び乙は、本契約の履行において相手方に損害を与えた場合は、これを賠償するものとする。
第9条は、そのままの意味です。どちらかの不手際が原因でもう一方に損害を生じさせたら、それを賠償するのは当然のことです。
第10条(契約期間)
本契約の有効期間は本契約締結日から○ヶ月間とする。
第10条で契約期間を定めていますが、これは事実上、形式的な取り決めと思ってください。
実際には原稿ができあがるまでとなります。
第11条(契約の変更)
本契約の変更及び修正は、両当事者により署名または記名捺印された文書によってなされなければその効力を生じないものとする。
第11条は、契約の内容を変更したり修正したりする必要が生じたときは、口約束で行うのではなく、内容を明記した書面で行いましょうということです。
第12条(契約の解除)
甲または乙は、相手方がその責に帰すべき事由により、本契約の条項のいずれかを履行しない場合は、相手方に対して相当の期間を定めて書面による催告を行い、なお履行がないときは、書面による通知をもって本契約を解除することができる。なおこの場合でも、甲または乙が損害賠償請求することを妨げない。
第12条は、どちらかが契約を守らないときの対処の仕方です。要するに「契約を守ってください」という文書を出しても無視されたら、契約を解除できますよということ。そして損害が生じていたら、それも請求できますということです。
第13条(権利義務譲渡の禁止)
甲及び乙は、本契約上の地位並びに本契約から生じた権利及び義務を相手方の事由の書面による承諾なく第三者に譲渡し、あるいは担保に供しないものとする。
本契約から生じた権利とは、私なら原稿料を受け取る権利がいちばん大きいでしょうか。出版社は私から譲渡した著作権が考えられます。
この契約に基づいた権利なので、第三者へ譲る場合には、お互いに了承が必要です。
第14条(契約終了後の措置)
本契約終了後においても第3条、第5条、第9条、第13条、第16条の規定は、なお有効なものとして存続するものとする。
契約が終了したらすべての縛りから解放されるわけではなく、権利の帰属・保証、秘密保守義務、損害賠償、権利義務譲渡の禁止などお互いおよび著者の権利を守るための約束は守り続けなければなりませんし、もし何らのトラブルが裁判沙汰に発展したときは第16条に定める管轄裁判所で行いますということです。
第15条(別途協議)
本契約に定めていない事項及び本契約の解釈については、甲乙間互いに誠意をもってその都度協議決定するほか、従来の取引実情および一般慣習に従うものとする。
この契約ですべての約束事を網羅することはできませんから、契約書に書かれていないイレギュラーが発生したときはお互いに話し合いましょうねということです。その際の判断基準は、取引の実情に合わせることと世間や業界の慣習に合わせましょうということが謳われています。
第16条(管轄裁判所)
本契約により生ずる権利義務に関するすべての紛争については、○○裁判所または○○簡易裁判所をもって第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
本契約成立の証として、本契約書を2通作成し、甲乙記名捺印のうえ各1通を保有する。
読んだとおり、裁判沙汰になったらどこの裁判所で争うかということです。
たいていの場合は、依頼主(この契約書では「甲」)が所在する地方裁判所か簡易裁判所です。
たとえば「甲」の本社が大阪府にあったら、大阪地方裁判所か大阪簡易裁判所になります。
○○年○月○日
甲 株式会社○○△◇ 印
乙 ○○○○ 印
最後に、契約を交わした日付と「甲」「乙」それぞれの名称と所在地、連絡先を記入して捺印します。
法人登録しているライターは社印を押し、フリーランスは個人印でもかまいません。
契約書は全く同じものを2通作成して、お互いに1通ずつ保管しておきます。
以上、出版契約書を例にとって説明しました。
これがたとえば、インタビュー記事を書く契約でも条文の解釈のしかたは同じです。
どちらかに過度な責任を負わせていないことを、お分かりいただけたと思います。