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フリーライターはビジネス書を読まない(61)

メンドクサイにもほどがある

田山から封書が届いた。
もう何度もメールをやり取りしているのに、長めのメールになると返事を郵便で送ってくるのは相変わらずだ。

DMで怪しげな商法に勧誘しようとしてきたので、返り討ちで逆に「チラシをつくってあげます」ともちかけたら乗ってきた。報酬もこっちの言い値でOKした。素直なのか単純なのか、それとも……。
いずれにしても、騙されやすいタイプのようだ。

封筒を開けたら、A4のレポート用紙に鉛筆で書かれた「下書き」が入っていた。メモに「これをパソコンで清書してください」とある。
へー、清書するだけでいいのか。

ほかに「イラストはこれを使ってください」と、雑誌から切り抜いたと思しきディズニーのキャラクターがぞろぞろ出てきた。
さすがにこれは使えないことをメールで伝えたら、ずいぶん時間が経ってから返事が来た。

〔だったら同じものを描いてください〕
いや、だから、それがダメだというのに。

〔顔の大きさを変えるとか色を変えたらいいと思う〕
それもダメ!

〔絶対にだめですか?〕
相手はディズニーです。著作権の侵害で訴えられたら、億単位の賠償を請求されますよ。払えますか。

〔払えない。あきらめる〕

メールでこれだけのやり取りをするのに、丸1日かかった。

とにかく清書だ。
文字の大きさが不均一で読みづらいけど、同じA4サイズに収まるように清書して、FAXで田山へ送った。
Wardのデータをメール添付すればいいと思っていたら、なんと田山はパソコンもワープロもないという。携帯電話のメールでいままでやり取りしていたのだった。てっきりキーボードに慣れていないから時間がかかると思っていた。

翌日、田山からメールが来た。
〔下書きを無視しないでください。字は実物大。フォントも違う〕
字は実物大? フォントの指定なんかあったか?

〔大きくしてほしい字は大きく書いてある〕
下書きを見てみると、たしかに大きな字や小さな字で書いてある。これはポイント指定のつもりだったのか。だが、そうであれば、こっちにも言い分がある。

右へいくほど文字の間隔が詰まっているのも実物大ですか? フォントの指定はどこにも見当たりませんが? そういう肝心な情報は漏らさず伝えてください。
〔字が詰まってるのはスペースがなくなったから。フォントは下書きの字で判断してください〕
下書きをよくみると、どうやらゴシック体のつもりなのか、縁取りをしてある文字もある。これがフォント指定? 無茶なことをいう人だ。

そろそろアホらしくなってきた。早めに終わらせよう。
田山がいうとおりに体裁を整えて、これでどうだと送ってやった。そしてやはり、ずいぶん時間が経ってからメールが来た。

〔思い通りにできました。ありがとう〕
やれやれ、思いのほか手間取ったけど、飲み代ぐらいは稼がせてもらった。
と、安心したら、田山から〔今度は相談です〕というメールが来た。

どんな相談だ? 待っていたけれど、メールはそれっきり沈黙してしまった。きっとまた、打つのに時間がかかっているのだろう。

自分の仕事に戻ることにした。大阪にある自費出版専門の出版社から、あるお年寄りの戦争体験のリライトを頼まれているのだ。締め切りが近いから進めておかないといけない。

2時間ほど経って、田山からメールが来た。
相談とやらの中身だろう

〔2回ほど行った風俗店の子が好きになりました。必ず口説ける方法を知りませんか〕

全身の力が抜けて、大きなため息が出た。
知らんがな……。

(つづく)

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