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フリーライターはビジネス書を読まない(56)

逃がさん!

原稿料を分割で支払うことを北原裕美に約束させた頃、私もやっとパソコンを導入した。
買い物に行った商店街にある電気屋で、Yahoo!のADSLを申し込んだらデスクトップの本体+モニター+キーボード+マウスが一式13万円弱で揃うというキャンペーンをやっていた。

今でこそ10万円を切る機種は珍しくないけれど、当時としては破格の安さだった。しかもネットに関しても「インターネットってなに? おいしいの?」という認識しかなかったので、パソコンをフルセットとネット環境が一気に揃うんだったら、この際13万円投資しようと、その場で決めてしまった。
これが私のパソコンデビューとなった。

北原の支払いは、初回から滞った。
「ハガキを送りましたよね?」
携帯にメールを送っても、
「ハガキをなくしました」と返ってくる。仕方がないから、振込先口座をメールで送って、やっと振り込まれるという状況に先が思いやられた。

2回目以降はしばらく順調に振り込まれたが、長くは続かない。滞ったり、なぜか勝手に金額を下げたりしてくる。
「約束通りしないと延滞利息も請求しますよ」と脅しつけるのは気が引けたけれど、ちょっと気を許すと、それを見透かしたかのように滞るのだ。

そんな状況だから、初めに予定した返済期間を大幅にオーバーして、3年目に突入した。北原だって、いつまでもダラダラ支払い続けるのはしんどいはずだし、こっちだって早く終わらせて北原とは完全に縁を切りたかった。

ある日、珍しく、北原からメールが届いた。
『ハガキを毎月お送りいただいてますが、どういう趣旨のものでしょうか?』
なんだって? 
振込先を書いたメモをなくすというから、それじゃ毎月ハガキに書いて送ってあげましょうと、北原も了承して送り続けているのだ。それを「どういう趣旨でしょう?」とは、どんな言い草だ?

経緯をもう一度説明すると、今度は、
『あのハガキは領収書だったと記憶しています』と返ってきた。
ダメだこりゃ。完全に忘れている。そもそも送りたくて送っているわけではない。
「すでに習慣になっていて、振り込みを忘れることがないのであれば、ハガキはもう送りません。しかし一度でも遅れたり滞ったりしたら、ハガキを再開します」
と返信した。
それに対する反論は返ってこなかった。

北原とそんなやり取りがあった頃、私はパソコンの扱いにも慣れて、原稿の執筆もワープロからパソコンへ完全に移行していた。
慣れてしまったら、その便利さはワープロの比ではない。もうワープロには戻れなかった。
そして、クライアントからの依頼を待つだけではなく、自分からも攻めていくつもりで、ひとつ企画を立ち上げることにした。

折しもペットブームが盛況なことに目を付けて、ペット自慢とかペットとの思い出を語ってもらって、それを自費出版につなげる。私は原稿を書いてあげて出版社を紹介し、原稿料を稼ぐ。
「ペットの本」というベタなタイトルを付けて、すでに開設していた自分のホームページに、企画の説明ページを追加した。
正直なところ「問い合わせぐらい来たらラッキーかな」というていどで、あんまり期待はしていなかった。

ところが1週間ほど経って、青森県出身という女性から「ペットの本のことで」とメールが来た。
仕事につながるかな、青森まで行くのは遠いなぁなんてことを考えながらメールを開いた。
「企画の詰めが甘いです。ペットを飼ってる人の気持ちが分かってないですよ」

は? なんじゃこれは。いきなりクレーム? しかも縁もゆかりもない青森の女性から。
詰めが甘いのは認めるとして、この人は何を求めてわざわざこんなメールを寄越したんだろう。発注する気がないんだったら、スルーしておけばいいものを。

「ご指摘いただいてありがとうございます。もし差し支えなかったら、どの点に詰めの甘さがあるのか、お教え願えないでしょうか」
努めて冷静に返信した。

すると今度は、
「たいへん失礼いたしました。見ず知らずの方に、あのいい方はないですよね。うちには2匹の猫がいます」
という、最初の印象とは別人のような返事が返ってきた。で、2匹の猫がいるから何なのだ? 
中途半端な終わり方が気になって、また返信した。
こうして見ず知らずの青森出身の女性と、不思議なメール交換が始まった。

(つづく)

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