フリーライターはビジネス書を読まない(23)
明日食べる米がない
バブル経済が弾けても、東京の編プロからはビジネス書の原稿依頼をもらっていた。ただ、依頼される本のテーマが明らかに変わった。
証券取引や金融の解説をする本がほぼゼロになり、暮らしの中で役立つ法律知識とか新社会人のためのマナーブックのような、生活にすぐ役立つ実用的なテーマへとシフトしていた。
そこで困ったことが起こる。
私をプロのライターにしてくれた編プロは、もともと経済系のビジネス書に強いスタッフを揃えていた。ところが出版社からオファーされるのは、経済とはほど遠いテーマばかり。編プロがそういうテーマの案件を次第に請けなくなると、私にも仕事がまわってこなくなるのは自然な流れ。すこーしずつ、依頼される頻度が落ちていった。
ひとつのクライアントだけに依存する最大のデメリットが、ここで露呈してしまったわけだ。
それでも社長は何かと気にかけてくれて、インタビューの文字起こしとか原稿の校正などを投げてくれてはいたが、単行本の報酬と比べたらケタが2つほど安い。
ATMコーナーのオートホーン対応で得られる報酬も、週に1日だけではたかが知れている。
これまでせっせとビジネス書の原稿を書いて得た報酬は、FAXを買ったり(当時は家庭用でもけっこうな値段だった)、ワープロを買い替えたりと、ライターとして業務するための環境を整えるためにつぎ込んでしまい、ほとんど残っていない。
ようやく環境を整えて、さぁこれから本格的に活動できるぞという矢先に仕事が激減したから、痛手は大きかった。
当然に困窮する。
住処はなんとしても維持しないといけないから、とにかく家賃だけは捻り出した。そうすると食費にまわせなくなる。
原稿料とかオートホーン業務の報酬が入ってくる日まで半月以上あるのに、財布に紙幣が入っていない。
でも腹は減る。
とりあえず栄養バランスは二の次にしても、飢えることだけは避けたい。
まだ100均のない時代。苦肉の策で考えたのが、ベーカリーで食パンの切れ端、いわゆる「パンの耳」だけ買ってきて、それをトースターで焼いて腹を満たすことだった。
食パンだと1斤で200~300円だけど、パンの耳は同じ分量が30円で買えた。
でも、そんな生活は、せいぜい半月が限度。月末に金が入ると、ふつうの食生活に戻した。
1994年が暮れようとする頃、郵便局へ行ってハガキを100枚ほど買った。
東京からの仕事が減る一方なので、大阪のクライアントを開拓するために、ダイレクトメールを出そうと考えた。封書だと封筒が要るし、中に入れる文書を印刷する紙、切手代などがかかるから、経費節減のためハガキにしたのだ。
ワープロで業務内容とプロフィールをなるべくコンパクトにまとめた文書を打って、ハガキに印刷した。
あらかじめ図書館で調べておいた、大阪にある出版社、編プロ、制作会社、そして印刷会社に至るまで片っ端から送った。
そして年が明けて間もなく、阪神淡路大震災が起こる。それが私の転機になった。
(つづく)
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