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契約違反だ、提訴する!
「フリーランスライターのブツクサひとり言」第12回
フリーランスの取引先は、多くが出版社や制作会社です。でも稀に、個人からオファーを受けることがあります。
ギャラがお高めなので、うまく進めばおいしい仕事になります。反面、トラブルが発生したときは、自力で対応しなければならないリスクをはらんでいます。
とある士業の人から「自費出版する本のストーリーをつくってほしい」というオファーが来ました。ストーリーをプロにつくってほしいというので、私は引き受けました。
依頼主には出版に関する知識がないため、進行は私が主導することになります。
依頼主がどのようなストーリーをイメージしているのかヒアリングを行い、それに沿ったストーリーを考えました。
その間もリモートでたびたびミーティングを行い、ストーリー展開について中間報告をしたり、私から適切なアドバイスを出したりしていました。
ストーリーが9割ほど出来上がったときでした。
依頼主から急に「契約違反で提訴します」というメールが届いたのです。
どういうこと?
どう考えても、契約違反の要素なんか見当たりませんでした。
状況が把握できず考えあぐねていると、続けてもう1通メールが来て、
「いま仕事を降りたら提訴は勘弁してやる」というのです。
そこで察したわけです。
「弁護士」とか「○○士」など「士」がつく国家資格をもつ士業の人たちはプライドが高いという話を聞いていました。
一介のフリーライターに主導権を握られているのは、その人のプライドが許さなかったのでしょう。小生意気なフリーランスを排除する機会を伺っていたのだと。
ストーリーが9割がた出来上がって「あとは自力でなんとかなる」と考えたのかもしれません。結局、最初の打ち合わせを行った際の交通費と出張費だけを受け取って、私はその仕事から降りました。
「最後までやらせてください」と食い下がっても、その時点でお互いの信用は崩壊しているので、よい結果は生まれませんから。
さて、その後はどうなったのでしょう?
気にしても腹が立つだけですが、あの依頼主は自力で最後の仕上げを行って出版にこぎつけたのでしょうか。
ふと思い出したときに、依頼主のホームページを見に行くことがあります。
あれから10年が経った今でも、本を出したという情報は出ていません。自費出版は、きっと成就しなかったのだと思います。
この件を通してフリーランス(とくに若手)の方々に教訓を得てほしいのは、個人からオファーが来たときは個人対個人の契約を避け、間になるべく法人を挟むこと。
たとえば自費出版の原稿を頼まれたら出版社を紹介して、依頼主には出版社と契約してもらうこと。そして自分は、出版社からの原稿依頼を受ける形をとりましょう。
そうすれば面倒な事務処理は出版社お任せできるし、トラブルが発生したときも出版社が対応してくれます。