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夢か現か


頭が割れるように痛い。

ここ数日はベッドに入ってもなかなか寝つけない。サイレースの効き目が悪くなってきた。

ベッドを抜け出し、サイレースをもう1錠口に放り込みグラスに入った琥珀色の液体で流し込む。

どれくらいの時間が経ったのだろう。気が付くと私は荒れた部屋の壁にもたれ、座りこんでいた。皮膚の表面は熱く火照っているのに、身体の芯はゾクゾクと冷たい。汗をかいたのだろうか、掌がヌルヌルとして気持ち悪い。遠くから聴こえてきたサイレンが頭に響く。


夢と現実の境が曖昧になっている。


あのひとのせいだ。

数ヵ月前、あのひとから突然捨てられた。

これは、はっきりとした現実。


あのひとが私の元へ帰ってきた。顔をぐちゃぐちゃに濡らしながら、私にすがるように謝る。

そんなことはあるはずもない。これは明らかに私のつくりあげた妄想だ。

私はあのひとを赦し、狂ったように抱かれた。


だったら、ついさっきのあれは⁉


あのひとと良く行った行きつけのスナック。私は紫に滲むネオンを見つめ、雨に打たれながら店の外に立っている。誰かが都はるみの「好きになった人」を歌っている。

あのひとが店から出てきた。暗がりで佇む私のことなど気づいてはくれない。

彼の後ろで赤い傘が開いた。ねじれた長い髪の派手な化粧をした女が、あのひとの腕に自分の腕を絡め密着した。彼が女の傘を取り上げ、ふたりの上に差した。ふたりは私に背を向け歩き出す。

私は女に向かって走り出していた。手にはネオンの光に照らされて、妖しく光る物を掴んでいる。渾身の力をこめて体ごとぶつかった。


寒い。身体の中心から冷えきっている。なのに皮膚は燃えるように熱い。

私はスナックの壁に体を預け、アスファルトの上に座り込んでいる。路上に何かがふたつ転がっているように見えるが、よく見えない。獣のような呻き声が聴こえる。片方の影がピクッと揺れ、そのまま動かなくなった。

自分の両手を握り合わせる。ヌルヌルとした感触で、全身から嫌な汗が出てくる。


頭が痛い。早くベッドに戻りたい。

悪い夢なら覚めて。

もしも現実だったのなら、サイレースの残りを全部、生のままのウイスキーで流し込んでしまおう。

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しめじ
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