息子よ
息子よ、
お前にもいつかこんな日がくるのはわかっていた事ではあるが、
息子よ、
いざこうやって目の前で照れくさそうに、それでいて最高に嬉しそうに話す姿を見ると、お前のまだ小さかった頃の事を思い出しては口許がにんまりと弛んでしまうよ。
小学校に入りたての頃まではお母さんに手を繋いでいて貰わないと不安で眠れなかった事や、ひとりでは夜中にトイレに行けなかった事、近所の犬に吠えられて泣きながら家に帰って来た事なんか思い出して吹き出しそうになる。
知らぬ間にこんなに図体も大きくなり、俺の身長を越えやがった。
今ではスーツも一丁前に着こなすようになって、父の日には俺に似合ったネクタイなんか選んでプレゼントしてくれたりしやがる。
しかし、いいパートナーを見つけたな。
さっきからお前の事を誉めまくっているじゃないか。
やさしくて頼りになる?
芯がしっかりとしていて逞しいだとさ。
おいおい、止めてくれよ、俺の知っている息子はそんなにいい男なんかじゃないぞ。
いかん、また笑いが込み上げてきた。
だが、まんざらおべんちゃらばかりとは言えんだろう。
きっと彼女の前ではカッコつけて、いい男を演じているはずだ。
俺だって母さんと結婚する頃はそうだったから良くわかる。
でもな、息子よ、
そのカッコつけるって事は大切だぞ。
好きな女にカッコもつけられないような男だったら、俺が許さん。
まあ、今はそんな時代ではないらしいがな。
それでだな、カッコつけるのはだな、ずっと続けなくちゃならんのだよ。
息子よ、解るか。
これからお前はこのパートナーとなるお嬢さんと、新しい家庭というものを築いてゆくのだ。
いずれ子供ができれば、お前たち二人で三人分の命を守らねばならん。
だからお前は少し無理をしてでも、カッコつけ続けなくてはならんのだ。
決して途中で挫けてはならん。
辛いことがあったら、時にはパートナーに甘えさせてもらうのも大切だ。
だが、次の日の朝にはまた、シャキっとカッコつけろ。
家族を不安にさせるな。
それからだな、息子よ、
これは家庭を維持していく上でとても重要な事なんだがな、もしもパートナーと喧嘩になった時はだな、お前が一旦引け。
いくら男女平等だと世間で騒いでいてもだな、男と女ってやつはそもそも身体の仕組みが違えば、脳の回路だって違う。
特に母親ってもんは、子供ができた途端に別の人格に変わるものだと思っていた方がいい。
強くなるぞ、子供を持った母親ってやつは、覚悟しとけよ。
他所で声高に言える事でもないかもしれんが、実際に経験してきた俺が言うのだから間違いはない。
なんだか俺の主張みたいになってきてしまったがな、
息子よ、
お前ならきっといい家庭を築けるさ。
俺は信じてる。
少なくとも俺よりわな。
お前の選んだパートナーを信じて、たくさんの幸せな瞬間を手に入れろ。
大変な事もいっぱいあるが、喜びもいっぱいあるぞ。
今日の俺と母さんみたいにな。
大丈夫、お前ならやれる。
大丈夫、お前達なら築いていける。
俺は信じているよ。
毎日祈ってもいい。
お前達の輝かしい未来を。