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メキシコツアー体験記(ズッキーニを添えて)

 昨年の9月「大学生は海外旅行に行くべき」との世論(ほんまかいな)に押されて阪急交通社のメキシコツアーに参加した。安全面を考慮してツアーを選んだが、集まったのは50〜70代の余裕ありげなおじ様おば様方。大学生の私と友人は明らかに場違いな空気を醸し出していた。とはいえ旅行は非常に楽しいものだったので、4日ばかりの旅路のことを記したい。

1.ズッキーニ天国ビバMexico

愛しいズッキーニたち
美味しいタラと人参のピラフと人参の付け合わせと人参のスープ

 野菜がにんじんとズッキーニしかない。どの店行ってもにんじんとズッキーニが大量に添えられてる。添えられてるというか最早雪崩れてる。ピラフもスープもサラダも同じ食材を使ってる。ズッキーニがふよふよ泳いでる。でも味は違うのでとってもエコ。

2.キッスよ、永遠なれ。

メキシコの中心部にあるグァナファトは、かつて鉱山で栄えた歴史と文化の街だ。スペイン植民地時代の影響で、美しいコロニアル建築が街を彩っている。

大学や大聖堂があり、治安も良い。

この写真を撮ったのは「ピピラの丘」だ。街を一望できるこの丘には、メキシコ独立戦争で活躍した英雄・ピピラの銅像が建てられている。ここは、植民地時代の名残とそこからの独立、その両方を象徴する場所でもある。

次に案内してもらったのは「口づけの小径」というロマンチックな名前の道だった。家と家の間の狭い通りで、ベランダから身を乗り出せば恋人がキス出来ることから、この名になったという。ガイドさんはウキウキとしながら「下から3段目の階段でキスをすると2人の幸せが7年間保証されるらしいです、どうぞ!」と言った。どうぞと言われても困る、我々は恥ずかしがり屋の日本人なのだ。ツアーに参加した夫婦たちは皆、恥ずかしそうにピースだけしてソソソと帰って行った。私は相手がいなかったのでキスする必要はなかったが、幸せになりたかったので一応投げキッスだけしておいた。ガイドさんは無言でこちらを見ており、一通り写真を撮り終えると「はい、行きますよー」と言った。行き場のない投げキッスは今もメキシコのどこかを彷徨っていることだろう。

3.凸凹コルテス

 ちょうど独立記念日前後に来たため、国全体がめっちゃお祝いモードになってた。この3日間で「ビバメヒコ!」の歌を結構口ずさめる程度には聞いた。そう、メキシコは独立記念日は国をあげてお祝いし、歌い明かす文化があるのだ!広場には煌びやかな装飾を施され、国の至る所にメキシコ国旗が飾られ、大統領が鐘を鳴らして国民は飲む、飲む、叫ぶ、飲む、花火がドーンと打ち上がる。

陽気な祭りだが、その背景にはスペインによる侵略の歴史がある。メキシコは16世紀にコルテスが攻め入って以来、年間スペインの支配下に置かれていた。今でもメキシコの道はボコボコと歪んでいることが多いが、それは侵略の際に地盤沈下を考慮せず建物を壊したり建てたりした名残である。貴重な遺跡だってコルテスの破壊により土台しか残っていない。そんな屈辱の歴史を乗り越えた先の9月13日だかはこそ、国民は自由を手に入れたことを全身で祝うという。

破壊されてしまったピラミッドたち

…コルテス酷っ!!!

世界史の授業ぶりに出てきたコルテスへのヘイトがたまる。と言っても世界の歴史の半分は戦争の歴史とも言われている。私たちだって例外では無いし、凄惨な歴史の上に今の文化が成り立っていることを噛み締めた。

4.チップよ、川の流れのごとく

 我々日本人一行は複数の歌を披露してくれるタイプのレストランに入った。机の前では男女グループが「ビバメヒコ」(何度も聞いたやつ!)を歌っていたが、私たちを見ると曲を変えた。聞き覚えのあるメロディ…美空ひばりの「川の流れのように」だ!彼らは一言一句間違えることなく、美しく歌い上げた。日本人である私たちとメキシコ人である彼らが1つの音楽で繋がっている感覚に感動し、私は僅かばかりのチップを差し出して感謝を伝えた。

 彼らが去ると、次はアステカの衣装を身に纏ったおじさんたちが登場した。私は非常に困った…メキシコでは何かしてもらったら会計の10%程度のチップを渡すのが普通だが、度重なる散財で現金がコーラ1杯分しか残っていなかったのだ。おじさんは私たちに「日本の皆さんこんにちは!」と挨拶してくれたが、日本人観光客は誰ひとりとして挨拶を返さなかった。みんな、公共の場で声を上げるのが苦手なタイプだった。続いておじさんは「私たちトモダチ!トモダチ!」と言いながら踊り始めた。踊りというか小走りのようなもので、声を上げながらテーブルの前を行ったり来たり音を鳴らしたりした。場には困惑した空気が漂っていた。その芸は正直、美しいとかリズムが良いとか言えるものではなく、私たちは盛り上げることもなく、黙々とタコスを食べていた。曲が終わると、おじさんがチップをもらいにやってきた。私は10%にはみたない小銭を差し出した。小声で「アリガト…」と呟くおじさんに私は「ごめん…」と心の中で念じた。

 顔を上げると、テーブルにいた8人は誰一人としてチップを差し出してなかった。みんな財布をゴソゴソと漁るふりをして、そのまま目を合わせないように俯いていた。そういえばこの人たちはさっきの川の流れをようにを歌ってくれたお姉さんにもチップをあげていなかった…!私は俯くおじさんとおばさんに段々腹が立ってきた。腹が立ったと言えど私の財布にもお金は無い。所詮は同じ穴のムジナなのである。

5.なんて美しきパイソン

 死ぬまでに行きたい場所なんちゃら選に選ばれている「バスコンセロス図書館」に行ってきた。ほどほどの期待度で行ったが、確かにこれはかなり綺麗だ。7階建の本棚が空中に浮いており、一筋の道が空間を隔てる。真ん中に立ってピースすると、海を割るモーセみたいだ。

図書館なので入館料は無料!建築としてめちゃくちゃ良かった。

 しかし、私が感動したのは外観よりも自習スペースの快適さだった。観光地化しているせいで地元民は少ないのでは?と思っていたが、実際には観光客は私たち以外だけで館内はガラガラ。2階〜7階では空調が効いた広い机でビジネスマンがカタカタとMacと叩いていた(私は喉から手が出るほど阪大図書館にこれが欲しい…!)。
ちなみに7階まで登って最初に見つけた本はPythonの参考書で、次はExcelの本だ。幻想的な本棚とは裏腹に、意外と機能的な蔵書が並んでいる。その向かいには日本語コーナーもあり、メキシコ版日本語の教科書が何冊も置かれていた。「私は京都に行きます」「私はリンゴが欲しいです」などの日本語を見て「これがI have a penの例文読む外国人の気持ち…!」と妙な気持ちになった。そんなこんなで時間になったので我々は図書館を去った。政府の方々、自習室だけでいいのでこんな図書館を日本に設置してくれないだろうか。

 他にも、陰謀論に傾倒してそうなツアーのおじちゃん(最終日のディナーで永遠と日本の未来を説教された!)とか、世界一美味しい(ほんまかいな)コーラとか、死者の道のピラミッドとか(これはめちゃ綺麗)色々面白いものが見られた。短い旅だったが強烈なラテンパワーを浴びて、元気をたっぷりチャージ出来た。今度行くならマヤ文明の遺跡なんかも見たいなぁ。

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