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小説「水龍の竪琴」第4話

パンパンパン!と大きな拍手が店中に響き渡った。店の主人、オーロであった。若い頃は王族の親衛隊に属し、頬には傷跡があってがっしりとした体躯である。店に来る客の中には渋好みでオーロ目当ての者もいた。最近店にはあまり出ることはなかったが、この騒ぎをまとめるには彼しかいないと店を引き継いでいる若夫婦が呼んできたのだ。

「さあさあ、私の店で大騒ぎは困るぞ、そこのべっぴんさん二人と派手な兄ちゃんはこちらに来なさい。そちらの兵隊さんは、兄ちゃんと仲直りするなら来てもいいぞ。」
と、オーロはサウラとディオナ、青年を別室になっている厨房に呼んだ。ドナンは不服だったが大先輩であるオーロには逆らえない。火花を散らしながら青年と手先でちょっと握手すると黙り込んで皆の後について厨房へ入った。
そして店の中は皆不服そうに暫くざわついていたが次第に興奮も冷めていき、小波のようないつもの語らいの場に戻っていった。

4.厨房にて
「さて…。どういういきさつでサウラ様がこんなところにいらっしゃるのですかな?」
サウラとオーロは初対面であったが、ディオナは常連客で、オーロはその高貴な身分もよく知っている。ディオナと似た面差しから、このプラチナブロンドの美少女が水龍の巫女サウラであることは一目瞭然であった。
「私は…。」一語一語噛みしめるようにサウラは言葉を継いだ。「数日中に御神託を得るために水龍の泉に参ります。水源から出る水が不足していて国民の皆が困っていると聴きました。何が起こっているのか、自分の目で見たかったのです。」
「めっちゃ真面目じゃん!」
青年が楽しそうに、しかし感服した様子で声を上げたが、ドナンとディオナににらまれて黙り込んだ。
「サウラ様は日頃こちらにはいらっしゃいませんからお気づきにはならなかったと思いますが、酒もつまみも料理も全て値上がりで庶民の財布を直撃しています。店に来ると出費がかさむので家飲みにする者も増え、客数は2、3割は減っていて酒場を切り盛りするのも一苦労です。水の値上がりは全ての作物、加工品の値上がりをまねくのです。郊外の畑では作物が育たず苦労していると農家の民が訴えて来ますが私一人の力ではどうすることもできません。」
オーロの話にサウラは言葉を失った。自分が王宮で何不自由なく暮らせるのは、国民の支えがあってこそだと、直感の鋭いサウラは瞬時に理解した。
「そうなのですね。私は経験不足でそういった大事なことも何も知りませんでした。私にできることは水龍神のお言葉を降ろすだけですが、全力で取り組んで参ります。」
オーロは微笑みながら頷いた。そして今度は青年の方を振り向いて尋ねた。「さて、そちらさんもただの旅の吟遊詩人とは思えない。まず名前からお願いしたいが?」オーロは柔らかに尋ねたが、元将校の貫禄に青年は思わず姿勢をただした。

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