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インクルーシブデザインアイデアソンに参加してきました
こんにちは、コンセントのサービスデザイナー藤井です。
2024年9/13〜15の3日間、インクルーシブデザインネットワーク様が主催するインクルーシブデザインアイデアソン2024に参加してきました。
インクルーシブデザインアイデアソンとは
ForUserではなく、WithUserなデザインを体験する
若い企業デザイナーや学生の皆様を対象に、普段接する機会の少ない障害者との協働経験や対話を通して、ダイバーシティや共生の意味を実感し、ユーザーセンタードの考え方でものづくりを行うアイデアソンを開催しています。
生活においてバリアがある方(以後、リードユーザーと呼ぶ)と一緒に、フィールドワークやデザインプロセスを実施する3日間です。リードユーザーを含む10名ほどのグループに分かれて、アイデアの発想を行いました。
このアイデアソンが凄いのは、リードユーザーさんが私たちデザイナーと3日間ずっと一緒に併走してくださるところです。
参考:インクルーシブデザインとは
過去はバリアフリーデザイン、ユニバーサルデザインなどと呼ばれた方法論です。リードユーザーを観察対象とすることで、従来のメイン対象者であったボリュームゾーンにも役立つアイデアを見出します。
インクルーシブデザインとは、⾼齢者や障がい者・外国⼈など、従来の製品やサービスの対象から排除されてきた⼈々を、デザインの上流から巻き込んでいく⼿法です。
参考:日本の人口の42%にバリアがある
65歳以上の人:3,600万人
障がいを持った人:1,169万人
3歳以下の子を持つ人:350万人
TAKESHI FUJIKI(Inclusive Design Network)が作成
どのようなプロセスを辿ったか
1日目:フィールドワーク・観察
1日目はリードユーザーさんと顔合わせをして、昼食を含む4時間のフィールドワークに出かけました。私のチームのリードユーザーさんは緑内障を患って2年前に全盲になられた方でした。「自分で料理を作りたい」というテーマを持ってきてくださいました。
普段業務でフィールドワークをする場合は、部屋を飛び出す前に調査企画を立てるのですが、今回はその時間はなく、まず部屋を飛び出しました。笑
今まで私は、リサーチクエスチョンをもとに、テーマに沿った調査企画をすることが今までほとんどでした。しかし、2日目にテーマに沿った調査を実施するのですが、この日の緩やかな観察によって、後のデザインに役立つ気づきを得られました。贅沢な時間だとも思いつつも「WithUser」であることの価値を強く感じた日でした。
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どんなシーンに対するアイデアを検討するか、の方針を決めてから1日目は終了しました。
2日目:プロダクトの大きさや形、機能の検討
2日目は、方針をもとにどのような仕様にするか?形にするか?体験にするか?を考えていきます。私のチームは一度、方針を決めて走り出すも、次の日のプレゼンテーションまでに形にすることに焦り「体験」よりも「プロダクト」の方に意識がいってしまいました。
そこで、テーマの題材であった「玉子焼き」を実際にリードユーザーさんに作ってもらい、その様子を観察することにしました。
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玉子焼きのプロセスでうまくいっていないポイントを洗い出し、どのようなアイデアで乗り越えられるかを考えていきました。
この観察があったことで、チームがプロダクト思考になっていたところが体験思考に戻ったような感覚がありました。
3日目:プレゼン準備
3日目は、プレゼンテーションの準備をしていきます。リードユーザーさんに作ったものの評価をライブでしてもらいながら、提案方式を整えていきました。
気づき・考えたいテーマ
インクルーシブデザインアイデアソンに参加してみて、気づきと考えたいことをまとめてみました。
1.withUserでデザインするとき気をつけたいことまとめ
リードユーザーさんと接する上での守って欲しいことや気にした方が良いことは、チーム内で共有する必要がある(実施に熱中してしまうと、つい忘れてしまう場面もあるので、定期的に確認する)
リードユーザーさんは何かバリアがあることでもいつものように「工夫で乗り越えてしまっている」「問題がないように振る舞ってしまう」ことがあるので、一見うまくいっているように見えても、立ち止まって確認する
リードユーザーさんの特性によっては「withすること」自体にバリアを感じる場面がある
例えば今回私のチームのリードユーザーさんは視覚障がいがあったので「付箋に書き出して、課題を俯瞰して分析する」などを実施するのが難しかった
一方、ユーザーテストなどは「発話思考法」を自然としてくださいました
2.特性を一側面で理解しようとしない
全盲であることは単に「目が見えない」だけではなく、それによってさまざまなバリアを作り出しています。
例えば今回の観察に気づいたことですが、人々は何かを見ることで無意識に集中をしているようです。そして集中の外にあるものの情報は無意識に排除します。そのため、視覚障がいがあるユーザーは、そうでない人よりもたくさんの情報が耳に入ってきてしまいます。それによって、どの音にフォーカスすれば良いかわからなかったり、疲れてしまったり。
後は俯瞰することや、全体の状況を把握することが難しいため「今話されていること」に意識が向きますし、そうでない人よりもたくさん覚えておかないといけません。(キッチンの机にどんなツールがあるか?を最初に確認しても、後で何か作業してるうちに、何が机の上にあったか、位置はどうだったか、わからなくなってしまう)
よって、特性にだけフォーカスしてアプローチすれば良いのではなく「その特性によって生活や行動にどんな影響があるか?」を考える必要があるのだなと思いました。
インクルーシブデザインで実現するのは、イノベーションなのか?
さて、私はこの3日間を終えて、インクルーシブデザインという手法によって実現されるのは、一体何なのか?が分からなくなりました。その過程と気づきをまとまりきっておりませんが共有できればと思います。
障がいの「社会モデル」と「個人モデル」
「障害の社会モデル」とは、「障害者とは社会から障害を課せられるがゆえに障害者である」という考え方です。
対して「障害の個人モデル」は「障害者とは本人の持つ障害ゆえに障害者である」という考え方です。
さて、インクルーシブデザインの過去の方法論として今回語られたバリアフリーデザインやユニバーサルデザインは、この「障がいの社会モデル」に基づいていると考えられます。「社会から障がいを課せられるものを、デザインという手段を持ってこれを解消しよう」という精神です。
持続可能な社会実現のためのデザイン?
ダイバーシティの考え方に基づき、年齢、性別、障害の有無、人種などに関わらず、全ての多様な人々が公平に利益を享受できるように、ユニバーサルデザインによるまちづくりやサービス、ものづくりの企画、開発支援や、心のバリアフリーによる人材育成などの事業を行い、インクルーシブな社会づくりと福祉の向上に寄与することを目的とする
インクルーシブデザインネットワークの団体概要、目的からは「インクルーシブ(包括的な)」社会づくりと福祉の向上とあるように、先述の障がいの社会モデルに近しい考えを感じました。
インクルーシブデザインアイデアソンで語られるメッセージ
インクルーシブデザインとは、⾼齢者や障がい者・外国⼈など、従来の製品やサービスの対象から排除されてきた⼈々を、デザインの上流から巻き込んでいく⼿法です。
一方講義では、リードユーザーの観察・共創をヒントに、社会的なボリュームゾーンにも展開できるアイデアを探す(つまり、市場的価値のあるアイデアであるか?)ことが何度か述べられていました。また、講評の場では「イノベーション(革新・社会的なインパクト)」に結びつけることができるか?という観点でコメントを受ける場面がありました。
イノベーションも手段の一つ、あるいは過程であり、最終的に目指すインクルーシブな社会の実現が目的ではないかと考えます。
あくまで社会のバリアを取り払う一手段だったはずの手法が、ときおり社会的インパクト、技術革新の手法かのように語られる不思議な感覚を得ました。このストーリーのややちぐはぐとした感じは、インクルーシブデザインがまだ社会、ないしは企業に溶け込む過程であることの表れだったのかもしれません。
つまり、私たちはデザインによって、インクルーシブな社会を実現するために、インクルーシブであること自体が社会的インパクトであると、証明し続けなければならないのかもしれません。その証明の方法はこれから考え続ける必要があります。
…なかなかまとまりきらない部分もありますが、WithUserを体験することができる、とても貴重な機会でした。運営の皆様、サポートいただいた皆様、そして暑い中一緒にデザインし続けてくださったリードユーザーの皆様、ありがとうございました!
ここまでお読みくださりありがとうございました。