みーちゃんとママ10 夏の終わり
八月の終わりのある日、ママは隣の公園の桜の木の葉が黄色く変色し、落ち始めていることに気づいた。
日中の最高気温は三十七度という暑い日が続くのに、桜の木はもうすぐ秋だと感じているのだ。そのことがママには不思議だった。桜が秋の準備をしているということは、夏がもうすぐ終わるということだ。
夏の終わりを思うとき、思い出すことがある。二年前、二才のみーちゃんと〇才の弟を連れて、初めて行く児童館に行ったときのことだ。
行ってみると児童館は改修工事中ということで、開館していなかった。仕方がないのでママは少し離れた場所にある、遊具がある広場に行ってみようと思った。
抱っこひもで弟を抱き、みーちゃんの手をひいてママは歩いた。遊具は丘の上にあり、よいしょ、よいしょとママは坂を上った。
風はあるけれど日差しが強かった。汗だくで遊具にたどりつくと、遊具は二才のみーちゃんには少し難しいように思えた。ママは弟を抱いているので一緒に遊具に上ることはできなかった。
「大丈夫? 気をつけてね」
一人で上ろうとするみーちゃんにママは言った。
「だいじょうぶ」
みーちゃんは言った。
ママの心配をよそに、みーちゃんは短い手足で、しっかりと上っていった。
みーちゃんは上れるところまで上って、ママを見おろした。
「ママ!」
みーちゃんは叫んだ。
「ママ! ほんとにだいちゅきだからね!」
青空を背に、逆光のみーちゃんが眩しかった。
気がつけば子どもたちは大人になり、ママはおばあさんになっているだろう。みーちゃんに言ったように、ママもいつかは死ぬのだ。みーちゃんと弟も、年を取っていく。
今、子どもたちと過ごせる時間というのは、本当に奇跡のようなものなのだろうとママは思った。現に、赤ちゃんだったみーちゃんはもうどこにもいない。
今なら、とママは思う。
今ならもっと可愛がれた。今なら、あんなに怒らなかった。今なら……。
でも、ママはこうも思う。何度やり直せるとしても、同じことを繰り返すのではないか。いつも、いつも精一杯だった。
その日の夕方、車を降りると
「風がきもちいい」
みーちゃんは風の中、嬉しそうに立った。そして空を見て言った。
「くもが、ほら」
見ると、秋の雲が青空に広がっていた。
草がぼうぼうに伸びた公園を、みーちゃんは嬉しそうに走る。弟が追いかけて二人で笑い転げている。
もうすぐ夏が終わる。