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「推し」という言葉が苦手だった。人それぞれにある好きなものや愛している人に対する感情はどんなに下手であっても言葉を紡ぐことでしか還元できないと思っていた。そんな好きをインスタントな言葉に規定し型にはめてしまう行為のような気がして、絶対に自分の感情は「推し」という言葉に規定させないという気持ちでいっぱいだった。

ただ、いつだったかのタイミングで「推し」という言葉はどんなに言葉を紡いでも伝わることのない感情を捧げる祈りのようなものであり、たとえるなら『エアマスター』の坂本ジュリエッタの感情に近いということがなんとなく分かり、少し理解できるようになったことを覚えている。


『推しのラブより恋のラブ』をプレイした。

非オタでレズビアンの恋と夢女子のあくるのルームシェアから始まる百合コメディであるこの作品はタイトルからもわかるように「推し」と「愛」の話だ。あくるが愛してやまないキャラクタに対する「推し」の気持ちは劇中何度も描かれ、そのほとんどが語彙力を無くしたオタクのテンプレートのような痛々しくも微笑ましいものである。そして恋があくるに対して紡ぐ愛の言葉も、あくると同様ストレートで語彙力のない、ただ多くの感情のこもったものである。

生活をともにするうちにあくるは恋からのアプローチを受けて自分の中に芽生えた感情が一体なんなのか考え悩むことになるのだが、その心理描写が丁寧で本当にいい作品なんだよな。普段「推し」について語る時と感情は同じなのに、丁寧に自分の感情をプロファイリングして名前をつける。この心情描写のシーンは別段感動的なシーンというわけではないのだけれど、自らの「好き」と真剣に向き合っていて感銘を受けた。

「推し」と「好き」には差はなく、そこに存在する愛は等しく美しいものである、というのを描いてくれた作品でかなり好きな作品だ。惜しむらくはもっと恋とあくるのやり取りを見ていたいと思う程度にボリュームが少ないこと。ただファンディスクの制作が決定しているようなので今から楽しみ。

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