戦略コンサルタント・ビジネスプロデューサーになる前に、やっておいて役に立ったこと。
精密工学科の大学院をでて、エンジニアの道に進んだものの、その後、畑違いの戦略コンサルティングに転職しました。無謀なキャリアチェンジではありましたが、エンジニア時代に行ったことで、戦略コンサルタント、そしてその後のビジネスプロデューサーを行う上で、大変役に立ったことがあります。本日は、そのことについて、書きたいと思います。これからコンサルティングやビジネスプロデューサーを目指す人に少しでも役に立てればと思います。
1)四季報丸暗記
これは、ドリームインキュベータに在籍してした人なら、何度か聞いたことがあるかもしれません。そうです。四季報丸暗記です。1993年ごろ、メッセージングのミドルウエア開発(いわゆるAPI)に頓挫し、システムエンジニアとなりましたが、仕事がなく、何もやることがありませんでした。まだSEの対価はハードウェアのオマケの時代で、ハードウェア価格が急激に下がる中、SE対価も貰えず、ハードウェアのオマケとしての対価を捻出できず、SEになりたての私は暇を持て余していました。毎日、コーヒーを飲んでは屋上でタバコを吸うという堕落した生活を続けていたわけですが、ある日先輩に、四季報を10年分渡されて、これを入力してどこの業界が儲かっているか分析してくれ。そこにシステムサービス売りに行くぞと言われました。
当時は、四季報のCDーROMもなく、四季報台帳のみだったので、毎日朝から晩までロータス123に、会社名、売上高推移、経常利益推移、当期利益推移、工場、トピックなどを入力しました。とにかく朝から晩まで、暇に任せて入力します。全業種全ての上場会社を入力するわけです。疲れます。しかし、10年分やっているうちに、会社名を覚えるようになりました。売上規模も本社の場所も、何をやっているかも、工場の場所も、10年間時系列で繰り返し入力していると多少は頭に入ってきます。当時は、こんなくだらないこと、なんでやらせるのかなぁなど思ったりもしてみたのですが、これがその後のコンサルティングやビジネスプロデュースでは思いの外役に立ちました。YHPをやめて、BCGに入社した時は、私以外はほぼ全員がMBA。それもハーバードやウォートン、ダートマスと一流どころばかりでした。丸腰で入ってきたのは私だけでしたが、日本の企業名と何をやっている会社か?ということだけは、誰よりも頭に入っていたように思います。
具体的に何に一番役に立ったかといえば、事例研究です。どこの企業でどんなことをやっていそうかは、四季報を覚えていたおかげで、引き出しが増えました。また、SE時代に暇に任せて日経コンピュータと日経情報ストラテジー、日経ビジネス、日経エレクトロニクスなど会社にあった雑誌を穴が開くほど読みあさっていたので、どこの会社が何をやっているかを調べなくても、なんとなく頭に入っていました。私にとって、日経BPの雑誌は、ビジネスの先生でした。
2020年の現在は、1993年よりもはるかに上場企業数は増えているでしょう。新興市場のマザーズも開設されています。よって以前よりは大変だと思いますが、やってみる価値はあります。新興市場だけでも企業をリストアップし、何をやっているかを把握すると、新しいビジネスモデルを頭に入れることができます。これだけでも大きな差別化になります。日本の新興企業だけでなく、海外のプレイヤーまで頭に入れると、さらに引き出しが広がります。
よく、コンサルタントやビジネスプロデュサーになる準備として、どんな本を読めば良いですか?と聞かれます。もちろん本も大事ですが、私は四季報丸暗記を推奨しています(しかも時系列で覚えるとさらに良い)。それができなければ、マザーズ上場企業だけでも全て分析してみるのはどうか?と提案しています。
昔、府中競馬場に行くと、競馬四季報を丸暗記しているおじさんがいました。レースに出る馬の父母だけでなくその馬の母・・・と血統を遡って把握しているのをみて、日本の企業の四季報くらいだと頑張ればなんとかなるかも・・・と思った次第です。
2)ITの歴史を把握する
もう一つはITの歴史を把握するこということです。私がSEになった1993年は、ネットワークコンピューティングが立ち上がった時期です。コンピュータ同士がネットワークで繋がり、様々なことが変わりました。
まずはプリンターとディスクが共有されました。それまでディスクは自分の足元にあるデカイ箱でしたが、会社のネットワーク上のどこかにあるディスク(もはやみることもない)になりました。プリンターも部署で1台ですが、簡単に共有できました。そもそもプリンターは稼働率が低いので共有するに限ります。
次に、ネットワーク上の異なるアプリケーションが、リアルタイムで会話するようになりました。APIの出現です。私が93年ごろ開発していたミドルウェアはこの原型ですが、実際にAPIが盛んに使われ出したのは2000年を越えてからです。全く別々に作ったアプリケーションを会話させることは、至難の技でした。一から密結合で開発していると良いのですが、別々に作っていると、それぞれを疎結合しなくてはなりません。開発言語、データフォーマット、開発プラットフォームが異なるアプリを疎結合するのは、気が遠くなるほど難しかったのです。
APIのおかげで、今では簡単につなげることができます。
さて、上記の話は、人間界でも起きていることです。いろんなものがネットワークに繋がり、車をシェアすることになりました。空いている駐車場をシェアしたり、空いている部屋を貸したりするようになりました。シェアリングエコノミーです。これはコンピュータがつながって、プリンターやディスクが共有されるのと同じですね。
異なる会社同士で仕事をすると、それぞれ、しきたりが違いますから、お互いアウトプットを定義するようになりました。これは異なるアプリケーションをつなげるAPIと同じ概念です。今後、社内だけで仕事をすることがなくなりますので、仕事のやり方にもAPI的な要素が入ってくるでしょう。
これ以外にも、まだまだIT業界で起きたことが、人間界で起きている事例が多数あります。それについては、別途記載したいと思います。さて何が言いたいか。
ITの歴史を学ぶと、これから人間界で起きることが推察されます。ITでは、情報共有することで効率化を追求しています。コンピュータだけでなく半導体に至るまで、いかに効率よく計算するかを行っています。人間界でも情報が共有されれば、効率が追求されるはずで、いずれはITで起きたアナロジーが人間界でも当てはまる時が来ると思われます。
長々と書いてきましたが、「四季報丸暗記」と「ITの歴史を学ぶ(特にネットワークコンピューティング)」ことで、いろいろと示唆に富むことが潜んでいます。
これからはITの知識なしに、ビジネスをやるのは厳しくなるでしょう。同時に、世界で何が起こっているかを把握して仕事を進めることが求められます。そのためには、四季報だけでなく世界の上場企業が何をやっているかを把握し、鳥瞰力を身につけることは、戦略コンサルとしてもビジネスプロデューサーとしても大きな武器になると思います。
このnoteがきっかけで、かんき出版さんより、本を出版いたしました。BCG、ドリームインキユベータで学んだことを色々書いています。よろしければ、ご高覧下さい。
瞬考が台湾でも翻訳され出版されました。台湾に四季報に似たものはあるようなので、台湾でも四季報写経が拡まるといいなと。
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