相談事例と天風哲学(事例7) 11
(板金業の例-7)
当社は、もともと屋根工事を営む会社であったが、需要減少の対応策から得意のブリキ板の加工技術を活かす板金業にシフトした。相談時は年商の2倍以上の借入金を抱え、資金繰りは悪化、相談時点で娘さんは経理を任されたもののどうすればよいのか迷っていた。
そこで相談となったもの、まず返済をリスケジュールし元金を減額、その間に正常先に戻すための改善計画書を作成した。
あれから20年余、現在は借入額も当時の半分以下となり厳しいながらも何とか経営を行っている状況にある。3年前に父である社長の急死に伴い、娘さんが社長を継ぐことになった。あいかわらず厳しい資金繰りにさらされているが、何とかやりくって経営を続けているのは立派である。
前社長に代わってからは各従業員との積極的な対話などを重ねながら今日を迎えている。前社長時代と比べても社内の雰囲気は明るくなり、従業員にも活気がみられるようになった。
ただ、現社長が会社を継いでから、新たな事業展開や新会社の設立、M&Aによる譲渡、新事業として物流センターの賃貸業など、次から次へのアイデアや発想から話を進めるも挫折の繰り返しである。
「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」ではないが、次々と打ち出すこれらの発想も決して否定することではない。しかし、十分な吟味と計画に基づいた内容でなければならないが、残念なのは何度も企画や案を出しては止めていくという繰り返し。関連会社に対する信用問題にも発展し兼ねない危険性もある。
この会社の問題点は、社長の意思の曖昧さ、方向性(戦略)の欠如であるといえる。社長たるもの、会社は何のため、誰のために存在しているのかなどの哲学を確立したうえで行動すべきである。
天風氏のいう「進化と向上」、すなわち従業員や取引先などへの役割と、社会全体に寄与する会社の目的などの確立が先にあるべきなのである。