天風哲学で学ぶ社長のあるべき姿(最終版3)
天風哲学と社長の心構え③ (下線付き太字は天風著書からの引用部分)
経営者は経営のかじ取りを常に行う必要があり、右に行くか左に行くかの判断、すなわち意思決定は重要な仕事の一つである。そして意思決定のための判断力と断行力は特に重要な要素である。天風氏は、「経営者が、何か新しい仕事をするとか、今まで経験のなかった仕事をするような場合に、私の所へよく相談に来るんです。
私の答えはいつも簡単です。“他人に相談しなきゃわからないようなことを、今後のあなたの人生の事業にしようとすることは非常に軽率じゃないか”って言うんだ」。自分のわからないことを私に聞いて、それでわかっても、その後の経営は私がするんじゃないよ。あんたがするんじゃないか。いちいち聞きに来なきゃならないことだったら、あんたが経営するんじゃなくて、私がすることになるじゃないか」。
さらに、「自分で考えて考え切れないことはするな。経営において右に行くか、左に行くのか重大な岐路に差しかかたとき、他人に聞いて判断するようならやめてしまえ。できないこともやってみるという気持ちが継続されると、一つの理想になる」と…。
実際に多くの経営者から相談を受けてきたが、半数以上の方が答えを持って相談にみえるということを実感した。経営者の相談では、自らの考え方や方向性を専門家に相談することで背中を押してもらいたいという願望を持っている場合は少なくない。
したがって、相談時には相手の話をよく聞き本音をつかむことが必要であり、その本音に回答らしきものがあれば極力肯定して後押しをしてあげることである。なぜなら、複雑多岐にわたる経営相談での明確な回答は難しく、むしろ経営者自ら考え、やろうとする気持ちを重要視した方が結果として良い方向に進んでいる。
このことを天風氏は次のように言っている。「たとえば、これからある所に行こうとする時に、まだ着かない、まだ着かないという気持ちで歩いている時と、悠々として、時きたらば着くという気持ちで歩いている時と、同じ歩いている場合でも、その歩くことに対する人間の気持ちの中に、天地の相違があるだろう。だから、理想はよしんばその理想とするところに到着しなくても、たえずその理想へ意志するという気持ちを変えないことが、人生を尊く生かすことなんだ」…と。
これからの経営について考えたり目標を立てたりすることも必要であるが、今という時の捉え方の重要性を次のように諭している。「何事につけ、今日以後の人生に対する計画、つまり明日どうしよう、今後どうしようということを考えることは非常に必要ですけれども、もっともっと大切なことがあるんだよ。それは、たった今を正しく生きるにはどうすりゃいいだろうということ。これをたいていの人は忘れちゃいないかい?明日はどこへ行こう、明後日は何しようと考えて、現在ただ今を、ちっとも尊く生きてない人がありゃしないか?」と。
また、経営に対し自ら考え行動することの大切さを次のように言っている。「やらなければだめだよ、何だって。やればできるんだから。俺は不器用だとか、俺は物覚えが悪いだとかそれがいけないんだよ。たとえ不器用だろうと物覚えが悪かろうと、十遍(ぺん)やって覚えなかったら百遍やってみろ。百遍やって覚えなかったら千遍やれ、そしたら覚えるから。どんなことでも、できないことほど、できると尊いことなんだから一生懸命やれよ。
そうすると、だんだんだんだん自分の生活自体が、自分の理想や希望に近い状態になってくる」。
40年間の相談を通し、最近強く思うことがある。それは企業経営の良し悪しは社長が抱く、哲学、考え方、心の持ち方、社長自身の資質など(以下、考え方という)が大きく影響しているということである。特にトップである社長の考え方などは日常の経営活動を通じて、従業員をはじめ、顧客や取引先、あるいは会社を取り巻く関係者全般に何らかの形で影響を与えているということは否定できない。それゆえ、社長の考え方で自社の方向性は大きく変化し、あるいは決定づけられるといっても過言ではない。
「儲けが第一」と考えれば社員全体は同じ方向に向って活動するし、「顧客第一」と考えればそのように伝わる。また「従業員第一」ならば、社員一同の言動が同じ方向に向かっていくだろう。場合によっては、社長の考え方に否定的な考えを持つ従業員は会社を去っていくこともあろう。これとて致し方ないことであり、そうでなければ組織が一致団結して同じ方向にまとまることはできなくなるからである。それだけに組織のトップである社長の経営に対する考え方の基本をどこに置くかである。
いろいろな置き方があるが、大きく二つの方向に分けることができる。第一の考え方は、「他人や社会全体など自分以外」に趣を置くケース、第二は「自社や自分を第一に考える」ケースである。結論からいうと、前者の考え方の方が断然企業経営は安定している。
しかし、社長の考え方のみで企業安定ははかれるのかというと、もう一つ重要な点がある。それは、経営を行う上で必要な知識、管理、手法、技法などの経営ノウハウ、ハウツー的な要素も重要であるということ。
どんなにすばらしい考え方をもって経営を遂行したとしても、利益が得られないような経営では成り立たないのは当然である。そこで安定的な経営を行うためのマネジメントやマーケティングなどの経営技法も必要となる。
例えば、社長個人の考え方がすばらしい競合するA、B2社の商店があったとする。A社の社長は「利他の心」を駆使して頑張ってきたが赤字続きである。一方B社は同じような心構えで頑張ってきているが黒字となっている。この両社を比較するとA社は利益管理が疎か、単に顧客に喜ばれるために安売りを徹底しているのがその原因である。
しかし、B社は経営が成り立つための必要最低限の利益確保を前提として経営を行っている。結果的にどちらの会社が顧客、従業員、取引先のために貢献しているのかをみても、B社であることは明白である。ゆえに、経営とは目先の事象で判断することはできず、多くの利害者集団などから必要とされる会社でなければならない。そのためにも経営管理や戦略など経営ノウハウも重要なのである。ただ、このような経営ノウハウなども社長の考え方や哲学がしっかりしていることが前提となるのだが…。