天風哲学で学ぶ社長のあるべき姿32
資金繰り管理の重要性(32)
多くの小規模企業の社長にみられる傾向の一つとして、「金の管理は他人任せ」という状況を度々見受ける。
「金の方はうちの大蔵省(妻のこと)に任せているので一切わからない」とか「事務員に任せている」のでという言葉を発する社長。このような言葉を発する会社は資金繰りも順調に運んでいるのではと思いきや、意外と苦戦しているのである。
小規模企業の資金繰りの管理こそ社長が実践しなければならない。会社の組織が大きくなれば専門の担当者に任せるとしても、その動きや内容は社長自身が常に理解・把握しているのが健全企業の当たり前の姿である。
資金繰りが今後どうなるのか、資金ショートを起こすことはないのか、支払いは、給料は、税金は、手形決済は・・・などと常にお金の動きに目を光らせるのが社長の役目ではないか。特に小規模会社の場合は、営業、現場、事務などの仕事が明確に分離されていることはなく、全体の動きを見守っているのは社長であり、その社長がお金の動きを知らなくて会社経営は成り立つとは思えない。
小規模会社では社長の得意とする分野には興味を示すが、他の分野には全く興味を示さないという極端なケースがある。例えば建設業の社長が好きな現場には毎日のように出向くが、営業活動や経理事務は疎か、あるいは営業活動には一生懸命であるが金の管理は妻や事務員任せという会社はかなり多い。
ここでは資金繰り管理がいかに重要であるかを述べたい。会社におけるお金の流れは、人間でいえば血液の流れと同様に重要なもので、どちらの流れもストップすれば死を招くという最悪の状態に陥る。
会社における資金繰り管理とは、現預金の残高の流れについて現在を出発点として今後1ヶ月先、2ヶ月先・・・1年先というように将来を予想したものである。資金の入出金は本業の活動でもたされる経常収支と金融機関などからの借入や返済の活動である金融収支に分けることができる。
具体的な管理の出発点は「資金繰り表」の作成からであるが、重要なのは資金繰り表を作成した後の活用の仕方にある。入出金の月別予想を表に記載していくことで翌月繰越額が常にプラスであれば問題はないが、仮に3ヶ月先にマイナスになると予測ができれば、今から手を打つことが可能となる。
しかし、資金繰り表を作成していなければ資金がショートする時期の把握が遅れてしまい、その対応策が後手に回ってしまう。
早めに予測することで今後の対応策を具体的に立てることが可能となり、その実効性も確実さが増すことは間違いない。
しかし、5日後、1週間後に資金ショートするのと2ヶ月先、3ヶ月先のショートではその対応の仕方が違ってくる。もしマイナスになるような予測が早めに把握できたのなら、売掛金の早期回収や工事の完成化あるいは製造を早め行い売上高を早めるなどの手が打てることになる。今日の明日では対応策に限度が出てしまう。要は先を予測し、今どんな手を打つべきかという対応策が考えられる。
この考え方はまさにPDCAサイクルによる経営管理手法と同じ意味である。すなわち資金繰り管理とは将来を予測して最も適した対応策を打つことであり、経営戦略の一環なのである。
では、どのような対応策を打つことができるのかを検討したい。大きく前向きの対応策と後ろ向きの対応策が考えられる。
(前向きな対応策)
① 売上高の増加策… 積極的な営業活動や効率的生産性のアップ、もしくは納期・工期の短縮
② 仕入額の減少… 仕入額及び製造・工事原価の削減(マーチャンダイジング、原価管理の徹底化)
③ 経費の削減… 適正な人件費(労働分配率)や無駄の見直し
④ 早めの回収… 売掛金の迅速な回収、売掛不良の回避、手形の廃止など
(後ろ向きの対応策)
① 支払いを遅らせる… 買掛金を延ばす、税金や社会保険などの支払いを遅らす
② 借入金に頼る… 金融機関や社長などからの借入
③ 返済金の減少… 元金ストップや元金減額によるリスケの実行
以上のような資金繰り対策が考えられるが、できれば前向きな対応策を検討して早めに手を打つことが大切である。
なお、前述したように予定を立て、実際との差異分析を行ってフィードバックして是正していくこと、すなわちPDCAサイクルによる管理は重要となる。