「僕が怖いのは店が潰れることじゃなくて料理人でなくなること」 ポストコロナの外食産業/sio鳥羽周作
「海賊シェフ」と呼ばれ、昨年はミシュランガイド東京2020掲載、多店舗展開、クラウドファンディングの大成功と話題に事欠かない料理人、鳥羽周作。そんな彼に、コロナショック後の外食産業のこと、経営者としての挑戦と葛藤のこと、美しい食のこと、じっくりうかがいました。
コロナショック後にはじめたこと、考えていること
本間: #おうちでsio 、めっちゃいいですね!(※新型コロナの影響で家にいる人のために、SNSやnoteでレシピの公開を始めたもの)
鳥羽:家で仕事する人が増えてきてるなって。子供がいて、お母さんたちが毎日ご飯をつくってて。sioにレシピはもともと無くて、門外不出みたいなこだわりは全くないし、いまできることと思い始めたんスよ!そしたら反響すごくて!!
(※字にすると圧がすごいので「!」「っス」は次から省略しますが、すべての語尾についてます)
本間:僕もやってみて、唐揚げ、まじ美味かったです。妻に「歴史的なやつ」って言われましたよ。鳥羽さんの気持ちも一緒に受け取ってるから、つくるときの気持ちも変わるんですよね。
鳥羽:みんなの反応見てて、毎日涙がでます。あと、「奈良漬のかわりにラッキョ使った」「小麦粉なかったから片栗粉で代用した」みたいなコメントがあって、レシピがアレンジされていくのも嬉しくて。本間家のレシピ、◯◯さんのレシピが生まれていく。元のレシピなんてそれに比べたら価値はあまりないですよ。
家族のために、食べる人のためにつくる人がアレンジしていく。愛ですよね。家庭の料理なんて、見返りのない無償の愛、それ以外の何者でもない。
本間:鳥羽さんと言えば愛ですよね。料理つくりながら届いてました。
鳥羽:料理人としてあるべき姿を考えつくした結果、つくることより、届ける、伝えることの大切さに行きついたんです。料理人の一番原点って、作ってあげたい人がいて、そこに美味しい料理を届けること。これまで直接届けてきたけど、来店できない方もいる。でも、レシピがあればsioを体験できる。幸せを届けられるし、届ける先の数も変わるんだなって。
本間:突如始まったバインミーも、まさに幸せを届けるって意味で同じだと思いました。(※sioではランチ時間帯にバインミー(ベトナムのサンドイッチのこと)やお弁当の販売を始めた)
(取材に訪れた際、まさにバインミーを買ってくれたお客さんと高めの圧で話しているところでした)
鳥羽:こういう状況下。営業を休止するってチョイスもあるし、テイクアウトを始める人もいる。自分たちのこともあるけど、食材仕入れてる生産者や取引先もあるし。
って頭で考えてるのもありますが、なんかウズウズしちゃったんです。こんな世の中なんだから、美味しいもの食べてよって思う。sioで使ってるパン屋さんのパンがめちゃくちゃ美味いんで、サンドイッチで気軽に食べて欲しいなって。sioは2万円の店ですけど、サンドイッチなら気軽じゃないですか。
(「Hey! バインミー!って言いたい」というノリで名前は決まったそう)
この職業とは、料理人とはなんぞやってことですよ。僕らは料理を美味しくつくる人たち。弁当やっても売上はまったく大きくない、って言うか今日はすき焼き弁当にしてマジ赤字です。でも美味しいの届けたい。ギブ、ギブ、ギブですよ。社員抱えて正直つぶれるかもしれないような状況だけど、だからこそ自分が枯れてもギブし続けたい。
本間:こんな時だからこそ目先の利益ではなくてギブ。そういう店が結局残っていくのかもしれません。でも、社員は何名でしたっけ?
鳥羽:25人です。高級フレンチから来てくれた奴もいて、ミシュランで星とってる店に来たと思ったら毎日バインミーと弁当つくってる。でも、これこそ働く若い奴らに伝えたいことだなってマジで思ってます。高級と世の中では言われるフレンチだろうが、サンドイッチだろうが、どの料理も美味しくしてこそ料理人じゃないですか。僕らはどの料理でも誠実に向き合います。2万円コースでも、1000円のお弁当でも。
本間:このコロナショックで特に外食産業は、その「料理人(レストラン)とはなんぞや」といった本質を問われている気がします。
鳥羽:テイクアウトとかECとか戦略はあるけど、僕が考えているのは、そこじゃなくて料理人としてあり続けることです。
僕が怖いのは、店がつぶれることじゃなくて、料理人であり続けられなくなることです。料理というツールを通じて、美味しいを届ける、愛を届ける。そこがなかったら生き残る意味がない。
限りある命を燃やしてるって感じですよ。人生で料理をつくる回数は限られてるから、しぼりだしてやってる。料理好きだよ!って死ぬまで言い続けます。
それに、レストランというハコでつくるだけが料理人の役割じゃないってことも。愛の届け方は他にもある。レシピや弁当をやりながらヒシヒシ感じてます。
本間:鳥羽さんの言う「愛」って、なんなんですか?
鳥羽:相手に対しての思い。喜ばせたいって考えることです。大義名分とかはなくて、性分ですね。もう子供の頃から。親の影響が大きいかもしれません。ずっとサッカーやってたんですが、試合の後みんながうちに来て、クソ狭い家に集まって食べるんです。うちの親がカレーと餃子をいつも15人前くらいふるまってた。人ためにご飯をつくることが当たり前な家庭だったんで。
(「弁当を届けてる先の会社からこんなの送られてくるんですよ!」とお礼の手紙を本当に嬉しそうに見せてくれる)
これからの料理人。レストラン。
本間:コロナの影響で多くの飲食店がなくなってしまうかもしれません。これからの外食産業、どうなりますかね。
鳥羽:どんな規模でもジャンルでも、「スタイル」と「本質」がマッチしてるところが最終的に残っていくと思ってます。
本間:スタイルと、本質。詳しく教えてください。
鳥羽:先月までクラウドファンディングの御礼でラーメンをつくってたんです。
実は最初はラーメンってどうなの?って乗り気じゃなかった。他に美味しいラーメン屋さんもあるし。でも、自分らしいラーメンを追求してつくって、お客さんにも喜んでもらって、見えてきたものがありました。
元々フランス料理とイタリア料理をミックスしてたし、ジャンルみたいなものは意識してなかったけど、“なんとか料理人”って言うのもう辞めようって。じゃなくて「料理人」なんだって意識があの頃くらいから芽生えてきたんです。
本間:ラーメンをやったら、ジャンルにとらわれない料理人になった?
鳥羽:今回に限らずいつもですが、僕が料理するときに最初に決めてるのは、お客さんがどういう気分になるのか、感じるのかってことなんです。今回のラーメンは3000円なんですけど、安易にオマール海老とかトリュフやったら絶対がっかりされると思って。そこで考えたのは「ストレスないけど美味い。スープを飲み干してなお、濃くない」っていう、シンプルだけど繊細なラーメンだったんです。
スープはしょっぱくしたくないから麺を塩茹でするって案が出てきたりしながら、「ラーメン」というくくりは難しかったけど、結果的にオリジナリティある、sioらしい一杯ができた。
これからの時代、ジャンルレスになってくと思うんですね。それより、哲学やスタイルが反映された料理がジャンルになっていく。
(先制パンチでオリーブオイルと山椒がぶわっと香る、具はネギだけのsioラーメン。しっかりだけど強すぎない旨味と爽やかな余韻が素晴らしい鶏×蛤のスープに、塩茹で麺がからむ。まさにsioらしい一杯でした)
本間:それはラーメンで言ったら二郎ってことですね!?(※ラーメン二郎は「二郎はラーメンではなく二郎という食べ物」という名言があるほど強烈なスタイルを確立しました)
鳥羽:そうですね。こうなると何がいいって、良い悪いを比較したり否定みたいのが生まれないんですよ。それぞれの哲学をリスペクトしあうって世界になる。今回のラーメンの取り組みは、自分たちのフィルターを通して新しいスタイルが生まれるという一連のプロセスだった。これがよかった。
ジャンルじゃなくて哲学やスタイルがいま問われている。そこに共感してくれる人が集まってくる。そう思ってます。
本間:1人の食べる側の人間としても、すごく分かります。お店のおしぼりとして使われているイケウチオーガニックさんも哲学、スタイルを感じますよね。
鳥羽:そうなんです。デザインの水野学さん、音楽の沖野修也さんも、そうです。「同じ温度で同じように走ってる人と付き合ってる」って感じで、ジャンル関係なくいろんな人と一緒に店をつくってきました。
そしてみんな、愛があるんですよ。他者への愛、想像力。お店で沖野さんがMIXした音楽がかかってて、疲れたなあってタイミングでいい感じの曲がかかったりする。その時に沖野さんの愛を感じるわけですよ。その場にいないのに相手を想像する力ってマジすごい。そう思う人たちばかりです。
(彼の愛用する包丁がちょうど店に届いていた。「リスペクトできる本物の人たちと仕事できてマジ幸せです」)
本間:もうひとつのキーワードの「本質」についても教えてください。
鳥羽:それはもう「美味しいってこと」、それに尽きますよ。それが、ぼくたち料理人の仕事。オリジナルのスタイルと、絶対的に美味いってこと。これがマッチすることが、これからより求められていくと思います。
経営者・鳥羽周作
本間:それにしても去年は店を買い取り会社を設立、sioにしたと思ったら、たて続けにo/sioとパーラー大箸をオープンと、めまぐるしい一年でした。鳥羽さんが料理人と同時に経営者になったという年でもあったと思います。
鳥羽:今思うと、最初はマジ戸惑ってましたね。アジェンダ、タスク、テレカン、、、知らない言葉が飛び交ってて、会議中は毎回その意味ググりながらって感じでしたし。
本間:戸惑ってる鳥羽さん、想像つかないですね。
鳥羽:でもどっかのタイミングで、料理と一緒だなって思った。ゴールがあって、逆算してそこに到達していく感じ。KPIとかも、美味しい肉じゃがつくるための変数じゃん、と。「いけるな」って感覚が、1年くらいもがいた先に見えてきたんです。
まあそれまで、給料上げすぎたりとか、いろいろ失敗しましたけどね。経営者としてってのと、人間としてって感情を切り分けられるようになるまで、少し時間がかかったって感じですかね。
でも1年やってきて今、勝利の方程式が見えてきた感じがあります。
(平日の昼間、スタッフが慌ただしくバインミーや弁当をつくる店内。大きな声で、時折りみんなに「な、そうだよな!?」と声をかけながら、答えてくれました。)
本間:勝利の方程式ってなんですか!?教えてください。
鳥羽:「感動をつくる」ってことと「需給のバランスを見る」ってことです。
たとえばカルボナーラって誰でも食べたことあるじゃないですか。そこに今まで食べたことないような美味しい一皿を出したら、感動が生まれる。比較対象があるものには期待値が生まれて、それを上回った時の感動につながっていく。
料理だけじゃないです。店をつくるとき、場所、来る人、値段、求めてるものがそれぞれある。そこにある期待値を見極め、そこに本質(美味しさ)とスタイルで+αを提供して感動してもらえれば、絶対に店はうまくいきます。満席の店をつくれって言ったら絶対やる自信があります。
本間:絶対に。言い切りましたね。
鳥羽:いや違うんです。たとえば1席の店だったら満席にできるって思いません?じゃあ2席、5席、10席は?って考えていく。需給のバランスを見極め、満席にできるサイズの店をつくるってことなんです。
そして期待値も需給バランスも、相手を知る、相手が求めてるものを知るってことじゃないですか。それってずっと言ってる、愛ってことですよね?
初めてのお客さんが店に入ってきて最初の一杯を飲むまで、来てる服、会話の内容やワインの選び方、飲み方、、、ここでお客さんの8割はわかります。そんなお客さんを全力で喜ばせるために、どんな料理、サービスが良いかを考えて提供する。
本間:愛に帰ってきた!つまり「経営者・鳥羽周作」はやっぱり「料理人・鳥羽周作」ってことですね
鳥羽:まさに、そうなんです。会社作って店も社員もどんどん増えて、最初は自分のエネルギーのベクトルが少しだけお客さんに向かなくなってしまったかもしれない、これは反省です。でも会社を経営していようが俺は料理人で、それでいいんだってのがバチっとはまって、もうマジいま絶好調って感じですよ。
本間:お店も増えていきますが、鳥羽周作そしてsioはまったく変わらないと。
鳥羽:もちろんです。今年も2店舗増やします。なんでこんな時に店やるの?ってよく聞かれますが、好きだから。食べたいって人がいたらどこでも行ってなんでもしますよ。その幸せの分母を増やすために会社をつくったんです。
大切なのは、「イズム」を置いてくってことです。鳥羽周作という個人のパーソナリティが愛されてるようじゃまだまだ。俺たちは美味しいものつくって、お客さんのことをとことん考え喜ばせる、愛の料理人集団。自分がその場にいなくても自信をもって任せられる仲間と店をつくっていきます。店を増やしてまたお客さんを喜ばせらえるの?って聞かれて、やれるよって迷いなく言えるから。
本間:料理人経営者の姿が見えてきました。
鳥羽:簡単じゃないですが、それをやって初めてシェフは次のステージにいける。厨房を去っても料理人としてあり続けられるんですよ。
鳥羽周作の考える「美しい食」
本間:最後に、鳥羽さんの考える「美しい食」について教えてください。
鳥羽:幸せな食卓。これですね。それがレストランなのか家なのか分からないけど、食べてる人がめちゃくちゃハッピーな状況こそが一番尊い。僕の店で大好きなお客さんが「ほんとお前の料理は美味いんだよなあ」って言ってくれたり、一緒に来てる家族に「美味いだろ。みんな、どうだ?」って話してたり。
このために僕はやってる。そん光景を見たら、それまで色々悩んできたことも全部吹っ飛びますよね。
僕らには、すべての人を喜ばせたいっていう途方もない目標がある。だから高級フレンチでも1000円の弁当でも、同じ熱量で全力で美味しくします。明太子パスタをここまで気合いれてつくってるミシュラン店は他に絶対ないですよね!?これが俺らなんですよ。
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(4/30追記)鳥羽さんもご参加いただき、お店の料理人と一緒に料理をつくるライブセッション「#オンラインキッチン」をスタートしています。是非サイトをご覧いただき、ご興味の方は一度体験してみてください。