静岡で訓練したパイロットは風使いになる。
静岡はめちゃ風が強い。
どれぐらい強いって、屋外で帽子を被れば吹き飛ばされるし常に髪は乱れる。
どこもかしこもそんなわけないが、静岡にある基地は本当に風が常に強かった。
飛行機が離着陸できない風が吹くのは日常茶飯事。
やっと離陸できても風が強くて1時間近く上空で待機させられたこともあるくらい。
飛行機は離着陸する時に前後左右それぞれに風速制限がある。
よって最悪別の飛行場で着陸することを余儀なくされることもある。
そんなベテランでも苦戦するような空港でへっぽこな私たち学生は、パイロットになるべく訓練に励むのである。
おかげで風が強い状況での着陸が得意になる。
ちょっとやそっとの風では、動じなくなるのである。
ここでパイロットになる自衛官のキャリアを少し説明する。
2年間山口での基礎訓練(飛行機には一切関わらない、きついだけのマッチョな訓練期間)が終わるとそのまま山口で飛行機の操縦訓練を始めるか静岡に移動するのか選択することになる。
この時私は迷うことなく静岡の基地を選択した。
風使いになりたかったのではない。
山口の教官はヤバいと、先輩からの噂で流れてきたからである。
自分が優秀でないことを自らが一番理解していたからこそできる、逃げの姿勢である。
僕は訓練中の成績が最下位でパイロットになることを絶望視されていたので尚更だ。
そのおかげか、風には苦労させられたがパイロットになること「は」できた。
色々な理論も習うのだが、結局は感覚だし気合いだった。
そう、飛行機の免許は気合だけで取れるのだ。
だとするなら、世の中のいろいろなことは気合いでなんとかなるんじゃないかと思う。
それくらいポジティブな人間に、私はなりたい。
ちなみに山口で訓練を積むと、周囲が山ばかりなので地形や地図を読み取る能力が上達するよ。