[19]パイロットまで、あと2年。
結局ブン太は酒を飲んだが周囲は未成年。
俺もそんな気分になれなくて、
あたりまえだが断った。
まだビールの美味しさを知らない。
高いし苦いし、コーラで十分だった。
合コンは難しい。
というより、女性のことはよくわからない。
そんな反省会を合コン最中に
脳内で繰り広げるほど
盛り上がることなく解散となった。
自衛隊の訓練より厳しく、長い時間だった。
趣味を聞いたりした。
ライブに行くらしい。俺は行かない。
大学の話を聞いてみた。
サークルは楽しいらしい。俺たちにはない。
とても眩しくて楽しそうな
学園生活を送っているらしい。
話題を膨らまそうにも、
自分の中にそんな経験がないから、
へ〜、いいな〜。
なんていうしょうもない返事しかできない。
やっぱり俺には彼女ができそうにない。
詩音含めた女性陣3名と
俺たち3名で店の前で別れた。
「惨敗だな」
「お前は良くやってたよ。
まあ収穫はゼロだけどな」
「お前こそ、小林さんと良い感じだったじゃん
なんでいつもみたいにグイグイ行かなかったの?」
「あまりにも眩しくてさ。
大学生活の楽しい話とか聞いてると
自分が惨めになってきて。」
「お前でもそんなことあるんだな。
美味しい豚骨ラーメン食って帰ろうぜ」
「そうだな」
帰りはみんなで屋台のラーメンを食べた。
俺にはこっちの方がまだ楽しくて
合コンより美術館の方が充実していた気もする。
そういえば東川が静かだ。
「ぼ、僕も緊張して全然話せなかった。」
「ま、そんなもんだって。
のんびりいこうぜ」
適当に励まして美味しいラーメンに戻る。
いっぱい目はそのまま。
替え玉は紅生姜で流し込む。
美味しいからあっという間に食べ終わると
みんなでホテルに戻った。
昔見たドラマでしかイメージできないが
ここに誰かと来ている
未来があったのかもしれない。
テーブルには午前中買った
美術館の図録が置いてある。
パラパラめくると
傷ついたライオンのページで止まる
昔の人は強い動物を恐れ、
あえてそのように描いたらしい。
現代の人間より
はるか古代の人間が
考えていることの方が共感できる。
ここでの経験が美術館通いに
ハマるきっかけであった。
あと少しで夏の訓練が終わって
初めての夏季休暇が訪れる。
終わったら階級が上がって射撃訓練が始まる。