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[10]パイロットまで、あと2年。

「あー、そろそろ限界だわ」
「だよな」
「ああ」
「東川もヤバいんじゃない?」
「‥‥な、なにが?」
「何がってションベンに決まってんだろ?」
「‥‥‥‥い、い、いや俺はいいや。‥‥今のペースが崩れると、また溺れそうだから。」
「 そうか、無理すんなよ!詩音!ちょっと一旦トイレ休憩いいか?」
ブン太が先頭に合図すると、ペースメーカーの詩音が嫌々振り返って手を挙げる。

「じゃ、ちょっくら最後尾でやってきますか」
「だな」
俺とブン太で列の最後尾に移動する。
荒れ狂う波にもすっかり慣れて、その場に浮くことで流されながら少しずつに後退していく。

「お、長島もか?」
「海でも連れションってあるんだな」
「水に囲まれてるからね」
長島と絶妙に噛み合わない会話をしながら3人の感覚も徐々に開いていく。
今からこいつらの半径1メートルからは危険物質が染み出すことを忘れてはならない。

「あぁ〜、いいわ〜」
「風呂入った時みたいな感想だな」
「マジでそんな感じなんだって、早くお前もやれよ」
「嫌な誘われ方だな。でも、やるっきゃねぇ」
「そうそう、シャーっといっちゃえよ」
「‥‥あれ、あれ?」

おかしい、でない。
いつものように無意識で放尿できないことは理解している。
下腹部に力を込めて全身の力を抜く。
いや、抜こうとする。
しかし、足は浮くために常に動かしており全く力が抜けない。

「だ、ダメだでねぇ」
「僕もだ」
俺と長島はどっちも放尿できない。

「おいブン太、お前どうやって出したんだよ?」
「どうって、いつも通りに決まってんだろ?」
「でねーよ!」
「え?なんでだよ、意味わかんねぇ。先に戻るぞ!」
「あ、おい!待てよ!」

ブン太はさっさと戻って行った。
俺と長島の2人が残された。
先頭では詩音がこっちをたまに見る。

「あぁ〜、やっぱり出ないわ。一旦我慢するしかないかぁ」
長島は諦めたようだ。
「諦めんなって!絶対出そうぜ!」
俺も訳のわからないことを言う。

「ふんぬーーーー!」
再度全力で力を込める。
出ない。

「無理だ。」
「でしょ?」
「ブン太どうやったんだよ」
「野生の力かもな」
「俺たちの田舎パワーが足りなかったのか」

戻ってきたら詩音に合図する。
我慢できる尿意ではない。
だが、出ない。
かなり辛い。

「おい、ブン太。」
「あ?なんだよ?」
「ちょっといい方法ねぇかよ」
「ションベン出すためのか?足の力を抜くんだよ!」
「わーってるよそんなことは。それができてりゃ苦労しねぇ」
「何かにぶら下がればいいんじゃねぇの?」
「お前にくっついていいのかよ?」
「絶対やめろよ!流石にゆるさん」
「あ、あの船なんかどうだ?」
「船って、あの教官が乗ってるあれか?無理だろ。蹴られるぞ。」
「いや、やるしかない」
「どうするんだ?」
「東川、頼む。次は溺れたフリしてくれ」

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