ネクローシスとアポトーシスの詳細解説
ネクローシスとは?
ネクローシス(necrosis)は、細胞や組織が酸素不足や物理的な損傷、感染などの外的ストレスによってダメージを受け、制御されずに急激に死滅する細胞死のことです。ネクローシスが発生すると細胞膜が破裂し、内部の内容物が周囲に漏れ出して炎症を引き起こします。このため、周囲の細胞や組織にもダメージが広がりやすいのが特徴です。
ネクローシスが起こりやすい状況
ネクローシスは特に以下のような強いダメージを受けた際に発生しやすくなります。
酸素不足(虚血):心筋梗塞や脳梗塞の際に血流が遮断されると、酸素が行き届かなくなり、複数の細胞が死滅します。
感染:細菌やウイルスが毒素を出す場合、細胞が破壊され、ネクローシスが引き起こされます。
強い外傷:打撲や圧迫などで細胞が潰れると、ネクローシスが発生しやすくなります。
毒素や化学物質:強い毒性のある物質にさらされると、細胞が損傷を受け、ネクローシスが引き起こされます。
アポトーシスとは?
アポトーシス(apoptosis)は、遺伝的にプログラムされた細胞の「計画的な細胞死」です。古くなったり、損傷した細胞を自然に除去するプロセスとして起こり、周囲の細胞や組織に影響を与えないように進行します。アポトーシスでは細胞膜が保たれたまま分解が進むため、炎症を引き起こすことなく、細胞が自己処理されることが特徴です。
アポトーシスが重要な理由
アポトーシスは、以下のように体内の正常な働きを維持する上で不可欠です。
古い細胞の除去:古くなった細胞や役割を終えた細胞を計画的に除去することで、体の組織を清潔に保ちます。
損傷細胞の除去:DNA損傷や異常が発生した細胞を取り除くため、体内で異常が拡散しないように抑えます。
成長と発達:胎児や子供の成長過程で不要な組織が消えていくこと(指の間の膜が消えるなど)もアポトーシスによるものです。
ネクローシスとアポトーシスの比較
| 特徴 |
| ネクローシス | アポトーシス |
| 発生要因 |
| 強い外的ダメージ(酸素不足、感染、毒素など) | 計画的にプログラムされた細胞の自己処理 |
| 細胞膜 |
| 破裂し、内部の物質が漏れ出る | 保たれたまま分解が進む |
| 炎症の有無 |
| 炎症を引き起こす | 炎症を引き起こさない |
| 組織への影響|
| 周囲の組織にダメージが広がりやすい | 周囲の組織には影響を与えない |
| 機能 |
| 病的な細胞死 | 正常な細胞死として体の健康維持に寄与 |
疑問の解決!
「組織ごと死滅する」とは?
「組織ごと死滅する」という表現は、単一の細胞だけでなく、その周囲の細胞も巻き込まれて広範囲に死滅が広がることを意味します。具体的には、ネクローシスが起きた細胞の破裂によって内容物が周囲に広がり、炎症反応が誘発され、近くの細胞も損傷を受けやすくなるため、細胞が固まって死滅するような「組織の一部が壊死する」状況が生じます。特に酸素不足(虚血)や急性の損傷の場合に、このような現象が起こりやすいです。
酸素不足によるネクローシスが起きた組織の復旧
酸素不足によってネクローシスが発生した場合、その組織の復旧は以下のように行われますが、元の細胞や組織が完全に回復することは難しく、瘢痕組織が残ることが一般的です。
損傷部分の除去と炎症反応:マクロファージなどの免疫細胞が、死んでしまった細胞やその破片を掃除し、損傷部位をきれいにします。この段階では炎症が発生しますが、これは必要な反応です。
瘢痕組織の形成:掃除された部位には線維芽細胞が集まり、コラーゲンを産生して瘢痕(傷跡)組織が形成されます。瘢痕組織は元の細胞と同じ機能を持たず、機能の一部が失われることがあります。
血管新生による酸素供給:血流が遮断された部分には、新たな毛細血管が形成され、酸素と栄養の供給が再開されます。これにより組織の修復が支えられますが、瘢痕が残るため、完全に元の状態には戻りません。
周囲の健康な細胞による補填:再生能力がある組織であれば、周囲の健康な細胞が増殖して損傷部分を埋めることもありますが、心筋や神経など再生能力が低い組織では瘢痕組織が残ることが多いです。
例題
最後に、国家試験でよく出る問題の例を挙げておきます。
問題例:次の細胞死のうち、計画された細胞死はどれか。
ネクローシス
アポトーシス
オートファジー
壊疽
答えはこちら↓
解答と解説:正解は「2. アポトーシス」です。アポトーシスは計画的に細胞が自己処理を行う過程で、周囲に影響を与えない細胞死です。ネクローシスは計画されず、外部の強いダメージによって引き起こされる炎症を伴う細胞死です。
国家試験では、ネクローシスとアポトーシスの違いやそれぞれの特徴が問われやすいため、この内容を押さえて試験に備えましょう。