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「レインコートとチマキとタコと」第1話


あらすじ(300 文字)

人と異人が暮らす場所『夜霧市』。

猫系亜人『レイニー』は、山猫組に所属する暗殺者。ある日、彼女は闇取引の現場に向かうため、相棒のタコ族『オクタヴィア』を連れて街に出た。仕事の内容は、目的地にスーツケースを運ぶだけのごく簡単なもの。

しかし道中、敵対マフィアに襲われてしまう。辛うじて難を逃れた二人だったが、戦いの最中、スーツケースのフタが開いた。中身は人間の少女『チマキ』だった。人身売買の仕事をさせられていたと知り、レイニーは大激怒。少女を連れて、山猫組を裏切ることを決意する。

だけど、二人はまだ知らない。
この少女が恐ろしい能力を持った怪物であることを。

チマキにより夜霧市が壊滅するまで、残り48時間。

第一話(9,982 文字)

登場人物

【主要キャラ】
レイニー・ハイド(18) 主人公の猫系亜人(女)
オクタヴィア(18) 相棒のメンダコ(女)
チマキ(8) 人間の少女

【夜霧山猫組(暴力団)】
サメジマ(40) 組長
マサ(33) 若頭
ミナミ(45) 事務局長(女)
リーネ(20) 新入りの事務員(女)

【エルダードッグス・ファミリー(マフィア)】
エマ(63) 本部ボス(女)
スペックル(25) ボス側近の殺し屋
ブリー(46) 夜霧支部の幹部

本編

1P
◯夜霧市(夜)
  都市の遠景。立ち並ぶビル。
N『人と異人が暮らす場所、夜霧市ナイトフォグ・シティ

◯駅前の路地裏(夜)
  路地裏を走る、犬系亜人の男(犬種ドーベルマン)。黒スーツ姿で汗だく。エルダードッグスの手下Aである。
N『あらゆる欲望がうごめく、この大都市で』
手下A「ハァハァ……。あと少しだ。あと少し……」
N『唯一物を言うのは、金と――』

2P
  主人公レイニー(18)登場。猫系亜人の女(雑種の白猫)。夜霧市の野球チーム「NFB」のスタジャンを羽織っている。
  レイニー、手下Aの頭を背後から蹴り飛ばす。
N『――暴力のみである』
  手下A、派手に路地裏を転がる。
レイニー「言っただろ?」

3P
  レイニー、手下Aを見下ろし、
レイニー「ここは山猫組のシマだ。ブツを売りたきゃ、よそでやんな。エルダードッグスのボスにそう伝えろ」
  手下A、地面に四つん這いのまま、不敵に笑い出す。
手下A「フッ……ククク……」
レイニー「あ? 聞こえなかったか?」
手下A「バカがよォ」

4P
  路地裏の陰からエルダードッグスの手下が続々と登場。いずれも犬系亜人である。
  手下A、唇の血を拭い、立ち上がり、
手下A「引っかかったな! ド腐れ女!」
  レイニーの背後からも手下が登場。囲まれてしまう。
レイニー「!?」
手下A「誘い込むのに苦労したぜ」

5P
  手下たちの顔には怒りの表情。
手下A「これまで散々やられた恨み。ここでキッチリ晴らさせてもらう」
  手下たち、手に刃物や野球バットを持って、レイニーに襲いかかる。
手下たち「くたばれ、レインコート! 地獄に落ちろ!」
レイニー「……なってねぇな」
  暗転したコマで「ドカ、バキッ!」と殴り合いの音。

6P
  床に転がる、気絶した手下たち。
  手下A、床にへたり込んで、後退り。レイニーを見上げて、
手下A「お、鬼強ォ……」
  レイニー、転がっているバットを拾い上げ、
レイニー「この神聖なる木の棒は――」

7P
  レイニー、バットを肩に担ぎ、
レイニー「人を殴る道具じゃない。アタシの応援するチーム『Night Fog Basterdsナイトフォグ・バスターズ』の面々も、そんな破廉恥な使い方はしなかった」
  手下A、ゾクッと震え、顔から汗が吹き出す。
レイニー「誰一人として、しなかった」
  レイニー、手下Aに近づいていく。
レイニー「よく聞けよ、三下ァ。野球のバットってのはなァ……」
手下A「あっ、ちょっと待って……」

8P・9P(見開き)
  レイニー、へたり込む手下Aの股間に向かってバットをフルスイング。
レイニー「タマをぶち飛ばすためにあるんだよ! オラァ!」
手下A「あヒィィィーンッ!」

10P・11P(見開き)
◯タイトル絵
  レイニー、チマキ、オクタヴィアのイラスト。
  タイトル。
  「レインコートとチマキとタコと」

12P
◯夜霧山猫組の事務所・外観(夜)
  ボロいビルの外観。
ミナミの声「聞いたわよ、レイニー。また派手にやったんですって?」

◯同・室内(夜)
  事務所の室内には机が複数、来客用テーブルとソファーもある。
  室内にはレイニーと事務局長のミナミ(45)。ぽっちゃりとした牛系亜人の女。
  ミナミ、レイニーの側に立ち、腰に手を当て、
ミナミ「マフィアを大勢、病院送りにしたとか」
  レイニー、ソファーに寄りかかって、首を後ろにそらしている。
レイニー「あー。今はその話したくなーい」
ミナミ「もう……。あなたは裏方なんだから、あんまり目立っちゃダメでしょ?」
  レイニー、ミナミの方へ向き直り、
レイニー「でもさァ、ミナミさん。目立つも何も、待ち伏せされたんだぜ?」
ミナミ「またァ?」

13P
レイニー「最近多いんだ。おかしな連中が。この前なんて、アタシの顔がプリントされたTシャツ着てるモヒカン集団に追い回されたんだから」
ミナミ「ウソよー(ケラケラ)」
レイニー「ウソじゃないって。完全に顔がバレてる。商売できない。マジで引退考えようかな」
ミナミ「バカなこと言って。ならいっそ組に入っちゃいなさいよ。その方が安全に動けるわよ」
レイニー「正式に? 盃を交わして? やなこった。自由がなくなる。そんなことしたら、この世の終わりだよ」

14P
  と事務所のドアが開き、室内にリーネ(20)が入ってくる。小柄なネズミ系亜人の女。
  リーネ、大きなスーツケースを引きずり、泣きながら、
リーネ「うわあああん! この世の終わりだー!」
ミナミ「あらあら。どうしたの? リーネちゃん」
  リーネ、ケースを放りだし、ミナミの胸に飛び込む。
リーネ「ううっ……。聞いて下さいよ、ミナミさん。実は、運び屋が逃げちゃったんですゥ!」

15P
ミナミ「え? 運び屋って、今日の?」
リーネ「はい。この荷物を運ぶ予定の人と連絡がつかなくて。家に行ったけど、もぬけの殻でした。取引まであと二時間なのに……。私、一人で交渉なんてできないですよォ!」
  とリーネ、再び泣き出す。
ミナミ「困ったわねぇ。誰か代わりに運んでくれる人はいないかしら」
  とミナミとリーネ、無言でレイニーを見つめる。
レイニー「いや、こっち見んなし」

16P
  ミナミ、顔の前で手を合わせる。リーネはペコペコお辞儀。
ミナミ「お願い、レイニーちゃん。リーネちゃんを助けてあげて」
リーネ「どうかお願いしますゥ」
レイニー「えー。でもこれって、殺し屋のする仕事じゃなくない?」
ミナミ「報酬、倍にするわよ」
  レイニー、スーツケースを引きずって、事務所のドアへ。
レイニー「どこ持ってきゃいい?」
ミナミ「猪ビル203号室。代金の振込確認するから、向こうについたら連絡して」
レイニー「OK」

17P
  リーネ、事務所を出ていくレイニーに向かって、
リーネ「あの! なにか自分に手伝えることありますか?」
レイニー「大丈夫。相棒がいる」

◯レイニーの自宅・外観(夜)
  道路沿いの二階建ての一軒家、ガレージ付き。
レイニーの声「たまには、あいつにも働いてもらわないとな」

18P
◯同・玄関(夜)
  相棒のオクタヴィア登場。愛称はオクト。見た目はメンダコ。空を飛んでフワフワと移動する。能力はテレポート。
  オクト、玄関でレイニーをお出迎え。
オクト「おっかえり~。ご飯にする? ゴハンにする? それとも、ご・は・ん?」
レイニー「腹減ったアピールえぐいな、オクト」
オクト「だって遅かったじゃん!(プンスカ)」
レイニー「色々あってさ。なあ、それより荷物運んでくんね?」
  とレイニー、かたわらのスーツケースを指す。
オクト「なんで?(半ギレ)」

19P
レイニー「運んだら、爆速でメシ作ってやんよ」
オクト「御意ィ!」
  とオクト、耳のようなヒレで敬礼ポーズ。
  オクト、スーツケースの上部にくっつき、
オクト「どこ運べばいいの?」
レイニー「ソファーにでも置いといて」
オクト「ラジャ」
  とオクト、ケースとともに、パッとその姿が消える。

20P
◯同・居間(夜)
  居間にはテレビ、テーブル、ソファー。
  ソファーの上に、オクトとスーツケースが出現。
  オクト、ケースをソファーにほっぽり、
オクト「フゥー。疲れたー、しんどー、だりィー」
  レイニー、居間に入ってきて、
レイニー「大げさな。ただの短距離テレポートじゃねえか」

21P
◯同・キッチン(夜)
  オクト、キッチンで手を洗うレイニーの横で、両ヒレを手のように叩き合わせて、
オクト「腹減った! 飯食わせ! 腹減った! 飯食わせ!」
レイニー「騒ぐと余計に減るぞ」
  レイニー、調理台の上に、食パンと具材、調味料を用意。
オクト「何作るの?」
レイニー「サンドウィッチ!」
オクト「へぇ~。ずいぶんと簡単な料理ですこと」
  レイニー、包丁を構え、
レイニー「テメー。料理人の前で簡単って言葉を、簡単に使うんじゃねえ。刻むぞコラ」
オクト「サーセン。刻むのだけは勘弁して」

22P
◯同・居間(夜)
  テーブルの上に、サンドイッチが山盛りの皿。
レイニー&オクト「出来たー!」
  二人ともサンドイッチを持ち、食べようとする。
レイニー&オクト「いただきまーす!」
  と家の外から、クラクションの音。
クラクションの音「プッ、プッー!」
レイニー「なんだ?」
オクト「?」

23P
  レイニー、窓際のカーテンを開けると、家の前に一台の車(車種ワンボックスカー)。
  車がエンジンを吹かし、レイニーの家に突っ込んでくる。
レイニー&オクト「!?」

24P・25P(見開き)
  車が家の壁を破って居間に侵入。テーブルがひっくり返り、サンドイッチの皿が宙を舞う。

26P
  レイニー、宙を舞う皿をキャッチして、サンドイッチを救出。
レイニー「セーフ!」
オクト「アウトでしょ! 家ぶっ壊されてる!」

27P
  車のドアが開き、中から銃を持ったモヒカンヘアの人間が続々と降りてくる。レイニーの顔がプリントされたシャツを着用。シャツには「レイコートLOVE」という文字も印刷されている。
モヒカンA「う、噂は本当だったんだ!」
モヒカンB「レインコートちゅわ~ん! 今ぶっ殺してあげるからねぇ~!」
モヒカンC「でも死ぬ前にサイン頂戴!」

28P
  レイニー、倒れたテーブルの陰に身を隠し、モヒカンたちをそっと覗き見て、
レイニー「出たな、モヒカン集団! 家まで特定してくるとは」
オクト「相変わらず、モテモテね」
レイニー「なんとかして逃げないと」
オクト「倒しちゃえば?」
レイニー「そうしたいけど、まだ仕事が残ってるんだよね」
  オクト、いつの間にか持ってきたスーツケースの上に乗っている。
オクト「仕事って、もしかしてこのケースと関係してたりして?」
レイニー「バッチシ関係してる。ブツの取引を任されてんだ」

29P
オクト「本業“殺し屋”なのに?」
レイニー「リーネの尻拭い」
オクト「ああ、なるほど。納得」
  レイニー、片手にスーツケース、もう片方にサンドイッチの乗った皿を持つ。頭の上には、オクトがくっついている。
レイニー「とりあえず、ガレージの車に放り込んでくれ」
オクト「あいよー」
  テーブルの陰から二人の姿が消える。

30P
◯同・ガレージの車の中(夜)
  ガレージには、丸っこい小型車が置かれている。
  レイニーとオクト、小型車の運転席にテレポート。
レイニー「ヤバ」
オクト「どしたん?」
レイニー「鍵忘れた」
オクト「あっしを誰だとお思いで?」
  とオクト、足の先に引っかけた車の鍵を差し出す。
レイニー「ナイスゥ!」

31P
◯同・家の前の道路(夜)
  レイニーの自宅から少し距離を置いた道路上に止まる、一台の車(車種ステーションワゴン)。車の中にはエルダードックスの手下(犬系亜人)が4人待機している。

◯ワゴン車・車内(夜)
  手下たち、ワンボックスの突き刺さったレイニーの家を見ながら、
手下B「モヒカンども、突っ込んでいったな」
手下C「いいじゃん。手間が省けて」
手下D「相打ちに期待しようぜ」
  とガレージから「ブオン」とエンジンを吹かす音。
手下たち「!?」

32P
◯レイニーの自宅・家の前の道路(夜)
  ガレージシャッターをぶち破って、小型車が道路に飛び出してくる。
  車の中には、レイニーとオクトの姿が。

◯ワゴン車・車内(夜)
  手下たち、それを見て驚き、
手下B「モヒカンめ。しくじりやがった!」
手下C「バレないよう慎重に追いかけよう」
手下D「ゆっくりいけよ? 絶対にミスるなよ?」
手下E「うるせえな! 運転するの俺なんだから黙ってろって!」

33P
◯走行中の小型車・車内(夜)
  レイニー、片手で運転しながらサンドイッチをかじる。後部座席でオクトが、皿の上のサンドイッチの山にパクついている。
レイニー「このまま取引場所に向かおう。モヒカンついてきてない?」
  オクト、リアウィンドウを振り返り、
オクト「きてないみたい。たぶん、あいつら家を漁るのに夢中よ。今頃レイニーのパンティでも探してるんじゃない?」
レイニー「うげェー。キモいこと言わないで」

34P
オクト「ねえ、それより何か武器は持ってる?」
レイニー「慌てて飛び出したから、現状これしかねえぜ」
  とレイニー、自分の握り拳をオクトに見せる。
オクト「あら~、頼もしいわねぇ~。それだけあれば、この先二人でずいぶんと長生きできそう」
レイニー「そう不安がるなよ。確かここに銃が――」
  とレイニー、グローブボックスに手を伸ばす。

35P
  だがグローブボックスの中身は、マタタビタバコとジッポライターのみ。銃は見当たらない。
レイニー「ない! 入れといたはずなのに!」
オクト「前にメンテしたときじゃない?」
レイニー「ああっ! アレか! 戻し忘れたァ!」
オクト「しゃーない。さっと行って取ってくるわー」
レイニー「かたじけねえ」
  とオクト、後部座席から姿を消す。

36P
◯レイニーの自宅・外観(夜)
モヒカンAの声「ない! ない、ない!」

◯同・二階のレイニーの部屋(夜)
  レイニーの部屋は、NFBのグッズでいっぱい。モヒカンたちが部屋を荒らしている。
  モヒカンA、両手を掲げ、天を仰ぎ、
モヒカンA「おパンティーはどこォ? レインたんのおパンティー! おッ、おッ、おッー!」
モヒカンB「落ち着け、キモオタァ! 探せばきっとある! レインたんのおパンティは実在する! だから落ち着け!」
  とモヒカンB、顔面にブラジャーを装着している。
モヒカンC「いや、オメーが落ち着けよ(ドン引き)」
  とモヒカンたちの近くの空間が「ズズッ……」と歪む。

37P
  モヒカンA、それを見て、
モヒカンA「お? お?」
  歪んだ空間からオクトが登場。
モヒカンA・B「おパンティー出たー!」
オクト「おパンティーじゃないわよ(呆れ)」
  オクト、モヒカンAの手から拳銃をもぎ取り、
オクト「ちょっと、これ貸して」
モヒカンA「?」
オクト「ほな、さいならー」
  とオクト、拳銃とともにパッと姿を消す。
モヒカン一同「おパンティー消えたー!」

38P
◯猫鳴川の犬猿大橋・橋の上(夜)
  レイニーの乗った車、川にかかる大きな橋の上を走行している。

39P
◯走行中の小型車・車内(夜)
  オクト、後部座席にテレポート完了。
オクト「おパンティー、只今帰還しました」
レイニー「ハァ?」

40P
  オクト、レイニーに拳銃を手渡す。
オクト「銃って、こんなんでいいの?」
レイニー「お、サンキュー」
  とレイニー、後ろ手で受け取る。
オクト「あっ! またそんなもん吸って」
  とオクト、レイニーが火の付いたマタタビタバコをくわえていることに気づく。

41P
オクト「それ絶対身体に悪いよ。変な臭いするし」
レイニー「平気だって。たまにしか吸わないから」
オクト「病気で死んでも知らないからね」
  レイニー、オクトの方を振り返って笑いながら、
レイニー「ハハ、この程度。そう簡単に死んでたまるかっつー……」

42P
  突如、レイニーの車の横に、別の車が横付け。黒塗りのステーションワゴン。中に乗っているのは、エルダードッグスの手下4人。
レイニー「……の」
  と呆気にとられる、レイニーとオクト。
  手下B、並走するワゴン車の助手席の窓から身を乗り出し、短機関銃(トンプソンっぽいやつ)を構え、
手下B「アディオス・アミーゴ!」

43P
◯猫鳴川の犬猿大橋・橋の上(夜)
  手下B、短機関銃を乱射。
  銃弾がレイニーの車に穴を開け、ガラス窓を割り、前輪のタイヤをパンクさせる。
  レイニー、車のハンドル操作が効かず、
レイニー「クソッ!」
  レイニーの車、大きく蛇行。

44P・45P(見開き)
  レイニーの車、橋の欄干を乗り越え、橋の外へと飛び出す。下には川が待っている。
レイニー&オクト「落ちるッ! 死ぬッ!」

46P
◯落下中の小型車・車内(夜)
  バラバラになったサンドイッチが宙を舞う。
  レイニー、運転席で銃を片手にスーツケースを抱えている。オクトは彼女の頭に張り付いている。
レイニー「長距離いけるか?」
オクト「さっき使ったからムリィ! 水の中? 橋の上? 選んで、早く!」
レイニー「車ァ!!」
オクト「正気!?」
レイニー「いいからやって!!」

47P
◯猫鳴川の犬猿大橋・橋の下(夜)
  レイニーの車が川の中に落下。ドボーンと大きな水柱。

◯ワゴン車・車内(夜)
手下E「やったか?」
手下B「わからん。確認してくる」

◯ワゴン車・車外(夜)
  手下B、車の外に出て、橋の下を見に行こうとする。
  だが手下Bの背後で、車がガタンと大きな音を立てる。

48P
  手下Bがふり返る。車内の後部座席、手下CとDの間にレイニーとオクトの姿があった。落下する車からテレポートしてきたのだ。

◯ワゴン車・車内(夜)
オクト「ハァ~イ。お邪魔してま~す」
  とオクト、レイニーの頭の上で手をふって挨拶。
手下C・D・E「!?」
  手下三人、慌てて銃をレイニーに向けようとする。

49P
  レイニー、車内にいた手下三人をあっという間に撃ち殺す。

◯ワゴン車・車外(夜)
  手下B、車の外で愕然とした顔。

50P
  手下B、我に返り、ワゴン車に銃を乱射。
手下B「ク、クソがァ!」

◯ワゴン車・車内(夜)
  レイニー、銃弾から逃れるため身をかがめる。

51P
  レイニー、手下Bのいる方向とは反対側のドアを開け、そっと外に転がり出る。このときスーツケースは車内に置き去りとなる。

◯ワゴン車・車外(夜)
手下B「うおおおーッ!」
  手下B、銃を乱射している。

52P
  オクト、いつの間にか手下Bに接近し、彼の左頬にピタッと張り付いている。
オクト「あなた、犬かきはお上手?」
手下B「え?」
  オクトと手下B、橋の上から姿を消す。

53P
◯猫鳴川・上空(夜)
  オクトと手下B、猫鳴川の上空に出現。
手下B「!?」
  オクトの手を離れ、手下Bが川へと落ちていく。
  オクト、手下Bに笑顔で手をふって、
オクト「アディオス・アミ~ゴォ!」
手下B「ちょっ……」

54P
手下B「う、うわあああー!」
  と手下B、川に落下。水面にひときわ大きな水柱が上がる。

◯猫鳴川の犬猿大橋・橋の上(夜)
  オクト、宙を漂いながら、橋の上のワゴン車へと接近し、
オクト「フゥ~、スッキリ~。なんか今日のわたくし、めっちゃ活躍してない? 国民栄誉賞ものなんですけど。ねえ、聞いてる? レイニー?」

55P
◯ワゴン車・車外(夜)
  レイニー、ワゴン車の中を覗き込んで、頭をかいている。
レイニー「あちゃ~」
オクト「どしたん? って……」
  ワゴン車の後部座席の上に、銃弾でボコボコになったスーツケースが横向きに鎮座。鍵の部分が破損している。
オクト「ボッコボコ! ボッコボコですやん!」

56P
  レイニー、ケースをなでて、
レイニー「防弾仕様で助かったぜ。でも鍵が壊れてるな」
オクト「これ取引に持っていくんでしょ? マズくね?」
レイニー「うーん。時間あるし、新しいケース買って、中身入れ替えるか」
オクト「これ中身なんなん?」
レイニー「さあ? 違法マタタビかなんかだろ」

57P
  とケース、ガタッと音を立てて揺れる。
  見つめ合うレイニーとオクト。
オクト「え? 今これ動かなかった?」
レイニー「いや……まさかな……」
  とレイニー、鍵の壊れたスーツケースにそっと手を伸ばす。
  ゴクリとツバを飲む二人。

58P
  ケースを開くと、中ではチマキ(8)が丸まって眠っている。人間の少女。革製の首輪を付けている。首輪にはタイマーのような機械がついており、首輪の側面には小さく『CHIMAKI』の文字が刻んである。
オクト「なによこれ……。どういうこと? なんで女の子が……」
レイニー「チッ! 胸糞わりィ!」

59P
  とレイニー、怒りで親指の爪をガジガジ噛みながら、
レイニー「堕ちたな、山猫組も。とうとう人身売買に手を染めたか。そんな連中に都合よくこき使われていたとはね。盲点だったよ」
オクト「レ、レイニーは悪くないわよ」
レイニー「悪くない? 悪くないだと? アタシはこの子を置き去りにしたんだぞ? 銃弾が降り注ぐ、危険な車の中に! アタシは、自分が許せない!」
  とレイニー、自分の親指にガリッとかみつき、指から血が垂れる。
オクト「レイニー……」
レイニー「よし。決めたぜ、オクト。アタシは――」

60P
レイニー「この子を連れて逃げるッ!」
オクト「……本気なのね」
レイニー「ああ。国内最大のヤクザ、山猫組を敵に回すことになる。オクトはどうする? 別に無理についてこなくても……」
オクト「バカねぇ。もちろん行くに決まってるでしょ?」
  レイニー、少し嬉しそうに胸をなでおろす。

61P
オクト「だいたいあんたがいなかったら、いったい誰が私のご飯を作ってくれるのよ」
レイニー「ハハハ、そんな理由でついてくんのかよ。でも頼りになるぜ。一人だと心細いしな。相棒がほぼニートで助かったよ」
オクト「それって褒めてる?」
レイニー「半分」
オクト「半分!? 残り半分はなに!?」

62P
◯スーパー「タヌ出」・外観(夜)
  激安スーパー「タヌ出」の建物。
リーネの声「ふぅ……。買い出し完了」

◯スーパー「タヌ出」・出口(夜)
  リーネ、両手に荷物を抱え、スーパーから出てくる。
リーネ「早く事務所に戻らないと」

◯スーパー「タヌ出」・駐車場(夜)
  リーネ、駐車場に停めた自分の車に近づく。
リーネ「レイニーさん、そろそろ取引現場に着いたかな?」

63P
◯リーネの超小型車・車外(夜)
  リーネ、車のトランクを開け、荷物を入れようとする。
リーネ「ん? なんだろ、これ」
  とリーネ、トランクの中に小物用の封筒が転がっていることに気づく。封筒の片面には、長めの粘着テープが張り付いており、余ったテープが左右からはみ出ている(スーツケースの側面に張り付いていた名残)
  リーネ、封筒を開けると、カセットテープの入った再生機が出てくる。
リーネ「うわ、ずいぶんと古風な」

64P
  リーネ、再生機のスイッチを入れる。
謎の声「ハロー。無事にケースは受け取ったかな?」
リーネ(ケースって……レイニーさんに渡した、あのスーツケース? 確かにトランクには入れてたけど)
  リーネ、封筒に付いたテープを見て、
リーネ「この封筒。もしかして、スーツケースに張り付いてたんじゃ……」
謎の声「中身には驚いたはずだ。まさか人間の子供が入っているとは、夢にも思わなかった。そうだろ?」
リーネ「??」

65P
謎の声「その少女は、ただのガキじゃない。二年前に起きた事件を覚えているか? 黄昏市の住民が一夜にして消滅した事件。市内には、大量の血痕が残されていた。あの惨劇を引き起こした能力者『ブラッディ・ボマー』の正体。それこそが、そのガキなのだ」
リーネ「え? え?(汗)」
謎の声「端的に、要件を言おう」

66P
謎の声「48時間以内に10億ドル用意しろ。できなきゃ、夜霧市の住民を皆殺しにする」
リーネ「え~~~ッ!!(滝汗)」
謎の声「そのガキが目を覚ましたらカウントダウンが始まる。このテープを聞いているということは、もう時間はないぞ? 急いで金をかき集めることだな」

67P
謎の声「ガキを殺そうとしてもムダだ。その子に危害を加えたり、首輪を外そうとしたらドカン。住民は全滅。もちろん市外に連れ出すのもアウト。お前たちにできることは何もない」
リーネ「ど、どうしよう……」
謎の声「あるとすれば、ひとつだけだ。指定する口座に金を振り込め。金はビットゴールドで準備しろ。振込先は、ダークウェブ銀行の次の口座だ。口座番号は……」
リーネ「お、終わりだ……。この世の終わりだァー!」
  とリーネ、号泣。

68P
◯レイニーの隠れ家・居間(夜)
  レイニー、部屋を見回し、
レイニー「このセーフハウス、久々だなー」
オクト「ねえ、そろそろじゃない?」
  とオクト、ソファで眠るチマキの顔を覗き込む。
  チマキ、目を覚ます。

69P
  チマキ、二人と目が合う。
レイニー&オクト「あ、起きた」
チマキ「は、腹減った……」
  チマキの首輪のタイマーがピッと始動。タイマーの表示「47:59:59」。
N『夜霧市 壊滅まで、あと48時間』


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