「トーキョー・ジビエ・マーセナリーズ」第3話

○ゾーン辺境・森の小道
  甲騎、純馬、希、荒れた小道を歩く。
  先行する希の後ろで、純馬が話しかける。
純馬「メタモルフォルゼの小瓶を見つけ出す? それでゾーンを消し去るだって? 冗談じゃないぜ、お嬢ちゃん」
希「その議論ならもう終わった」
純馬「いいや、アンタはわかってない。この森がどれだけ日本の経済にガッチリ食い込んでるのか、理解してないだろ?」
希「理解してるって」
純馬「ゾーンが消えたら大勢の人間に恨まれるぞ?」
希「知ってるし覚悟はできてる」
純馬「そうは言うがな……」
  と希、振り返って
希「別に文句があるなら着いてこなくていいんですけど? 私が雇ったのはあなたじゃありませんし」
  と甲騎の腕を引っ張り、
希「さ、甲騎くん。二人で行こ」
  純馬、もう片方の腕を引っ張り、
純馬「オレはこいつの師匠だぞ。弟子を勝手に連れてくなよ」
  甲騎、板挟みで悲鳴。
甲騎「うわっ! ちょっと二人とも落ち着いてください!」
純馬「これが落ち着いていられるか!」
希「まずは向こうを落ち着かせてよ!」
  と甲騎、顔を真っ赤にして、
甲騎「ああああ、マズい! 漏れちゃうって!」
純馬「……え? 漏れ?」
希「ちゃう?」
甲騎「ぼくトイレ行きたいんですよ! だから引っ張らないで!」
純馬と希「あ、ごめん」
  甲騎、道脇の藪に入りながら、
甲騎「とにかく、ぼくが戻るまでケンカしないでくださいね」
純馬「するかよ。ガキじゃあるまいし」
希「見た目は大人、頭脳は子供(ボソッ)」
純馬「何だと!」

○藪の奥の木立
  甲騎、藪を進みながら、
甲騎(まったくもう。あれじゃ先が思いやられるよ)
  甲騎、立ち小便をしながら考える。
甲騎(だけど……ぼくは本当にあの二人と一緒にいていいんだろうか? 希さんは薬瓶を探しにゾーンの最深部を目指す。純馬さんは森に詳しいから道案内ができる。戦いにも強い。となるとぼくは……)
甲騎「何もできないのにお金だけ貰って。申し訳ないよなぁ……」
  と突然、藪がガサッと動く。
甲騎「わあッ!?」
純馬「よう」
甲騎「なんだ純馬さん。脅かさないでくださいよ」
純馬「そうビクつくなって。連れションいいか?」
  純馬、甲騎の横で立ち小便。
  甲騎は用を足し終え、近くの石に腰掛けている。
甲騎「あの、純馬さん」
純馬「なんだ?」
甲騎「やっぱりぼく、ハンター組合に行こうと思うんです」
純馬「どうして? オレと一緒に旅しながら、狩りの仕方を学べばいいじゃねえか?」
甲騎「でもなんか……希さんに申し訳ないというか……」
純馬「自分が役立たずだ、とでも思ってるのか?」
甲騎「ええ、まあ。その通りです」
純馬「別にいいじゃねえか。役立たずでも」
甲騎「え?」
  純馬、用を足し終え、ズボンのチャックを閉じる。
純馬「誰もお前さんのことを邪魔だなんて言ってないんだぜ? 思ってもいない。だったら黙って着いてきて、そのうち自分でも役に立てることを見つけりゃいいんだよ」
甲騎「そ、そうですかね?」
純馬「それにな。変異能力ってのは成長するんだ。前に戦ったジャイアント河瀬ってヤツいただろ? 腕がデカくなる男。あいつも第一世代、いわゆるハズレの能力者だ」
甲騎「あの人が? あんなにパワーがあったのに?」
純馬「まあ、頭は弱かったけどな。だが力は強かった。あれだって使っているうちに強くなったんだ。だから甲騎も自分の能力を見限るなよ。どんなに下らないと思う才能でも、磨いていくうちに案外役に立つもんなんだぜ? 変異能力に限らずな」
甲騎「そう言われると何だか元気が出てきました」
純馬「なら良かった。さ、戻ろうぜ。お嬢さんがお待ちかねだ」

○元の小道
  二人、希のいた場所へ。だが希が消えている。
純馬「あれ? 誰もいねえ?」
甲騎「トイレですかね?」
  純馬、地面についた複数の足跡に気付く。
純馬(これは……誰かと揉み合った形跡か?)
  純馬、甲騎の方を振り返り、
純馬「どうやらお客さんが来てたらしい」
  甲騎の驚いた顔のアップ。
甲騎「誘拐ッ!?」
純馬「ああ、おそらくな。食堂で誰かに目を付けられたんだろう。森の中に女の子を一人で残していくのはマズかった。うかつだったぜ」
甲騎「どうしよう? 早く助けないと!」
純馬「落ち着け、甲騎。あのお嬢ちゃん、見かけより相当タフだぜ。頭が切れる」
  と純馬、草むらから何かを拾い上げる。
純馬「メッセージを残していった。助けに来い、とさ」
  と純馬、手に持ったコインを見せる。

○森の小道の別地点・希サイド
  モヒカン兄、希を担ぎ上げ、走っている。その横にモヒカン弟。
モヒ弟「やったな、兄上ェ! 作戦成功だぜ!」
モヒ兄「おうよ、弟下ァ~! これでボスも喜んでくれるに違いねえ!」
  モヒ兄の肩に揺られながら、希は気を失ったフリ。
  希の頭から少し血が流れている。
  希、薄目を開けて、腰に吊り下げた袋にそっと手を伸ばす。
希(草むら、柔らかそうな土……なるべく音のしない場所に……)
  と希、袋から取り出したコインをそっと地面に落とす。
  最小限の動きで手首をスナップさせ、狙った場所に投げる。
  コイン、ポスッと小さな音を立てて、草むらに着地。
  そして希、もう一枚コインを投げる。
希(あ、しまった!)
  投げたコイン、狙いを外れ、地面に埋まった石の上に着地。
  コインが「キィン!」と甲高い音を立てる。
モヒ弟「ん? なんだァ?」
モヒ兄「どうした、弟下?」
  兄弟、足を止める。モヒ弟がコインを拾う。
モヒ弟「あ、兄上! 大変だ! これを見てくれ!」
モヒ兄「ん? ピースコイン?」
モヒ弟「あっちにもある! 向こうにも! この女の身体からコインがポロポロこぼれてやがったんだよ!」
モヒ兄「なァ~にィ~!!」
希(マズいなこれ。気絶してないのがバレちゃう)
モヒ弟「こいつを見てくれ、兄上!」
  とモヒ弟、モヒ兄の担ぐ希をまじまじと見つめ、
モヒ弟「この女の腰についた袋。口が緩んでやがる。中身はコインだぜ」
モヒ兄「ってことは……つまり……」
希(アタシじゃない、アタシじゃない。死んだフリ、死んだフリ)
モヒ兄「オレが激しく揺さぶったせいで、貴重なお金がドンドンこぼれちまったってことかァ~!?」
モヒ弟「頼むぜ、兄上ェ~!!」
モヒ兄「すまねェ~ぜ、弟下ァ~!!」
希(アホ兄弟で助かった……)
  とモヒ弟、遠くを見て何かに気づく。
モヒ弟「あ、マズい! あいつらが来る!」
モヒ兄「何だと!」
  と遠くから走ってくる、純馬と甲騎。
モヒ兄「コインを追ってきやがったな! 逃げるぜ、弟下!」
モヒ弟「ガッテン承知だぜ、兄上!」

○同・甲騎サイド
  純馬と甲騎、落ちているコインをたどって追跡。
  遠くにいるモヒカン兄弟を発見。
甲騎「いました! あそこです!」
純馬「敵は二人か。あの軽装備。たぶん能力者だ。油断するなよ」

○同・希サイド
  モヒカン兄弟、目の前に崖が現れ、立ち止まる。
  崖の下には川、対岸には砂利、その奥に森が広がっている。
モヒ弟「危ない! 崖だ!」
モヒ兄「チッ、また地形が変わってやがる。最近この辺は不安定だな」
モヒ弟「どうする、兄上? このままだと奴らが……」
モヒ兄「落ち着け、弟下。オレの能力を思い出せ」
モヒ弟「兄上の能力……。あっ!」
モヒ兄「何の問題もねえ。逆にこの地形は好都合だぜェ~」

○同・甲騎サイド
  走って追いかける二人。遠くのモヒカン兄弟を見て、
甲騎「あいつら止まってます!」
純馬「向こうに空が見える。ってことは、あそこは断崖絶壁か?」
甲騎「チャンスです! 追い詰めましょう!」
純馬(チャンスなのか? なぜあの場を動かない?)

○同・希サイド
  モヒ弟、追ってくる二人を見て、
モヒ弟「へへ、来た来た」
  モヒ兄、希をお姫様抱っこして崖に立つ。
希(え、ウソ? マジでやるの?)
モヒ兄「いくぜ弟下!」
モヒ弟「おうよ!」
  とモヒ兄、崖から飛び降りる。弟も続く。
希(ウギャーッ! 死ぬ死ぬ死ぬゥ~! ガクッ……)
  と希、白目を剥いて気絶。

○同・甲騎サイド
甲騎「飛び降り」
純馬「やがった!」
  と純馬、崖の前に来て急ブレーキ。
  甲騎、その手前で膝から崩れ落ちる。
甲騎「そんな! 間に合わなかった……」
純馬「よく見ろ、甲騎。奴ら飛び降りたんじゃない」
  崖の下、モヒ兄が煙を立てながら壁面を滑るように降りていく。
  モヒ兄の背中には、巨大なカニの脚のようなものが二本。
  それを崖に突き刺し、壁をガリガリと削りながら下っていく。
  また背中には、ゴリラの腕のようなものも二本生えている。
  その腕の片方にモヒ弟がつかまっている。
  それを見て、純馬。
純馬「崖を、下っているんだ!」

○崖下
  崖下には川が流れている。
  モヒ兄、崖の途中で、ゴリラの腕を使い、壁を強く叩く。
  その反動で対岸へと飛んでいき着地。
モヒ兄「よっしゃ! うまく撒いてやったぜ!」
モヒ弟「さすが兄上! 奴らはもうこっちに来れねえ!」

○崖上
  崖下を覗く二人。
純馬「やるな、あいつら。第三世代の能力者か」
甲騎「感心してる場合じゃないですよ! ぼくらも何とかしないと! 確か純馬さん、糸の能力が使えましたよね? それを使えば、ぼくらも下に降りられるんじゃ……」
純馬「そういや紹介がまだだったな」
  と純馬、片手を広げ、掌に巨大なクモの脚を何本か生やす。
純馬「オレはクモの力を使う能力者。能力名は“針と糸スパイク・アンド・ストリングス”。身体から自在にクモの脚を生やし、糸を作り出す。こいつを使って奴らを出し抜こう。モヒカンどもの鼻を明かし、お嬢ちゃんを助け出すぞ!」

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