「レインコートとチマキとタコと」第2話
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◯夜霧山猫組の事務所・室内(夜)
サメジマ組長(40)が持つテープ再生機から声が流れている。
謎の声「48時間以内に10億ドル用意しろ。できなきゃ、夜霧市の住民を皆殺しにする」
サメジマ、再生機を止める。彼もまた猫系亜人(サーバルキャット)。
サメジマ、事務所机に腰かけながら、
サメジマ「つまり、こういうことか。スーツケースの中に入っていた少女は、大量虐殺を起こす能力者で、レイニーとオクタヴィアは、その子を連れて姿を消したと」
事務椅子に座ったリーネ、涙を流し、
リーネ「ううっ……ごめんなさい。私がちゃんと確認していれば……」
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事務所内にいるのは、リーネとミナミ、若頭のマサ(33)。マサも猫系亜人(トラ)、大柄の男。
サメジマ、その場にいる全員を見回し、
サメジマ「いや、リーネは悪くないさ。問題のケースは、本部から送られてきたものだ。当然、中身は子供などではない。純度300倍の違法なマタタビ粉が入っているはずだった」
マサ、目を丸くして、
マサ「じゅ、純度300倍!?(ジュルリ)」
ミナミ「こら、マサくん。ヨダレを垂らさないの」
マサ「そのご馳走……じゃなかった。そのブツはどこに消えたんです?」
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サメジマ「わからん。だが、どこかの段階で中身がすり替えられた。おそらく犯人は、我々がそのことに気づくよう、わざと雑な梱包をした。ケースの外側に封筒を貼り付けたのだ。しかし……事態は思わぬ方向へと向かってしまった」
リーネ、大泣きして、
リーネ「うわあああん! やっぱり私のせいだー!」
と机の上のペン立てからペンをガッとつかむ。
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リーネ、ボールペンを持ち、先端で自分の首を狙う。
リーネ「けじめェ! けじめをつけますゥ!」
ミナミ「ちょっとダメよ、リーネちゃん! ボールペンで頸動脈はムリがあるわ! 初心者は刃物になさい!」
リーネ、ペンを投げ捨て、事務所の奥の部屋へ。
リーネ「はいぃぃぃ! ドスゥ! ドス探してきますゥ!」
ミナミ「だからダメだって! 一旦落ち着きなさいよ!」
マサ、リーネを追うミナミを呆れ顔で見つめる。
サメジマ「マサ。レイニーの捜索はどうなってる?」
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マサ「残念ながら進展はないですね。彼女、完全に隠れてますよ」
サメジマ「うーむ。どうしたものか」
マサ「オジキ。その少女って本当に能力者なんですか?」
サメジマ「わからん。だが仮に本物だとしたら大変なことになる。もしレイニーが少女を連れて市外へ逃亡したら……」
マサ「能力が発動……ヤバいっすね」
サメジマ「そうなる前にレイニーと接触しなければ。彼女が夜霧からの脱出を思い立つ前に!」
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◯レイニーの隠れ家・外観(夜)
レイニーの声「ねえ、オクト」
オクトの声「なに?」
◯同・台所(夜)
レイニー、台所で出来上がったオムライスを皿に盛り付けている。その横でオクトが漂っている。
レイニー「アタシさ、夜霧市を出ようと思うんだ」
オクト「マジで!?」
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◯同・居間(夜)
レイニー、居間のテーブルで待つチマキの元へ皿を運ぶ。オクトも追いかけてくる。
オクト「でも外に逃げたって、あいつら追ってくるわよ?」
レイニー「それはここにいても同じ。だったら遠くへ逃げた方がいい。戦いを避けられる」
チマキ、テーブル席に座ってヨダレを垂らしている。
レイニー「もう子供を巻き込むのはごめんだね。ほら、できたよ」
とレイニー、オムライスの皿と水の入ったコップをテーブルに置く。
チマキ「うわー! 美味しそー!」
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チマキ、オムライスをガツガツかきこむ。
オクト「慌てて食べて。ノドに詰まるわよ?」
レイニー「この子は全然物怖じしないな。アタシらにも驚かない。どう、お嬢ちゃん。お味の方は?」
チマキ、口の中のものをごくんと飲み込み、
チマキ「おば……お姉さんの作ったオムライス美味しい!」
レイニー「……(微妙な顔)」
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レイニー、チマキを指差し、
レイニー「なあ、このガキ。今アタシのこと、おばさんって言おうとしなかったか?」
オクト、仏のような顔で、
オクト「アラアラ、ウフフ。いいじゃないの、可愛らしくて。いちいち子供の言う事を真に受けてちゃダメよ」
チマキ、オクトを指差し、
チマキ「このタコも食べていいの?」
オクト、鬼のような形相で、
オクト「レイニー! この穢らわしい悪魔を今すぐ撃ち殺して! 早く!」
レイニー「ガッツリ真に受けてるじゃねえか」
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テーブルの上、三人が食べ終わった料理の皿が積み重なる。チマキは食後のデザートを食べている。
オクト「レイニー。さっきの話なんだけど、本当に夜霧を出るの?」
レイニー「ああ、そのつもりだ」
オクト「私、やっぱりその話に反対よ」
レイニー「なんで?」
オクト「いくら遠くへ逃げたって戦いは避けられない。回数が減るだけ。いずれ誰かが傷つく。だったら土地勘とコネのある夜霧で、もう少し粘ってもいいんじゃない? 助けてくれる人もいるだろうしさ」
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レイニー「誰かと交渉しろってこと? そういう政治的なゴチャゴチャは苦手だな。めんどくさいし」
オクト「ひとついい考えがあるんだけど」
レイニー「なに?」
オクト、レイニーに耳打ち。
レイニー「……それマジで言ってる?」
オクト「試してみる価値はあるんじゃない?」
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◯エルダードッグス夜霧支部の事務所・外観(夜)
夜霧山猫組と違って、立派な事務所。
ブリーの声「ガハハハ! ラッキーだったな!」
◯同・室内(夜)
事務所の一番奥の机で、幹部のブリー(46)がイスに座っている。彼は犬系亜人(ピットブル)。机の前には、手下A(金玉損傷)と手下B(ズブ濡れ)が立っている。室内には他にも手下が数名待機している。
ブリー、手下AとBを見て、大笑いしながら、
ブリー「二人とも生きて戻れてよォ! 運がよかったぜ!」
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手下A、青ざめた顔。片手で股間を抑えて、
手下A「良くないっすよ! 金玉潰されたんですから!」
手下B「ヘックシュ!(くしゃみ)」
ブリー「でも命は取られなかっただろ?」
手下A「これから取られるんすよ、片玉! 病院で! 今から入院です!」
ブリー「ワハハ! こりゃ一本取られた!」
手下A「取ってないっす! 取られるの俺っすから!」
手下B「ぶえっクシュ!」
と事務所のドアが開き、手下Fが入ってくる。
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手下F、片手に持ったスタジャンを示し、
手下F「ドアノブにかかってたけど、これ誰の?」
手下AとB、ゾッとして、
手下AとB「レインコートだ!」
手下F「どう見てもスタジャンだけど?」
手下AとB「違う! それはレインコートの――」
手下Fの背後、開きっぱなしのドアから、レイニーの手が伸びてくる。
リーネN『あのゥー……』
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◯夜霧山猫組の事務所・室内(夜)
リーネ、紐でイスにグルグル巻き。背後にはミナミが仁王立ち。
リーネ「レイニーさん見つけるのって、そんなに難しいんですか?」
サメジマ、自身の机に座り、碇ゲンドウのポーズで、
サメジマ「常人では、まず不可能。テレポーターとコンビを組んでいるからな。仮にテレポーターがいなかったとしても――」
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◯エルダードッグス夜霧支部の事務所・室内(夜)
レイニー、ドアの前で手下Fを人質に取り、立っている。片手の拳銃を手下Fの後頭部に押し付け、もう片方の手には火のついたジッポライター。
サメジマN『レイニー・ハイドは、ひどく厄介な能力者だ』
マフィアの面々、銃を構えながら怯えた表情。
サメジマN『この街の誰もが、レインコートを恐れている』
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レイニー、ジッポを天井に投げる。
サメジマN『レインコート』
ジッポ、天井の火災感知器の方へ。
サメジマN『その通り名の由来は』
レイニー、銃でジッポを撃ち抜く。
サメジマN『生まれ持った特殊能力』
火災感知器が炎に包まれる。
18P・19P(見開き)
天井のスプリンクラーが一斉に作動。
室内にいる全員がびしょ濡れに。
サメジマN『湿度の高い空間において、彼女は本領を発揮する』
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手下Fの背後、レイニーの姿が薄れていく。
サメジマN『雨を纏い、姿を消す。透明化の能力者』
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手下F、透明化したレイニーに殴られ、床に倒れる。
ブリー「撃てェ!」
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ブリーと手下たち、銃を乱射。しかし当たらず。
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ブリー「クソ! どこだ!」
とブリーの目の前の机、天板がベキッと凹む。透明化したレイニーが踏んづけたのだ。
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凹んだ机の上の水溜りがバシャッと跳ね上がり、ブリーの頭上を飛び越えるようにして、水滴が空中で弧を描く。
そのアーチを呆然と眺めるブリー。
サメジマN『つまり雨の多い夜霧市において、レイニーは最強の暗殺者の一人なのだ』
ブリー(飛んだ!? 後ろか!!)
とブリー、振り返ろうとする。
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透明化を解いたレイニー、ブリーの背後から銃を突きつける。
レイニー「ゲームセット! 全員動くな!」
ブリー「チッ……。お前ら、銃を下ろせ」
手下たち、銃を下ろす。
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レイニー「貴様のボスに大至急伝えろ。取引がしたいと。要求はアタシを含む三名の保護」
ブリー「ハァ?」
レイニー「代わりにあるものを差し出す」
ブリー「いったい何を?」
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レイニー「夜霧山猫組、組長サメジマの命を取り、シマを明け渡す!」
ブリー「……それマジで言ってる?」
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◯レイニーの隠れ家・居間(夜)
オクトとチマキ、テレビで野球を見ている。
テレビ『さあ、試合は延長戦へと突入しました。はたして今夜のゲームを制するのはどっち?』
オクト「レイニー遅いわねぇ」
チマキ「頑張れー。なんとかバスターズ」
チマキの首輪のタイマー「46:00:15」。
N『夜霧市 壊滅まで、あと46時間』
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