二丁目忌行文 ~虹色奇々怪々~
【透明人間】 其の五
成仏したあの幽霊から俺は語り部をバトンタッチされた。
ここからは俺、行道零(いくどうれい)の語りになるので要注意だ。
東京の下町にその小学校は存在していた。
閉校して何年もたっているため、校舎全体にツタが複雑に絡み合っている。
廃墟としては雰囲気が抜群だ。
あのとき、俺が露の趣味がある幽霊の意識から感じ取ったロケーションで 間違いない。
俺は立ち入り禁止の看板を無視して、校門を乗り越えて廃墟に侵入する。
昼間なのにうす暗い。
まるで『学校の怪談』の劇中に入り込んだ気分になる。
ちなみに俺は金子修介監督が撮った『学校の怪談3』がシリーズの中で一番好きだ。「ギョーザ焼いちゃうぞ」ってセリフがあるのは何作品だったっけ?
そんなことを考えながら、校舎を歩いていると、目的である白骨化した遺体を発見した。
体育館の倉庫。
隠されるよう遺体は放置されていた。
衣服を身に着けた様子はない。
おそらく校内のどこかで殺されて倉庫に隠されたんだと思う。
廃校の中で趣味の露出行為を楽しんでいたところ、運悪く見つかった上にホモ狩りにあったことは容易に想像できる。
ゲイは被害届を出しにくいからと暴力衝動を抑えることなく襲撃する。
過去にもホモ狩りと称した暴力で殺されたゲイたちがいる。
俺は彼が幽霊さんになった原因である俺は犯人の顔を知っている。
あの幽霊さんが旅立つ寸前の走馬灯が俺の意識に流れ込んできたからだ。
犯人は2人の男だ。おそらく20代前半。
俺は白骨遺体に向かって両手を合わせる。
「無事に成仏できたかな? お盆になったら『ナナシ』でも来てよ。期待しないで待ってるからさ」
そう呟きながら、スマホを取り出す。
俺は知り合いの公務員───警察官に連絡を取った。
簡単に事情を説明する。
「はいはい。また死体を発見したわけね」
警察官は慣れた様子で、死体を発見した場所をたずねて来た。
俺は廃校の場所を告げる。
そして通話を終えると、LINEで殺人犯である2人の似顔絵を送っておいた。
SNSにイラストをアップしている知り合いに、俺が2人組の特徴を伝えて似顔絵を作ってもらっていた。
新宿二丁目には、それはそれは各種多様、様々な職業の人間が集まって来る。そのネットワークを使えば、なんだって可能になる……と思う。
困っている人を助けることだって可能になるはずだ。
そして俺は二丁目に於ける摩訶不思議、奇々怪々、霊的現象の担当ってわけ。
どこのクラスにも1人はいた自称霊感強い系ってやつだ!
俺の場合は注目されたくて霊感があるフリをしているわけじゃない。
あることがきっかけで、突然、不可思議なものが見えるようになってしまった。まぁなにがきっかけなのかは、また別の話ってことで。
新宿2丁目だけじゃなくて、上野、浅草、新橋、日本全国のゲイバーやハッテン場での不可思議現象や、霊的トラブルがあったときは、この俺、行道零に連絡よろしく。可能な限り解決するんで。
TOHOシネマズ新宿か、新宿ピカデリー、テアトル新宿、シネマート新宿、新宿バルト9にいることが多いから。それらのロビーで「お~い! 行道零!! SOS」と言ってくれたら「は~い!」と返事するんで。
もしくは2丁目のGMPDが集まる飲み屋さんか、辛気臭い地下にある俺の店『ナナシ』に来てくれてもいいからさ。怖がらずに声をかけほしい。
あ、パトカーのサイレンが聞こえて来た。
不法侵入で捕まりたくないから、今日はこの辺で。じゃあまた!
透明人間 完
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