二丁目忌行文 ~虹色奇々怪々~
【透明人間】其の四
二丁目。仲通りの交差点。
すでに終電も終わって、乗車待ちのタクシーがちらほら。
僕は全裸で立っている。
さっきは誰も見てくれなかったけど。今は違う。
多くの人が全裸の僕を輪になって取り囲んでいる。
若いスリムなイケメン、ダンディなオジサマ、短髪のガチムチ、店子さんらしき人や、ママらしき人たちなど。
これぞ二丁目!! と、いう面子が揃っている。
たくさんの眼が僕を見つめている。
でも、なんで? さっきまで無視を決め込まれていたのに……。
「さぁて! ポール・バーホーベンの『ショーガール』みたいに派手でぶっ放していいからさ。あ、ショーガールみたいってのはマズイか。ラジー賞7部門制覇しちゃってるやつだし」
またしても零くんは意味の分からない例え話をして1人で嬉しそうに笑っている。
でも、あまり腹は立たない。この人たちを集めてくれたのは零くんなのだろうから。
あのとき、黒電話で連絡をとっていたのはこの人たちなんだろう。
僕のためにありがたい。この街でこんな風にしてもらえたのは初めてだ。
やばい。気持ちいい。露の趣味がある僕の願望が叶った。
こんなに多くの眼が僕を見ている。興奮する。昇天しそうだ。
───ありがとう。
この街にいい思い出ができた。やっと旅立てる。
ん? あれ? 旅立つってどこに? なんだろうこの感じ?
体の内側、中心部から温かくなってきた。
イクときと同じくらい気持ちいい。
そのとき、僕の頬に零くんがそっと触れた。
刹那、僕の脳裏に閉校した小学校らしき廃校、迫りくる2人組の若い男、振り下ろされる鉄パイプが走馬灯のように駆け巡った。
その走馬灯が零くんに流れ込むように感じる。
「君の死体は俺が必ず見つける。だから安心して」
死体? また突拍子もないことを言い始めた。そもそも僕の死体って……。
「!?」
あ、僕の肉体が徐々に消えてゆくのを感じる。
そっか。僕は……僕は……あのとき……。
だから、この物語の語り部をバトンタッチしたいと思う。
ここから先は、零くんが。行道零(いくどうれい)が語り部を担ってくれるだろう。
その瞬間、僕の肉体と魂はこの世から完全に消え去った。
其の五へつづく。