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UEFAカンファレンスリーグが作られた意味

先日、「欧州サッカーPRESS」なるコーナーに下記のような記事が出ており、下記のような文言が載っていた。

カンファレンスリーグなる意味不明の大会の出場資格を得たにすぎない。

敢えて煽らせてもらえば、この著者御仁はヨーロッパサッカーに詳しいと自称する割に、カンファレンスリーグが設立された経緯を把握していないということであろうか。そうでなければ「意味不明の大会」なとという発言は出てこないだろう。私はカンファレンスリーグについては前に一度記事を書いたことがあるが、本稿では改めてそれが設立された意味を解説する。


カンファレンスリーグとは何か

UEFA ヨーロッパ・カンファレンスリーグ(以下UECL、公式略語がこれで確定)は、UEFAのクラブサッカー大会体系において、チャンピオンズリーグ(以下CL)を1部、ヨーロッパリーグ(以下EL)を2部としたうえで、その下に3部の大会として創設されるものである。

これらの大会は、基本的に1部~3部の階層システムとして設定されているが、歴史的経緯から単純な階層制度とも少し異なるものになっている。

CL、EL、UECLがそれぞれ1部~3部に相当するのは、制度上明白に定義されている。
▼ CLプレーオフで敗れたチームは「降格」してELの本戦に出場し、ELのプレーオフで敗れたチームは「降格」してUECLの本戦に出場する。
▼ CLでグループステージ(GS)3位だったチームは「降格」してELのGS2位とEL参戦プレーオフを戦いEL優勝を目指し、ELのGS3位チームは「降格」してUECL参戦プレーオフでUECLのGS2位と戦いUECL優勝を目指す。
▼ EL優勝チームは「昇格」して次シーズンのCLに出場枠を持ち、UECL優勝チームは「昇格」して次シーズンのELに出場枠を持つ。
▼ UECLにはCL予選1~2回戦の敗者復活戦専用の枠(champions part)があり、この枠はリーグ2位以下でUECL予選出場資格を得たチームと交わらない。この点でもCLの"3部"としての性質を帯びる。

一方で、CLがもともとリーグ1位だけの大会であったことや、ELがカップウィナーズカップと統合された経緯を踏まえ、単純にランク上位のリーグどうし、ランク下位のリーグどうしが対戦するフォーマットとなっていない面がある。
▼ 欧州の全てのリーグの1位には予選を含めCLの出場権がある。4大リーグの中位のチームは、おそらくCL予選出場チームの大半より強いが、CL予選出場権は与えられない。
▼ 中堅リーグ2位のCL予選枠と下位リーグ1位のCL予選枠は交わらない。
▼ CL直行枠を与えられる上位リーグのカップ戦王者は、EL直行枠を与えられる。下位リーグのカップ戦王者はその代りにUECLの予選枠を与えられる。

全体としては、CLとELが上位リーグだけが原則出場し、CLはリーグ上位、ELはそれ以下のクラブとカップ戦王者の大会になり、下位リーグはUECL行きとなるものの、CLの本来の立場は幾分残され、下位リーグの1位も予選経由でCLへの道は残され、予選敗者が「降格」する形で、CLが1部、ELが2部、UECLが3部という形式が残るという形である。また同時に、上位リーグからも1チームはUECLに出場しなければならず、下の側でもリーグ間のつながりは残される。


カンファレンスリーグが設立された意味

UECL創設の経緯は単純である。CLやELがビッグリーグに独占されるようになり、締め出されてしまった中小リーグ側から席を増やすよう要求があったためである。これはUEFAが公式に説明した会見でも明言している(なおこの会見要旨は英語版wikipediaから容易にたどり着くことができる)。

(下記の強調は筆者)
"...There will be more matches for more clubs, with more associations represented in the group stages. This competition was borne out of ongoing dialogue with clubs through the European Club Association... There was a widespread demand by all clubs to increase their chances of participating more regularly in European competition"

「より多くのクラブのためのより多くの試合があり、より多くの協会がグループステージに代表を送ることができる。この大会は、欧州クラブ協会(ECA)を通じたクラブとの継続的な対話から生まれた……多くのクラブからヨーロッパの大会にもっと定期的に参加させてほしいという要求があった。

ビッグリーグによるCL独占は、制度上の変更によるものである。20年前の99-00シーズンには、本戦グループステージ32枠のうち16が予選なし、残り半分は予選勝者だったものが、09-10シーズンには予選なし22:予選勝者10、18-19シーズンには予選なし26:予選勝者6という枠配分になっている。

現行の制度では、上位4つのリーグ(基本的に英西独伊)の1~4位の16クラブ(=出場枠の半分)が自動的に出場可能になったのは枠配分の特徴的な点で、ビッグリーグのビッグクラブがなるべく手をかけずに本戦に到達できる仕組みとなっている。ビッグクラブを優遇してそれ以外を排除する志向はビッグクラブの意向が強く働いており、これでもなお不満なビッグクラブはリーグ内での順位がいくつであろうが必ず出場できる「スーパーリーグ」構想を打ち出し、見事に世論の反発にあうことになった。

スーパーリーグが頓挫したとはいえ、依然としてCLはビッグリーグ・ビッグクラブ優遇で、予選出場枠が6/32しか用意されていない「半分閉じた」大会であることには違いがない。

ビッグクラブは自分たちだけが独占的に出られる大会を用意しろと要求し、スモールクラブは自分たちが出場できる枠を用意しろと要求する。両者を満足させる折衷案が、階層的tier分割である。"teir 1"のトップリーグはtier 1のCLへ、"teir 2"のリーグはELへ、そして排除された"teir 3"のスモールリーグは新設のteir 3のUECLへ――というのが基本的なコンセプトである。


上位リーグがUECLに出る意味

UECLの設立経緯はそんなところだが、上位リーグからも1チームはその「欧州第3部リーグ」に出場しなければならない。件の記事ではこの「第3部リーグを「意味不明の大会」として無視する姿勢を取っている。

私はこの姿勢に反対であり、欧州SL反対の議論同様、上位と下位の間で試合をする意味はあると信じる。特に、プロモーションの意味で下位リーグにモチベーションを与えることは重要であろう。

例えばハーランドは、ノルウェーというサッカー的には全く取るに足らない国で生まれ、オーストリアという弱小リーグで頭角を現した選手である。ノルウェーのサッカー文化が停滞して子供のスポーツと言えばノルディックスキーをやらせるという状況であったなら、ハーランドという選手が出てくることはなかっただろうし、オーストリアのような弱小リーグはCLに出るべきでないのだとしたら、これほどまでに早く欧州サッカーの中心に出てくることはなかったであろう。

この御仁は上位チームだけが戦うリーグが正義でSLのような大会が理想であり、UECLのような上位と下位のリーグの交流戦が意味不明と述べるのならば、ハーランドを発掘するに至ったシステムも無意味だとけなしているのと大して変わらないのであり、件の御仁には正直ハーランドについて二度と語ってほしくない所である。彼にとってはノルウェーやオーストリアは「意味不明」なのだから彼について語るべきではないのである。

また、件の記事ではレスターシティの好調さに触れトッテナムやアーセナルの低調さをあざ笑うかのような論調だが、そのレスターシティはアンデルレヒト出身のティーレマンスやプラート、KRCヘンク出身のカスターニュなど、《取るに足らない意味不明の》リーグから選手をかき集めて躍進しつつある。件の御仁は、そんな意味不明のリーグから選手を集めた意味不明のレスターの躍進を饒舌に語るつもりなのだろうか。

また、件の記事の主題は「ビッグクラブがいつまでもビッグとは限らない」というものだが、同様に「ビッグリーグがいつまでもビッグとは限らないので、交流戦を行って査定する必要がある」というのが、UECLの基本的なコンセプトである。件の御仁はUECLを意味不明の大会と断じるならば、プレミアリーグ内でビッグ6とそれ以外が順位を決めるための試合をすることも意味不明と断じるくらいに強気でいてほしいものである。ビッグ6とそれ以外が試合をすることに意味があると感じるならば、big fiveのリーグとそれ以外のリーグが試合をすることの意味くらい分かるだろう。「意味不明の大会」などという文言で自身のコラムの価値を下げないでいただきたいものである。


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