第十一回 股関節可動域と野球の才能について (2021年1月18日)

今回は、野球の才能について考えてみたいと思います。
ここで考える野球の才能とは、「速い球を投げる事ができる」、「強くボールを打って遠くへ飛ばせる」また「速く走れる」の三つの才能についてです。当然の事ながら、他のスポーツでもこうした要素が重要なスポーツがあるので、これは単に野球の才能に限った話ではありません。

野球の才能があるとかないというのは、物理的にどのような違いがあるのでしょうか?同じ体重、身長であっても、速い球を投げられる人とそうでない人がいます。速く走れる人とそうでない人がいます。
「捻りモデル」の研究からわかった事の一つは、身長、体重など他の条件が同じであれば、股関節内向き可動域の大きい人程、こうした動作に長けているという事です。

捻りモデルで重要な動きとして、股関節内向き可動域を大きく使い、体幹にエネルギー(以下「力」とします)を溜める動きがあります。特に前回説明したピッチングの動作では、股関節可動域が大きい事がどれだけ重要かは、直感的にもわかりやすいと思います。
それでは、股関節可動域とはどの様なもので、どうすれば大きくする事ができるのでしょうか?

スライド2

多くの人は、股関節可動域を大きくと言われると、「股関節のストレッチ」という事を思い浮かべるのですが、股関節の構造そのものは、上図の様に球状の骨がカップに収まっている様な関節で、構造そのものの可動域は大きいと考えられます。

スライド3

ですから「股関節(内向き)可動域」というのは、股関節単独ではなく、骨盤も含んだ全体で考える必要があり、その鍵は骨盤にありというのが結論です。

スライド4

選手をリクルートするにあたり、選手の尻の大きさをみるという事が言われますが、これは正しい見方だと思います。骨盤が大きく横に張り出した状態であれば、左右股関節周りの捻り動作を組み合わせて、体幹により大きな「力」を蓄える事ができるでしょう。
それでは、この様な骨盤の大きさや形状というのは、どの様に決まるのでしょうか?これらが全て遺伝によるものであれば、野球の才能は遺伝で片付けられてしまうでしょう。しかしどうも遺伝ばかりでは無いようです。

スライド5

骨盤の形成について調べてみると、骨盤というのは成長期には、上図の様に三つの骨に分かれており軟骨で繋がっており、23歳頃までにこの三つの骨が繋がり一つの骨盤を形成します。それでは、この三つの骨が軟骨で繋がる前の成長期に、何らかの運動で股関節内向き可動域を大きくするような骨盤の形にはできないのでしょうか?もしそのような方法が見つかれば、強く投げる、走る、打つといった能力を、子供達に意図的に与える事ができるようになるわけです。

2014年に「捻りモデル」を発表した以降は、この様な「ある種の運動により投げる、打つ、走るといった才能を付与する事ができないか」というのが新たなテーマでした。もちろんその運動は、子供達誰もが簡単にできるもので害のないものでなければなりません。

スライド6

結論から言うとその様な運動は存在し、どうすれば良いのか大分わかってきました。しかしその方法を公表するかどうかについては、かなり躊躇しています。

野球というスポーツを、子どもが本当にやりたくてやるならいいのですが、一方で親、監督、コーチのエゴを満たすため、あるいはビジネスのためにプレーされる側面も強く感じます。この様な環境で、野球の才能を付与する方法などを公開しては、更なるプレッシャーを子供達に与えることになるのではと危惧します。多くの指導者は、野球を指導する前に、菅原裕子先生の本などを先に読むべきでしょう。

スライド7

全ての子供達を対象に、学校の体育に取り入れる目的であれば、喜んで協力します。実際にスポーツ庁に対して、こうした提案をした事はあります。もちろん何の反応もありません。
残念な事ですが、官庁が何かを主導して純粋に教育を改善するという事は、あまり期待しない方が良いようです。

しかし一部のプロや高校野球のチームなどを見ていると、こうしたアプローチに気づいている様子も伺えます。近い将来、才能ある選手の受け皿としては、12球団では足りなくなるでしょう。

一方で野球に限らず、もう一つの課題ですが、才能あるアスリートを多く育てる事ができたとしても、選手が安心してスポーツをする環境を作っていかなければ意味がないという事があります。
その為にはどうしても日本の安定的な経済発展が必要で経済の話が欠かせません。
余談ですが、予備知識無しでもわかるように日本経済の現状を説明してみましょう。

お金は、誰かが借り入れをした時に発生し返済した時に消えます。例えば財布の中のお札ですが、これは政府子会社日銀の負債ですが、同時に私たちの資産でもあります。政府と民間を合わせた日本国全体のバランスシートをみても、この様なお金の性質上、当然資産と負債が同額でバランスしています。国債についても同様で、国債は「政府の負債」でありますが、同時に保有者には金融資産なので、左の資産側にも存在しバランスしています。

スライド8

ここで日本が経済成長し、我々全員の財布に紙幣が増えて豊かになったとします。何が起こるでしょうか。
左側の資産のうち、民間の資産が増えるとともに、右の負債側で政府子会社日銀の負債が増えてバランスすることになります。この様に日本が経済成長させる為には、資産も負債も両方拡大させなければいけません。
経済成長の為のみならず、野球の発展の為にも、政府は支出を拡大することで負債を増やし、財政赤字を拡大していかなければなりません。この説明に納得いかない方々の為に、安藤ひろし衆議院議員による30分程の説明をリンクしておきます。(安藤ひろし「財政赤字は国民を豊かになるすること」

ちなみに日本国のいわゆる「国の借金」は幾らでしょうか?
実は右の負債側の一番下、黒色の「純資産」に300兆円ある通り、日本には「国の借金」はありません。日本は累積経常収支300兆円の債権を持つ世界一の黒字国です。

国債発行を「国の借金」と声高に主張する方が、いまだに存在するのは信じ難いことです。国債は利子付きの紙幣の様なもので、満期がくれば新規発行国債に置き換えていくものです。まして税金で償還するなど気が狂っているとしか思えません。
これは国債と同じく政府の負債である紙幣を「国の借金」と言い換えて、紙幣を税金で返すということをしたらどうなるか考えるとよくわかります。

バランスシート左側の私達の財布の資産である紙幣を税金で取り上げて、右側の負債、政府子会社日銀の負債である紙幣を「国の借金」と言って減らしました。何が起こるでしょうか?税金で取られた分だけ、我々が貧乏になるだけです。
更にこの日銀の負債である紙幣を、右の負債側から全部無くしました。どうなるでしょうか?左側の資産にある我々の財布が空っぽになりました。増税し国債の返済に充てるとは、正にこの様な政策で、バランスシートの資産と負債両方を減らし、国民が貧乏にするだけのものです。バランスシート全体が小さくするという事は、日本の経済規模を縮小させるという事です。
野球をする人も、経済を理解しないといけない時代になってきたようです。

「国の借金」報道に騙されないようにしましょう。紙幣発行できる政府の経済運営と家計を一緒に論じて日本経済を縮小させていっては、プロ球団の数が減ってしまうことにもなりかねません。

次回は、ミッキー・マントルらも苦しめられた「膝の故障」に繋がる動作について考えてみたいと思います。


いいなと思ったら応援しよう!