第三十一回 捻りモデルから考える運動能力を開発する方法/Part2 (2022年4月27日)

冒頭に、幾つかメジャーリーガーの写真を並べてみました。これはMike Troutです。

画像1

これはヤンキースのGerrit Cole。

Gerrit Coleトリミング

もう一枚Angelsから、Michael Lorenzenです。

Michael Lorenzen トリミング

さてこれらの写真を見てどこに目が行ったでしょうか。実はこの写真は、選手の尻の大きさがわかるように意図して並べたものです。
一流の野球選手の尻が大きいということはよく言われますし、観察から確かにその通りだと言って良いでしょう。しかしなぜ選手の尻は大きいのでしょうか。

第四回および第十回で紹介した捻りモデルのメカニクスは、両足股関節周りに発生する内向きの捻り歪みを組み合わせることで、体幹に板バネの様な歪みのエネルギーを溜めるメカニズムです。ですから尻の大きい選手は、速い球を投げ強い打球を打てるということは予想できます。また大きな体幹歪みは地面を蹴る力も大きくするので、速く走る能力にもつながるでしょう。
ここで捻りモデルのメカニクスと私の観察と直感から

1.尻の大きい選手は、速い球を投げ強く打てることができる. 
2.大きな尻は、野球の動作を繰り返すことで後天的に変化したもの.

という命題がが正しいと仮定します。実際は正しくないかもしれません。
しかし「全ては遺伝子が決める」となるのも面白くないですし、私は観察と直感に基づいて正しいと判断しているので、正しいという前提で話を進めることにします。

ということで話は「どの様な野球の動作が選手の尻を大きくするのか」というところまで進みました。どの様な動作が、写真の選手らの様な体格を作るのでしょうか?

捻りモデルのメカニクスからは、当然のごとく、後ろ足と前足に交互に発生する「内向き捻り動作」の繰り返しが骨盤に「内から外に向かう力」を発生させ、こうした動作の繰り返しが選手の尻を大きくするのだろうと予想はできます。ですからここで、

3.骨盤を内から外に広げる力は選手の尻を大きく成長させ、速い球を投げたり強く打つことができるようになる. 

上記命題も正しいと仮定します。正しくないかもしれません。しかし私は観察と直感に基づいて正しいと思うので、この前提で話を進めます。
当然、捻りモデルのメカニクスも正しいとします。第十回で紹介したピッチングの動作を載せておきましょう。両足股関節内向きに捻りを起こす動作であることを確認してください。

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次に考えなければならないのは「野球選手の尻が大きい」というのは、物理的に解剖学的に、具体的に何がどのように変化しているかということです。
野球における力学的動作において力学的な変化がみられるということは、身体にも力学的な違いがあるはずで、それは臀部の筋肉量だけでなく内向き股関節可動域を大きくする構造的変化であるはずです。

また筋トレだけで速球を投げたりホームランを打てるようになるわけでないことを考えれば、そうした構造的変化は、骨盤の構造的変化を伴うもののはずです。ですから大胆にも次の命題も正しいと仮定します。

4.骨盤の内から外に発生した力は、骨盤を広く大きくするような構造的変化をもたらし選手の尻を大きくする. 

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これは人間の骨盤のイラストで、左は女性、右は男性のものです。はたしてこんな大きな骨盤の骨が構造的に変化するということは、あり得るのでしょうか。
もしそのような変化が男性の骨盤に発生したとするならば、その変化は、左図の女性の骨盤に近づくように、座骨や恥骨部が左右に広がるような変化で、股関節内向き可動域を大きくするものであるはずです。

(105)骨盤イラスト

骨盤の状態を少し詳しく見てみましょう。

随分前に調べた文献からの記憶で出典が曖昧なのですが、骨盤は23才頃まで恥骨と仙骨及び腸骨の、色分けしている三つの骨に分かれていて、軟骨でつながっており、成人になってからこの三つの骨がつながって一つの寛骨になるということです。そうであれば成長期に恥骨と仙骨及び腸骨が軟骨でつながっている時期に、継続的に骨盤の内から外に欠けて力がかかれば、骨の大きさはともかく、少なくとも骨盤の形状に何らかの構造的変化が起きることがあってもおかしくありません。ということで命題4を拡張してみましょう。

5.骨盤の内から外に発生した力は、成長期であれば、恥骨と仙骨及び腸骨をつなぐ軟骨に働きかけ、骨盤を広く大きくするような構造的変化をもたらし選手の尻を大きくする. 

さすがにこの命題が正しいと仮定するのは、少々飛躍しているように思います。そもそも「尻が成長し股関節可動域が大きくなる」という言い方が抽象的です。具体的に何がどう成長してGerrit Coleのようになるのかは、外からの観察だけではわからず、私には説明できません。

しかし未知の世界を進むときには、あらゆるデータや情報は不足し全ての事実が証明されるのを待っていたら、どこにも進めないものです。
ここは「戦場の闇」を進む指揮官のように、経験と直感に従って命題5を正しいと仮定して前に進みましょう。

ちなみに命題5が正しいと仮定した場合、相撲や空手で伝統的に取り入れられている「股割り」は、骨盤を物理的に変化させる目的で内から外に力を掛ける目的であると理解できます。
股割りは、「股関節を柔軟にし、蹴りや突きのパワーを増やす」とされますが、命題5が正しいのであれば、その理由は説明できるでしょう。
股割りの問題は、マスターするまで根気と時間が必要な難しい動作で一般的でない事と、これは股関節外向きの可動域を大きくする動作なので、野球に必要な内向き可動域の拡大に直接的に働きかけるものではないということでしょう。しかしある程度、効果はあると思います。

股割りよりも一般的で、誰にでもできて安全で、より効果的に命題5を達成できる動作はないのでしょうか?
お相撲さんの様に子供のころから股割りをしたり、または小学生からリトルリーグに入り、中学高校でも野球部に所属し、左右の骨盤に何度も捻り動作を加える事でしか命題5が満たされたないとしたら、それは余りに厳しい道程です。
しかし股割り以外の方法で、骨盤の内側から外側に効果的に負荷をかけるのは難しいことです。なぜなら片側に負荷をかけるのは簡単ですが、骨盤の反対側を押さえておかないと、一緒に動いてしまうからです。

成長期の骨盤の中に両手を突っ込んで、内側から外側に両側にグイっと開くような、そんなことはできないのでしょうか?それでいて成長期の子供達が誰でもできて安全な動作はないのでしょうか。

骨盤左右

「僕たちは、帆もなく蒸気機関もなく旅をしたい」

それでは次回に、さらに考えを進めてみたいと思います。

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