第四十回 WBC 2023-ヌートバー選手のパワーアップとか (2023年3月31日)

WBCのタイトルを獲得した日本代表チームは、決勝においても技術とパワーで米国チームを押し込んだだけではなく、チームワークや試合後の振る舞いにおいても高いレベルで存在感を示し、日本人として大変誇りに思いました。思い返せば30年前、私が捻りモデルの研究を始めたころは、日本の選手やマスコミだけでなく総じて日本人全体が「日本人はパワーがない」と思い込んでいたと思います。一方で力学的に非力な動作を理にかなっていると思いこみ、身体が大きく力のある選手であっても「回転モデル」に基づいた非力な動作をトレースすることで力を発揮できないという悪循環にはまり込んでおりました。
大谷選手はもちろん今回の日本代表チームの大きな功績の一つは、こうした自虐的自己差別を継続する悪循環を断ったということがあるでしょう。大変誇りに思います。

さてタイトル獲得から数日が経ち余韻冷めやらぬというところですが、連合艦隊解散の辞に、

「神明はただ平素の鍛錬につとめ戦わずして既に勝てる者に勝利の栄冠を授くると同時に、一勝に満足して治平に安んずる者より直ちに之を奪う。」

とありますし、早くも米国の選手達やファンはリベンジモードの様ですから、ここはどこよりも早く「勝って兜の緒を締める」ことにいたしましょう。
捻りモデルのメカニクスなどから目についた改善点として、ヌートバー選手のパワーアップについて提案しようと思います。

ヌートバー選手は、選球眼もよくタイミングよくミートするのも上手です。股関節可動域もあり体格も良いのですが、今大会では、タイミングよくミートした打球があまり飛ばないのが不自然に見えました。
次回WBCでも欠かせない選手ですので、捻りモデルのメカニクスから改善点を提案しパワーアップしてもらいましょう。

まずは捻りモデルの動作について簡単に紹介します。(詳細については、第四回をご参照ください。)

1.捻りモデルのバッティングフォーム

下記イラストは、アルバート・ブホルス選手をトレースしたものです。

テイクバックで後ろ股関節周りに捻りの動作を行っているところです。

これは、インステップして体重を前足に移すとともに上体を前に向けながら前足股関節周りに前向きに捻りを発生させて、同時にバットを引っ張ることで下半身(股関節より下)、上体、バットを引っ張る腕の三か所で、それぞれ反対方向に向かう動作を発生させることで体幹全体に板ばねの様な直線的な応力を発生させているところです。
なぜバットを引っ張ると後ろ向きの矢印が発生しているかというと、バットを引っ張ることで作用反作用の法則により「バットが手を引っ張るから」で、バットに手を引っ張らせることで体幹に板バネのような歪み応力を発生させています。(詳しくは第四回を参照)
テニスでレシーブする動作という方がわかりやすいかもしれません。

これは、体幹に発生させた応力をボールに対してへそベクトル方向にリリースしたところです。

大活躍した米国のターナー選手の動作で見てみましょう。下記は、インステップして体重を前足に移し、上体でバットを引張始めたところです。

前足股関節中心に上体を前に向けています。へそベクトルも前を向き始めましたが、バットを後ろに残して引っ張ってるので、体幹に歪みの応力(パワー)が発生しています。

へそベクトルを完全に前に向けながらミートしました。

この打球は、満塁ホームランになりました。

2.ヌートバー選手のバッティングフォーム

次にヌートバー選手の打撃を見てみましょう。これは米国戦6回の裏満塁の場面です。

グリップが誠也グリップの方が良いとは思いますが、

インステップに踏み出しよくボールを見極めて

へそベクトル方面に、しっかりミートしています。

しかしライトの浅いフライに終わりました。これは実に不自然です。

グリップは別にすると(詳細は、第九回と第三十五回を参照)、パワー不足の原因は、イラスト2枚目、ターナー選手写真二枚目の動作、体幹に力を溜める動作が十分でないことが考えられます。つまり上体と一緒にバットが回転していることで、バットに手を引っ張らせていないのです。
米国で「回転モデル」というと、この様に上体とバットを一緒に回転させるモデルという話が言われることがあるのですが、この動作がヌートバー選手のパワー不足の原因と思います。インサイドアウトに振る軌道にすることで、パワーが戻るでしょう。

昨年、ホームランを打った映像と比べてみても違います。

ボールをよく見ていますね。ここまでは良いのですが

WBCで欠けていたのは、次の動作です。

横から見てみましょう。上体を先に前に向けてバットを後ろに残し、バットを引っ張ることで(バットに手を引っ張らせて)体幹に力を溜めているのがわかります。WBCでは、上体とともにバットが回転していたので体幹に力が溜まらず非力だったと考えます。

このホームランを打った打席では、体重も前足にしっかりと乗っていて

へそベクトルの方向に強く打っているのがわかります。

ヌートバー選手は、才能豊かで選球眼もタイミングの取り方も非常に良く、ここにパワーが加われば強打者として開花するでしょう。

しかし開幕戦の初ヒットでも、上体と一緒にバットを回転させる動作はWBCと変わらず非力に見えました。次回のWBCでも活躍が期待される選手ですし、何とかパワーアップしていて欲しいところです。

3.米国版「回転モデル」の弊害

日本では従来の回転モデルは、「バットスピードを上げる」という理解が実際の動作との乖離が多くの混乱を生みましたが(日本版「回転モデル」の弊害については、第六回を参照)、米国の場合は、上体を回転させて打つのがRotational modelだと話されることが多いようで、ヌートバー選手の例は、米国版「回転モデルの弊害」と言うところでしょう。実にもったいない。
誰か関係者がこの記事を読む機会があれば、是非指摘してあげて欲しいと思います。

回転モデルは、標準の野球理論とされていますが、選手に対して弊害が多すぎる。捻りモデルをスタンダードにしていきたいところですね。


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