第四十五回 バッファローズ vs マリーンズ, 何が違うのか(2023年10月21日)

今シーズンのパ・リーグの試合を見ていると、バッファローズのチーム力が頭一つ上と言うのが一般的な意見でしょう。しかし具体的に何が違うと2位と18ゲームも差が出るような違いが出てくるのかという問いに答える報道や意見は、あまり見当たらないように思います。
そのようなわけで、ここでは捻りモデル研究の立場から客観的に、誰にも観察できる力学的な違いについて書いてみようと思います。
パ・リーグのファイナルステージで、かなり違いがはっきしている両チームのバッティングの違いについて見てみましょう。

1上半身の動きについて
第五回で紹介したような、数十年前から日本の野球界で指導されていた動作、いわゆる「体を横に向けて開かず打つ」動作をする選手は、今のパ・リーグではほとんど見られなくなったようです。前足に体重が乗っていれば体幹の力は逃げないということが広がってきたのかわかりませんが、ここ数年でほとんどの選手が、メジャーの選手の様に上半身を前に向けながらバットを引っ張り打つという捻りモデルのスタイルに変わってきました。
バッファローズを見てもマリーンズも見ても、非力な打ち方をする選手は少ないようです。

2.グリップについて
第九回、第三十五回および第四十一回で取り上げた「グリップ」については、違いが見えていると思います。

ミートの際に、選手からボールに力が伝わると考える捻りモデルでは、ミートする際の手首の位置は重要です。下の鈴木選手のように、手首がボールに力を伝えられる形になっていればいいのですが、バッファローズの選手達のグリップの方が、こうした形に近い選手が多いようです。

なぜこの位置で力がより伝わるのか、村上豊氏の「科学する野球」から、トンカチで釘を打つイメージがわかりやすいでしょう。

マリーンズの選手では、ファイナルステージではいまいちですが、山口選手のグリップが良いと思います。安田選手はどうでしょう?

3.バットの軌道について
立てて構えたバットを、横に寝かせて引っ張ることで体幹に力を溜める捻りモデルのメカニクスでは、構えた位置からミートするまでどのようにバットを操作するかは重要です。第七回で紹介した直線的なバットの軌道について改めて紹介しましょう。

下記も村上豊氏の「科学する野球」で紹介されたバット軌道で、私は氏の考えを支持します。これは低く構えた場合の軌道でしょう。

下は村上氏の考え方から発展させて考えた場合の、高く構えた場合のバットの軌道です。

メジャーの選手がバッティングについて話すときに「速球に対しては、Plane(平面)にバットを入れる」という表現が出てきますが、このPlaneが何かというと、私はこのイラストのとおり構えた位置からミートするまでのバットの直線的な軌道を表していると考えて良いと考えています。

ところでバッファローズの選手達には、このPlaneの意識があるように見えます。直線的な軌道から外れたスイングをする選手は見当たらないです。一方でマリーンズでは、選手によっては軌道が斜めになっていてせっかくのパワーがボールに伝わっていない場合が見られます。佐藤選手がバットの軌道を意識したら化けると思います。

岡選手は、最初からバットを寝かせており、これはPlaneを意識したバッティングなのだと思って見ています。私は好きですね。

今後Planeの概念が広がってくれば、今度はPlaneの軌道に入りにくい大きな縦の変化球で攻めるなどの考えもでてきて野球は進化していくのでしょう。

4.Hesoベクトル
第四回や第四十三回で紹介したように、捻りモデルのメカニクスでは、強く打てる方向が決まっていると考えます。それは概ねヘソが向いている方向という事で、これをHeso Vsctorと名付けています。
バッファローズの選手達には、どうもこのHesoベクトルの考えがわかっているのかいないのか、チャンスで流し打ちが非常に上手なのが目立ちます。体重移動もしっかりしているので、へそベクトル方向にボールも良く飛びます。

5.両チームの違いについて
これらのうち、特にグリップとバットの軌道について違いが目立つと思います。選手達が同じようにボールを捉えたと思っても、方やファールや外野フライになるものが、方やライナーやフェンス直撃やホームランになるのでは、なかなか勝てるものではありません。しかもこれらは力学的な違いなので練習量を増やしてどうにかなるものではありません。理解して変えていかないとどうにもならないものです。
メジャーでもここ数年、ドジャース、アストロズ、ブレーブスは毎年ポストシーズンに出場していますが、こうしたチームの選手達の動作も観察してみれば良いでしょう。

(10/21投稿時点では)ファイナルステージは終わっていないのですが、こうした力学的・技術的な差があることからバファローズの日本シリーズ進出は固いでしょう。
選手たちのポテンシャルが大きく違うと思わないので、マリーンズの奮闘を見ているのは、何と言うか少々歯がゆい気がします。

各々の選手が持っているポテンシャルを十分発揮してプレーするところを、そのうち見られればと思います。

セリーグの試合は、あまり見る機会がありませんが、タイガースのバッティングもバッファローズに負けず劣らず、ポイントは抑えているようなので、白熱した日本シリーズになるでしょう。

ところで私はアメリカ野球学会(SABR)に所属し、この20年近くSABR内で発信し意見交換することを中心に活動してきましたが、久しぶりに日本の学会で発表すべく準備することにしました。12/2から始まる第一回日本野球学会大会です。

以前は、日本の学会で発表することもありましたが、捻りモデルの研究内容も学術的でないと発表を却下されることもあったのでアメリカ野球学会(SABR)に移った経緯があります。今振り返れば研究内容よりも私が学術的でなかったのでしょう。

発表した後でも「我こそ「科学する野球」を書いた村上豊氏の正当な弟子で「科学する野球」に関して発表するようなことは許さない」といった脅しの電話がかかってきたり、捻りモデルの著書を出版した後でも「捻り打ち」という捻りモデルとは全然違う内容の指導方法をジャイアンツに売り込んだ御仁がいて、その「捻り打ち」と「捻りモデル」が混同されたり、まあ魑魅魍魎が湧き出てくるように感じたものです。
もちろん少年野球のコーチからテレビのコメンテーターまで、捻りモデルのメカニクスについては誰もが批判的だったので、誹謗中傷にさらされて研究が潰されないように注意する必要がありました。

今であれば、アメリカ野球学会機関紙に研究内容を発表できていること、2021年から大谷選手のバッティングフォームが大幅に変更(捻りモデルのメカニクスに沿った形で変更)され成功していること、それを見たNPBの選手達のバッティングフォームも捻りモデルに近い形に変わってきてパワフルになっていること、研究者の中から捻りモデルをベースに研究発表している例もでてきたこと、などから日本の学会で活動する環境は整ってきたのかと思います。日本野球学会が発足したということですから盛り上げていきたいと思います。

これを読む人達の中で、第一回日本野球学会大会に参加される野球関係者がいましたら当日は意見交換できればと思います。
野球はビジネスで各チームのメカニクスや育成方法はマル秘だとされていますがチームや個人で抱え込むのではなく、発展させたメカニクスや育成方法の知見を広げることで、野球だけでなく日本のスポーツ全般を発展させていければ良いですね。

(追記 10月27日)
昨日のドラフト会議で、オリックスの指名が1位から4位まで高校生だったという話が出ています。

【ドラフト会議】オリ 4位まで高校生指名の独自路線!「あと何年黄金期やねん」「育成に全振り」の声

これも大きな違いだと思います。捻りモデルの立場からは、骨盤の形状がまだ定まっていない若い選手を取って育成するという方針に賛成です。
第三十二回 捻りモデルから考える運動能力を開発する方法/Part3 (2022年4月29日)で紹介したとおり、その様な育成方法の確立に特別費用や設備が必要ではないので、地方の独立リーグのレベルも上がりプロ野球チームが12球団というの少なすぎることになると予想します。
更に応用すると学校体育において、バランスの良い骨格を育成するという方針で簡単な体操を導入することで、日本人全体の体格や運動能力を向上させることができることでしょう。

そうした話を野球学会でもできればよいですね。

(追記 2024年5月7日)
気のせいか佐藤都志也選手のバットの軌道が改善されているように見えます。見た打席数が少ないので何とも言えませんが、昨日の流し打ちも良かった。Planeやへそベクトルを意識したバッティングに変わっていたらと思います。


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