第四十四回 元首位打者 チャーリー・ブラックマンが語る(2023年7月4日)

ロッキーズというチームは、私には馴染みがなくCharlie Blackmonという選手も知りませんでした。この選手について、6/24にスポニチアネックスから、よくこんな記事を配信してくれたと思うような記事が配信されていたので、記事を紹介すると共にブラックマン選手が何を語ったのか考えてみようと思います。

「ローンチアングル」、「バットスピード」への意識変化、元首位打者ブラックマンが語る

原文は、この六年の間にいかにピッチャーの攻め方が変わってきたかについてなど、より臨場感のある説明なので、リンクも貼っておきます。

Charlie Blackmon Revisits Launch Angle: by David Laurila, June 22, 2023, FANGRAPHS

日本語記事のリンクがいつまで残っているかわからないので、続きをコピーして下記に添付いたしましょう。

この「長打率が高ければチームの為に得点を挙げられて、それで世界は回っていてお金ももらえる」というのは、大リーガーらしい面白いコメントですが、私が今回興味を持ったのは、その次に語ったことです。

私が興味を引いたのは、原文ではインタビューに最後に語った箇所のようです。Laurilaというのがインタビュアーで、下記に抜粋します。

Laurila: Any final thoughts on hitting?

Blackmon: “Where is hitting going in the future? We have all these pitch labs, and there is a lot of data that can help quantify what’s good, what’s hard to hit, from a pitching standpoint. Conversely, the only thing we really have right now from a hitting standpoint is exit velocity and launch angles. There is some stuff I’d like to see, such as the time from when a bat starts moving forward to the time it makes contact.”

Laurila: How does that differ from bat speed?

Blackmon: “It’s very different than bat speed. It’s like a 747 racing a Porsche over 100 yards. The 747 is ultimately going to go way faster, but the Porsche is going to get there just like that. I mean, the bat speed will help determine how far the ball will go, but the most important thing is to be a good hitter first. Efficiency to the ball and being able to make your decisions a little bit later… I would bet that Luis Arraez has a very fast time to impact from when he starts moving his bat toward the ball. I’d bet that time, if you can quantify it, is way shorter than it is for Giancarlo Stanton. Stanton is going to hit the ball way farther, but Arraez is going to hit .400 and likely be the more productive player. Which one would you rather have?”

Laurila: You said earlier that you value slugging over on-base.

Blackmon: “You want both, right?”

日本文の記事では「私が今知りたいのは、バットが前に、ボールに向かって動き出してから当たるまでの時間を計ったデータだ。これはバットスピードとは違う。」とあり、これだけでも十分謎ですが原文では、もっと面白い言い方をしています。簡単に意訳すると、

ピッチャーにはPitch labなどがあるのに、打者にとっては打球速度と打球確度しか入手できる情報がない。しかしその他に「何か」がある。その何かは、例えば「バットがボールに向かって動き出してから当たるまでの時間を計ったデータなどだ。」とのこと。
インタビュアーが、その「何か」は、バットスピードとどう違うのかと聞くと、その違いについて100ヤードをボーイング747とポルシェでレースするようなものと説明しています。

これもバットスピードだけを考える従来の回転モデル理論しか頭にないと、何を言っている皆目見当がつかないことでしょう。
そこで今回は、ブラックマン選手が何を言おうとしているのか、捻りモデルのメカニクスから謎解きをしてみることにしましょう。

ここでは、ブラックマンが名前を挙げているマーリンズのルイス・アラエスのバッティングフォームを例に考えて見ましょう。

捻りモデルのメカニクスでは、バッティング動作は、体幹にひずみのエネルギーを蓄える動作と、蓄えたエネルギーをリリースするという二種類の違った動作を続けて行うと理解します。(詳細は第四回を参照)
アラエスの動作は、エネルギーを蓄える動作とリリースする動作を、ひかっく的はっきり分けているように見えます。まずはエネルギーを蓄える動作です。

バックステップから、前足に体重移動していきます。

前足に体重移動した後で上体が前を向いていきながらバットを引っ張ることで、体幹にひずみのエネルギーを溜めていきます。

ここまで(下記)が体幹にエネルギーを溜める動作です。バットをしっかり後ろにして引っ張っていますね。ここからバットを前方に出していきます。

ここでブラックマンの言葉を思い出してみましょう。
「私が今知りたいのは、バットが前に、ボールに向かって動き出してから当たるまでの時間を計ったデータだ。これはバットスピードとは違う。」
アラエスのバットが前に向かって動き出すのはこの動作からなので、この位置からボールに当たるまでの時間を知りたいということでしょうか。

さて体に力を入れてバットを前に振り始めています。

ここでミートしています。さて、

"There is some stuff I’d like to see, such as the time from when a bat starts moving forward to the time it makes contact.”

で言っている、バットの始動からミートまでのプロセスは、このバットが90度動くだけのプロセスのことでしょう。
では、この動作におけるsome stuffとは何でしょうか?

“It’s very different than bat speed. It’s like a 747 racing a Porsche over 100 yards. The 747 is ultimately going to go way faster, but the Porsche is going to get there just like that."
何か違った二種類のstuffが、競争しているような説明です。

捻りモデルのメカニクスでは、バットを少し振り出してボールをミートする時に、体幹からの応力が最大になると考えます。またこの応力最大のポイントとバットスピード最大のポイントは同時には発現せずズレがあります。
現象として、最初に体幹からの応力が発現し、それによりバットが押されて前に進んでいき、次にスピードが発現していきます。こう考えるとブラックマン選手が知りたいsome stuffというのは、「体幹からの応力」とその作用とのことでしょう。
バットスピードしか考慮しない既存の回転モデルでは、確かにこのsome stuffが抜けていますが、捻りモデルでは重要な要素として考えられています。

さてアラエスのフォロースルーはこんな感じ。腕が前に伸びて前方に直線的に打っているのがわかります。

体重移動もしっかりしていて、捻りモデルの観点からは良いフォロースルーだと思います。

このまま4割打てるといいですね。


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