第八回 体重移動とStay Back(2021年1月13日)

古い動画ですが、現日本ハムファイターズ監督の栗山さんでしょうか、バリー・ボンズに打撃について聞いていた動画(天才たちの打撃理論Ⅰ「後ろ大きく前小さく」【後編】)から抜粋(5:50辺り)いたします。利き手についても面白い話をしていますが、今回のテーマ「体重移動」について、バリー・ボンズの気持ちに迫ってみましょう。

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ここで言う軸足とは、左足(ボンズは左打ち)の事を言っています。

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あらかじめ後ろの軸足を強く意識しておくと、

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一瞬ボンズの姿が、ミスターとかぶりました。ボンズにも捻りモデルが必要なようです。

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このStay Backという言葉は、日本には「体重を後ろ足に残して打て」と伝わったようです。しかし3枚目の写真では、ボンズは「軸足(後ろ足)に体重を残したママでもダメ」とも話しています。どういうことでしょうか。
この辺りのボンズの説明を簡単にまとめると「後ろ足を強く意識してバランスをとるとともに、キャッチャー方向に少し倒して回転する」という事のようです。「捻りモデル」の立場からボンズの気持ちに迫ってみましょう。

「捻りモデル」の板バネモデルからは、バネの片一方を地面にしっかりと固定していないと強く弾けないことを示唆しています。この為、体重移動をしっかりした方が強く打てることになります。
前足への体重移動をしっかりする方が強く打てるという事では、ボンズのコメントとも一致しています。

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ボンズの打撃を確認すると、やはり明らかに前足への体重移動はしっかり行なっています。ここでキャッチャー方向に少し倒して打つと何が起こるのでしょうか。

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ボンズが軸足を後ろ足と言っていることから、後ろ足に体重を残して回転する動きを想像してしまいますが、前述の通り、「捻りモデル」では体重移動をしっかりしないと強く打てないことを示しています。この事から、前足を軸に回転しているコマと考えれば良いと考えます。

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キャッチャー方向に倒す、つまりこれはコマを傾けた状態です。

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この傾けたコマで発生するのは、歳差運動いわゆる「首振り運動」だと考えます。ボンズの上半身が「首振り運動」により、前を向くことで「捻りモデル」でいうバットを引っ張って力を溜める動作を助けていると考えれば納得がいきます。

ボンズの長い足と上半身の重さ(質量)のバランスにより、ちょうど良い具合に打てるポイントがあるのでしょう。バランスをとることが大切という通りですが、恐らく誰にでも当てはまる打法ではないでしょう。
前足を軸にした回転と首振り動作を利用して体幹に力を溜めて打つというのがボンズの打撃ということだと理解できます。

「捻りモデル」は、バットの軌道は直線と円軌道の組み合わせである楕円軌道と考えます。ボンズの打撃でもこれは変わりません。
ボンズの打撃で特徴的なところは、前回説明したエネルギー(以下「力」とします。)を溜める動作(「ダッ」という動作)にコマの歳差運動を利用しているところで、「力」をリリースする動作(「パーン」という動作)では「前に大きく」楕円軌道を描いていることが見て取れます。

ボンズのバッティングは、様々な球種の球を打撃ポイントまで引きつけてホームランにする技術が素晴らしかったと記憶しています。
その鍵は恐らく、この「力」を溜める「ダッ」というプロセスに、タイミングよくコマの首振り運動の動作を組み入れたところにあるのでしょう。
低い位置に構えているのも私の好みです。テクニックを持った素晴らしいホームランバッターでした。
残念なことに薬物疑惑の影響で、Mark McGwireなどと同様に野球殿堂入りはできなかったですが、私は今でも最も優れたホームランバッターとしては、バリー・ボンズを挙げたいと思っています。

90年代は「野球では筋肉増強剤は許されている」など雑誌の記事にも書かれており、「野球では筋肉増強剤はいいんだ。なぜ?」と考えた事を記憶しています。後になって薬物疑惑を問題にするのはフェアではありません。人の世では、よくある事ではありますが。

第一回で、日本球界で突如「体重を後ろに残して打つ」スタイルが広まり、フラストレーションが高まった話をしました。それは、後ろ足を「軸足」としたり、Stay Backの翻訳「体重を後ろに残して打つ」が適切でなかったのが原因だったというわけです。最も何と訳すのが良かったのか、私にもわかりません。いずれにしても後になってどうこう言うのはフェアなことではないでしょう。

次回は、理想的なグリップについて考えていこうと思います。

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